設計趣旨・構造計画
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挑戦的な木構造が生み出す美しいデザイン
設計に当たって、この森林文化アカデミーの環境と建築が伝統と未来を繋ぐ歴史的なインターフェイスの象徴となり、また森林と都市との新たな共生のあり方を提示しながら、21世紀の人材育成の森林産業の活性化を促す日本のモデルとなるよう心掛けました。
建築設計/(株)北川原温建築都市研究所
受賞一覧
- 日本建築学会賞 教育賞(教育貢献)(2007)
- ケネス・ブラウン環太平洋建築文化賞大賞(2007)
- 公共建築賞 特別賞(2006)
- イタリアIA賞 1位(2006)
- アルカシア建築賞 ゴールドメダル(2003)
- 日本建築学会賞 技術賞(2002)
- BCS(建築業協会)賞(2002)
- 松井源吾賞(2002)
- エコビルド賞(2002)
- カナダ・グリーン・デザイン賞(2001)
- 中部建築賞(2001)
設計趣旨
森と都市の境界空間
稲山正弘の構造と構法はこのプロジェクトのロケーションのイメージにピッタリだった。「岐阜県立森林文化アカデミー」は岐阜県美濃市の美しい山間の懐にある。演習林の山を含めると40haの広さになるが建物を建てることのできるスペースはごくわずかしかない。できる限り地形をいじらず無理なく建てられる場所を選んだ結果、施設はいくつかの場所に分散した。
それらを間伐材でつくられた大きなステージ(既存の調整池を修景したもの)を中心に連結していくフォレストウォークを提案した。フォレストウォークにはフォリーなどが配されているが今後この学校の実習や演習の一環としてさまざまな要素が加えられ、次第に浮き彫りにされていくだろう。
敷地はいわゆる典型的な里山に位置している。里山は森の恵みと都市の知恵が接するもっとも豊かな農林業の生産領域であった。森のめぐみである木と、その木に最小限の手を加えるだけで建築を建ち上げる都市のインテリジェンスとしての稲山の技術が融合した建築が出来上がった。森と都市の接点に自然に生まれたという感じがする。
86,000本の間伐材を使う
「岐阜県立森林文化アカデミー」の建設に使われた間伐材は建築で3,000m3、外構で800m3を超える。
すべて岐阜県産である。本数にして86,000本、約150haの人工林の間伐を行ったことになる。かなりの量ではあるが、岐阜県が緊急に間伐を必要としているという森林面積103,000haの0.15%にも満たない。同県の森林面積86万haのうち人工林は37万haで、県では年間8,000haの間伐を目標としている。
日本全国で見ると国土の65%、2,500万haが森林で、そのうち1,000万haが人工林、そしてその60%、600万haが間伐期を迎えているといわれている。間伐を施さなければ森林は荒れ良質の木材の産出ができなくなるだけでなく災害の原因にもなる。そして一番の問題は荒廃し痩せた森林は大気中のCO2の吸収能力が激減する。もちろん間伐をしてもその間伐材を燃やして処理すればせっかく木として固定されたCO2を大気中に放出してしまう。そこで間伐材の活用が叫ばれているわけだ。できる限り多量の間伐材を使う。それがこのプロジェクトの重要な課題だった。
隙間や溜まりをつくる
ここで展開される活動は森がもたらす情報や資源と、都市からやってくる人と情報が接し、その交流から新しい自然資源産業を生み出す。森と都市の接点におかれたインキュベータのようなものだ。この建築のプランニングでは敷地の特徴である都市と森との境界領域、つまり複数の要素が接したり交わる空間-中間領域をやわらかな骨格として設定し、そこにプログラム上の空間を配していった。結果としていたるところに隙間や溜まりやVOIDができ、それらが連鎖的に施設全体をつないでいった。
(新建築2001年8月号より抜粋)
構造計画
県産材の積極活用のモデルケース
構造用集成材はできるだけ使用せず、岐阜県産の針葉樹(主に杉材)を利用した。県産材を活用しながら低コストを実現するために、36cm以上の断面や6mを越える部材の長さが必要な場合には重ね梁や合わせ柱などにすることにより木造住宅用市場流通材の断面・長さの範囲に押さえた。また、大断面材が必要な箇所には岐阜県内で入手可能な寸法の丸太材を乾燥して使用した。充分乾燥した材を用いたため、丸太材は人工乾燥炉に入る長さという条件を加えて架構を設計した。こうして、県産材を活用しながら低コストに押さえることを実現した。さらに、使用した木材は、高周波式含水率による含水率測定を行い、打撃音縦振動周波数FFTアナライザーによる動的ヤング係数の測定を行った。使用した丸太材(139本)の比重は平均0.44、含水率は平均17.06%、ヤング係数は813kN/cm2であり、ばらつきも少なかった。一般的な杉材の比重は0.38程度、ヤング係数は784kN/cm2程度であるので、使用した丸太材の比重及びヤング係数は高く、構造材として安定した性能を有する木材を岐阜県産材で充分揃えることができた。
基本方針
伝統的な仕口の原理を応用した粘り強い接合部による高耐震木質構造
接合部にはむやみに鋼板を用いず、相欠きや目違など木の異方性を活用した木造仕口の原理を応用した。センターゾーンとテクニカルセンターでは、節点を木材のめり込みモーメント抵抗接合とした面格子耐力壁(面格子構造)を用いており、耐震性能に優れた木質構造を実現した。
部材を節点に集中させない架構で接合部のコストダウン
断面欠損を極力少なくするために、部材を集中させないように1節点に2部材までを原則とし、部材を別の節点からずらして架構を架けることで、複雑な接合金物を極力少なくし、コストダウンを図った。森の体験ゾーンでは、丸太材を用いた立体架構トラス(樹状立体トラス構造)で大空間を効率よく実現させているが、部材を節点に集中させないことで丸太材の立体トラスにつきものの複雑で高価な接合金物の使用を回避することが可能となった。
地元大工主導による精度の高い架構と施工
岐阜県は優れた伝統技能を受け継いできた日本有数の職人産地であるので地元の大工の腕前を信頼した仕口の精度及び、木を知り尽くした大工主導の建方による「いい仕事」を前提に設計した。
主要構造形式
面格子構造
105mm角の材を縦横に相欠きで組んだシングル面格子では、縦材同士は間に横材を入れてずらして留め、横材同士は幅1間以内に設けた通柱をほぞで貫通して蟻継ぎで接合した。90mm角の縦材を二丁合わせにしたダブル面格子では、縦材との相欠き部分の内部で横材同士を蟻状に突出させたものを合わせ、縦材で挟んでボルト締めし、継ぎ目を隠して高さ9m×幅16mの一体化した壁面を実現した。
樹状立体トラス
連続した方杖構造により、常時荷重に対しては圧縮と曲げ、短期の水平力に対しては逆に引張が生じる部分がある。枝が出る部分の仕口は傾ぎ大入れボルト締めを基本とし、木口で圧縮力を伝達し、引張に対しては台形ほぞとシアプレートというジベルで抵抗させた。竜骨材と丸太材の接合部は竜骨材同士を金輪継ぎして、両側から丸太材で挟んでボルト締めをした。柱脚部は、丸太材の乾燥のための背割りを利用した鋼板挿入ボルト接合とした。