木工専攻
卒業生の進路

渡邉 聡夫

自動車メーカーから転職、シェア工房開業準備中、地域材利用の社団法人でも活躍

卒業生の渡邉聡夫さん

プロフィール

1965年生まれ、東京都出身。神奈川県相模原市の相模湖エリアでシェア工房の運営を目指して工房を整備中。同時に同エリアで活動をする一般社団法人 さがみ湖 森・モノづくり研究所(通称MORIMO)の運営にも携わる。

 


質問1)森林文化アカデミー入学前は、何をしていましたか?

自動車メーカーで30年あまり、管理部門を中心に仕事をしていました。一方、休日は趣味で木工教室に通い、手工具での無垢木材の家具作りを15年ほどやっていました。

質問2)アカデミーへの入学を選んだきっかけは?

木工の専門学校はいくつかありますが、年齢的に木工技術を高めることでキャリアを積むことは想定せず、木工技能だけではなく、樹木の生態、林業を取り巻く課題など樹や山に関わる幅広いことを学ぶことを通じて、今後の自分の社会での役割など、進み方を考えることがができると思ったからです。

質問3)アカデミーではどんな学びを得ましたか?

専攻の木工の技能基礎知識はもちろんのこと、木材、樹木、森林の役割、林業など薄くですが、幅広く学ぶことができました。専攻を超えた学びの機会がもっとあればよかったと思っています。

質問4)専門分野以外の授業やプロジェクトで、役立ったものはありますか?

林業経営を学ぶ授業で、森林組合などの林業事業体がどのように収益を得るのかなど、具体的な経営内容を知ることができました。現在、林業事業体の方と仕事をする際に、先方の事情を汲み取ることができるなど、大変に役立っています。

また課題研究としてビニールハウスでの木材乾燥に取り組みました。伐採から始める木材利用で必ず課題になる木材乾燥について深く知識を得られたことが、現在の仕事に役立っています。

質問5)今の仕事内容を教えてください。

MORIMOは神奈川県相模原市の委託事業として、市立小学校の学習机天板を合板の物から市内で伐採された街路樹(広葉樹)等で作った板の物に交換する事業を主とする団体です。高い加工技術や品質を求められる仕事は少ない一方で、地元産材利用促進の旗振り役でもあるので、行政をはじめとするとお客さまのスギ・ヒノキ材でのモノづくりもあります。

MORIMOでは生産管理(日程管理、木材調達、機械設備の管理、検品などの品質管理など)、お客様対応(要望の聞き取り、設計、納品、集金)、調達・外注管理(製材所、林業事業体、外注先との調整)、木育イベントでのインストラクターなど何でも屋です。

一方で週末に自分の工房開設の準備を進めています。

MORIMOに集まる都会の地域材の丸太

街路樹、公園の樹がMORIMOに集まる。ケヤキ、ソメイヨシノ、コナラ、イチョウなど樹種は多彩。

質問6)今の仕事で大変だなと思うことと、やりがいを感じることを教えてください。

MORIMOは人材不足のため仕事が多すぎることが大変です。一方、メンバーとの協働で製品の品質が改善され、お客様に喜んでもらえる事は、モノづくりの基本的な喜びで、やりがいでもあります。

質問7)今の仕事を通して社会にどんな貢献をしていると感じますか?

街で伐採された樹(街路樹、公園の木)を製材、乾燥、加工の工程を経て、小学校の学習机の天板を作っています。従来はカスケード利用(より品質の低い用途に再利用すること)程度だった伐採樹木を生活の道具として利活用できている事は、社会的に意義があると思っています。

小学校の机の天板を地域材のものに交換

老朽化した合板の天板(右)を、街の木を使った天板(左)に交換。

質問8)アカデミー入学前の仕事やアカデミーで得た学びが、今に活きていると感じることはありますか?

■会社員経験

社会人、ビジネスパーソンとしての基本が活きています。具体的には仕事の進め方、グループ運営、お客様や外部関係者との良好な関係構築をしながら交渉をすること、文章や資料の作り方、収支計画の考え方などなど。会社員経験での人脈も活きていると感じます。

■アカデミー

材料としての「木材」と生きている「樹木」を繋げて考えられる事。そしてその樹木が育つ山の状況も含めて考え、そして木や山に興味を持ってくれた人に説明ができるようになれたことは、現在の役割に活きていると感じます。森林、木材利用の業界は狭いので、仕事をしているとアカデミー卒業生やアカデミーでの2年間に知り合った方と再び関わることが多く、人脈も活きています。

質問9)今の仕事をしていく上でのモットー、若い人へのメッセージは?

国内では地球環境問題への取り組みと共に木の利用を進めることが急速に求められていますが、社会には木の利用、木のモノの作り方に関する知識を持っている人が少ないです。現代社会が森林や木質利用から遠ざかってしまったことの現れだと感じます。「木工」といえば「木工技能でモノを作ること」が主ではありますが、木工や木材利用の知識で社会のニーズに応えることも求められていると思います。