道の駅 美濃にわか茶屋
長良杉を用いた木造の防災拠点施設です。燃え代設計を用いた準耐火建築物で、美濃和紙や県産の広葉樹家具などのインテリアも見どころです。(岐阜県美濃市)
第五回木の建築賞 大賞(NPO 木の建築フォラム)2009年
■産・官・学・民 協力による計画
美濃市は、長良川河畔(江戸時代の川港)に国土交通省設置が認定する道の駅を計画するにあたり、2003年度から全5回の市民懇話会を行い地域住民の意見を集め、翌2004年度には運営グループと施設グループに別れ、美濃市周辺地域の経営者や建築関係者を集めて全5回の実施計画検討部会を開催し、計画概要を確定した。その後、プロポーザルコンペにより設計者を選定するとともに、これまでの市民の意見を反映し、地域材を利用した防災拠点施設および地域活性化拠点として「道の駅美濃にわか茶屋」の実施計画がまとまった。
また、計画地に隣接する学術施設「岐阜県立森林文化アカデミー(専修学校)」の林業や中山間地域活性化、木造建築、木工の4つの専門分野における地域林業振興をふまえた森林や木材に関する幅広い知識と実践力があることを活かし、地域材を活用した木造建築の技術支援・協力をあおいだ。
■材料から架構を考える(長良杉利用における効果)
計画に先立ち、長良川河畔の「川港」という歴史的産業背景と環境側面を勘案し地域ブランド「長良杉」のプロモーションマネジメントを兼ねることとし、敷地上流域の長良川及び板取川の木材蓄積量と、伐採が必要な山林の状況を調査した。結果、7齢級~9齢級(35年生~45年生)が突出して多く、戦後造林された杉林分が伐期を迎えていることが判明した。(補足資料:図1)これは、全国的に見ても同様の傾向があり、森林の現況と環境側面さらに林業活性化のための市場流通性を意識した地域材利用のモデルケースとなるように計画した。
まず、実際に売りたい材は何かを林業家や森林組合にヒアリングを行った。その結果、すでに伐期を迎えた商品価値のある材を適正な価格での購入を望むことがわかった。そこで建築だけではなく、地域林業振興を図るには、7~12齢級(35~60年生)の木材を使用することにターゲットを絞った。10年から20年後にはこの齢級が伐期に入り、今回がその先導モデルになることを実証するためである。
ただし、齢級の高い樹でも、よく成長した太い樹から、成長が悪く細い樹まで様々である。そこで、胸高直径の分布(補足資料:図2)を調査し、特に断面の大きな材を選択して伐採(拓伐)し、葉枯らしの後製材した。さらに、太い丸太でも梢端部へ行くほど、細くなる(補足資料:図3)。そこで、切り出した材から取れる断面の割合比率を検討(補足資料:図4)し、材断面の分布(補足資料:図5)を作成した。伐採した材を歩止まりよく使い切るように、各棟で構造形態も変えつつ、構造材、板材の利用計画を進めた。つまり、設計後に材を拾い発注するのではなく、計画の前提条件として地域に成立する木材の実状に合わせた構造計画とした。このように、十分に育った材を適正な価格で購入することで、地域林業、健全な森林管理の継続性を図っていくことを考えた。
■防災拠点機能と木質構造との両立を図る木造準耐火建築物
これからの地域における公共施設の役割を考え、安全性能に特に配慮した。つまり、建築基準法で定められる基準より一段階性能を向上させ、防災拠点施設となるように自主基準を設け計画をたてた。
耐震性能は、建築基準法で想定している震度5弱程度の中地震時における損傷防止、震度6強程度の大地震時における倒壊防止に対して、1.5倍の耐震性能を持たせ、地震時においてもゆとりのある構造計画とした。また、暴風時の想定も美濃市の基準風速32m/sに対して、34m/sとして設計した。防耐火性能に関しては、建物を木造の準耐火建築物(イ準耐)として、各部位に準耐火性能を持たせた構造とした。構造躯体は、木造本来の架構の美しさを出すために、真壁構造とし、柱や梁などの構造部材は燃えしろ設計を行った。鉛直荷重の支持に必要な断面に45mmづつのゆとり(燃えしろ)を持たせ、45分の火災に耐える性能とした。
また、防災拠点施設として、防災備蓄倉庫の700人分の非常食や、停電時に機能する非常用発電設備115KVA、断水時でも使用できるトイレ、40tの飲料用貯水槽の機能を設置した。
■流通過程における省CO2の取り組み(ウッドマイルズ評価による地域材利用の効果検証)
地元の杉材の使用材積は500m3を越え、近くの山から供給した(補足資料:図6)ことで、輸送時における環境負荷を大きく減らすことができた(補足資料:図7)。外材が約7割といわれる日本の平均的な木材使用と比較して、約11.6万kg-CO2(ガソリン約49,000リットル分)のCO2排出量を削減したことになる。また鉄骨造と比較した場合、製造・輸送時のCO2排出量の24.5万kg-CO2を削減するという試算となった。
また、構造材に関しては、伐採段階からの部材供給に関わったこともあり、トレーサビリティ(流通把握度)は100%である。施設全体で見ても、合板として使用した材の一部の産地(森林)が特定できないのみで、流通把握度は91.7%である。
これらの結果は、美濃市HPおよび市民広報誌を通じ発表した。市民環境団体からも高い評価をえるとともに、市内中等教育での学術教材資料として活用された。
■地場産業の若手グループとのコラボレーション(美濃手漉き和紙を使用したインテリア)
美濃市は古くから和紙の産地として知られてきたが、効率的で長尺がとれる機械漉きが増加し、伝統技術が失われつつある。そこで地元の若手和紙職人グループに呼びかけ、手漉き和紙の特徴を活かしたデザインを模索した。美濃手漉き和紙は縦横に繊維が絡まり高い強度がある反面、大きさは限られる。そこで、伝統的な京間版の美濃和紙に「こより」を漉き込み三枚連結したタペストリーを天井から吊した。また、岐阜県の木であるイチイや藍などの自然染色を施したり、透かしの技法で文様を漉き込むなど、若手職人の特徴を活かした和紙を建物の各所に使用した。端材は丸くくり抜き、リズム良くガラスに貼ることで戸当たり防止材として使用した。
■二次林施業広葉樹家具の学校とのコラボレーション(県産材広葉樹を利用した家具計画)
本施設に設置された家具は全て、岐阜県産材である。特に情報交流室に置かれた大テーブルやスツールは、広葉樹の間伐施業や道路拡幅工事に伴い産出された5~60年生の二次林間伐を行った伐採木を利用している。このため、まとまった数量や材幅が確保できないため、7種類(栗、胡桃、栓、楢、ニレ、桜、ブナ)の樹種と小幅の部材をデザインに取り込むことで、均質ではない地域材利用に無理なく対応した。また、曲木技術によって、乾燥過程の短縮を図り未乾燥材ストックの利用を可能にした。
この様な家具製作には、岐阜県立森林文化アカデミーが試作協力を行い、数量が求められる製品加工は家具産業で有名な岐阜県高山市の職人養成機関の塾生に制作依頼を行った。
■地域からの情報発信機能
国土交通省、及び美濃市が設置する情報板が各所に配され、道路情報や災害情報などが即時発信される。また、各売り場においても、什器に仕込まれた掲示機能により、地域で算出する商品情報等を提供できる機能が埋め込まれている。
さらに、西棟には岐阜県立森林文化アカデミーの学生が企画・運営するビジターセンターを設け、美濃市ならびに周辺地域の情報提供と自然体験の拠点施設として位置づける。また、インタープリター(解説員・案内員)の配置やハンズ・オン形式の展示など、直接的な情報伝達により美濃のまちへと誘う機能を持たせた。運営には地域住民が積極的に参加することで長く愛される施設となるが、その仕組みづくりとして、岐阜県立森林文化アカデミーの学生及び教員たちも、これらの機能を後ろから支える協働スタイルをとった。
■半径5kmに納まる地域工務店によるメンテナンス体制
施工した工務店5社は道の駅から半径5km以内に納まっており、利用者としても頻繁に訪れるため、運営側との密接な関係より柔軟なメンテナンス体制を構築している。この結果、計画時に想定していなかったイベントのための取り外し可能な半透明建具を製作する事態が生じたが、再度設計側とのデザイン調整もしつつ短時間に実現できた。
■国土交通省、文部科学省の2省が関わるプロジェクト
国土交通省認定の道の駅を舞台に、文部科学省のH19年度文科省放課後活動支援モデルを受けてビジターセンターにおいて境教育実習を運用した。このビジターセンターには、開駅初年度には、一年間で10万人以上の来場があり、1万5千人以上の方に展示解説、プログラムの提供(週末のみ)を行った。現在も、情報コーナーでは、季節に合わせて展示の入れ替えを行なっており、旬の情報を提供している。
■関連論文発表:1)富田守泰 辻 充孝;「公共建築物(道の駅)におけるスギ製材の利用と課題」,木材学会2007
2)Katsuhiko Kohara and Mitsutaka Tsuji; “A Study on the Educational Effect of the Timber Building Design with the Regional Timbers Based on the Inhabitant Participation Workshop “, the 11th World Conference on Timber Engineering 2010.6, Riva del Garda, Trentino, Italy