木工専攻
卒業生の進路

福島 計一

「モノ(物)づくり」で「モノ(者)づくり」
~ヒト・モノ・コト・シゼンをつなぐ環境教育・木育のインタープリター~

共育工房IPPO 主宰
1973年生まれ、神奈川県出身。子どものころ、近所の雑木林や畑の中を、虫や鳥、花を探して走り周った原体験を持つ。大学在学中、慣れ親しんだ神奈川県西部の丹沢山塊で起こっている様々な環境問題に触れたことがきっかけで、「環境教育」の道へ進む。その後、環境教育施設でのインタープリテーション(自然解説)業務を得て、2007年にアカデミーに入学。木工の基礎を学びながら、木育教室の企画と運営を実践。在学中に「共育工房IPPO」を立ち上げて、現在に至る。

 


質問1) 今の仕事内容を教えてください。

環境教育で培った「伝え手」としての経験に、木工で培った「作り手」の経験を加え、環境教育と「モノづくり」を通した「日本型の環境教育=木育」に取り組んでいます。

主な仕事内容は、

①「環境教育・木育指導者」として、幼稚園や保育園、小学校、行政機関、NPO団体などへ赴き木育や自然体験プログラムを企画・運営しています。岐阜県内では、主に「ぎふ木育推進員(岐阜県知事より委嘱)」として活動しています。

②「環境教育・木育コーディネーター」として、年間を通して取り組もうとする保育園で「環境教育・木育カリキュラム」の企画・運営、また、環境教育・木育を実践できる保育士を養成するお手伝いをしています。

③「環境教育・木育指導者養成講座などの講師」として、全国を飛び回っています。

その他、主催事業として、ガイドハイク(野山歩き)や雪遊びなども企画・運営しています。

 

 

質問2) 今の仕事のなかで「キツいな~」と思うことと、やりがい(やっててよかった~)に感じることを教えてください。

 

プログラムの企画から実施までの一連を「10」と例えるとしたら、人前に出るのはそのうち、わずか「2か3」。仕事の大半は、先方との打合せや事務仕事、準備などといった裏方の「見えない仕事」です。ましてや、先方は「毎回同じ」とは限りません。「相手が変われば中身も変わる」。プログラムの企画と運営においては、打ち合わせや野外の下見といった、「足でかせぐ」ということがとても大切になってきます。

このすべてを、基本的に一人で行うことや、打ち合わせや下見のために、片道平均2時間の運転はなかなか大変です。

また、私は、立場的に組織の一員としてではなく、個人として動いていますので、毎月の収入は誰も保証はしてくれません。「やった分しかもらえない」というのが基本ですが、「やった分ももらえない」ということもあります。「モノ」ではなく「経験」を売る仕事ですが、社会的にまだまだ評価が高くない仕事ですので、生計を立てていくのは大変です。

けれども、先方の立場や状況に寄り添いながら、「先方の想い」と「私が伝えたい想い」を形にしたプログラムを実現した後、子どもたちや保護者、先生方から笑顔や感想が得られた時は、「やり続けてよかった!」と思います。

 

質問3) 今の仕事を通して社会にどんな貢献をしていると感じますか?

 

一言でいえば、「モノ(者)づくり」。つまり「人材の育成」という形で社会に貢献できているのではないでしょうか。

私の仕事の目的は、「心を育てること」だと思っています。「身近な自然」や「暮らしの木のモノ」をテーマにしたアナログな体験活動を通して、ヒト、モノ、コト、シゼンに対する「好き」「大切にしたい」という「愛着」の気持ちと、私たちは自然から様々なものをいただいて暮らしているということ、そして、多くの人の一生懸命や「つながり」に支えられて暮らしているということへの「感謝」の気持ちを、より多くの人に持ってもらいたいと思っています。そして、その結果として、多くの人が、より暮らしの中に木を取り入れながら、どのようにして次の時代へこの資源をバトンタッチしていくことができるのかを自ら考え、行動することにつながればいいなと考えています。

 

質問4) アカデミーに入ったきっかけは?

 

前職の環境教育施設勤務でクラフトプログラムを実施していた時、ノコギリや玄翁、切り出し小刀などの木工道具を使ったことがない大人がとても多いこと気がつきました。

道具を使って「自分でモノをつくる」ということは、今の時代にとって、何かとても大切なことなのでは?と感じ、先ずは、自分自身が木工を学んで「つくるということ」と向き合った上で、次にクラフトプログラムをより追求して「日本型の環境教育(木育)」の形を模索してみよう。そして、「つくることの大切さ」を伝えていこうと考えました。これがアカデミーへ入学したきっかけです。

質問5) アカデミーで得た学びは何ですか?

 

アカデミーへの入学動機が、「日本型の環境教育(木育)」の形を模索することでしたので、在学中はこのテーマを課題研究として取り上げました。

課題研究に取り組んでいく上で得られた学びとしては、先ず、「質」にこだわった木工の技術を基礎から学んだことを通して、木育プログラムで「作ってみたいと思うモノ」「ゴミにならないモノ」、そして「愛着が持てるモノ」を意識して木育教材を考えるようになったということです。

次に、民具や地域文化をヒントにした作品づくりを行ったことを通して、新たなものを生む出すこと以上に、「あるものをどう活かすか」を意識して木育教材を考えるようになったということです。

また、課題研究の成果を公表する際に用いるパワーポイントにおいて、そのプレゼンテーション技法を学んだことを通して、人に伝えることの難しさと大切さを改めて感じることができました。

 

質問6) 自分の専門分野の授業以外で役に立った(あるいは履修した)科目、プロジェクト、活動

専門分野を超えた様々な授業を通して、「生きている樹」が「木のモノ」になるまでの一連の過程を自ら体験することができました。この経験によって、これまでの自分が、生きている樹に意識が向いていても、暮らしの中にある「木のモノ」に意識が向いていなかったということに気づかされました。このことが、今、自分自身が木育に取り組む上で大切にしている「身近な」「あたりまえ」というテーマを明確してくれたと言えます。

 

質問7)アカデミー入学前の仕事や家業など、バックグラウンドが活かされていると感じたことがもしあれば。

私がアカデミー入学前まで勤務していた環境教育施設には、多くの小学校や中学校が社会見学先として訪れます。事前の先生方との打ち合わせでは、希望内容を伺いながら、学校での活動と、この施設での体験をどのようにつなげていこうか、できるだけベストなプログラムのプランを提案させていただきました。この経験が、アカデミー在学中の、実践的な木育プログラムの企画と運営でも活かされましたし、前述の通り、現在のコーディネーター的な仕事でも活かされています。

 

質問8) 今の仕事をしている中での「モットー」。これからこの道を目指す若者 へのメッセージ

 

環境教育を目指し始めてから、アカデミーを経て、個人事務所を開業…。気が付けば20年の月日が経ちました。この不安定な社会の中で、今も何とか好きな仕事をし続けられるのは、この間、多くの人に支えられ、またご縁をいただけたからこそと思っています。

ですから、私のモットーは、「感謝」と「謙虚」な心を持って、一つ一つをコツコツと取り組むこと。事務所の屋号「共育工房IPPO」には、そんな想いを込めています。

アカデミー在学中の2年間を振り返ると、アカデミーという場は、様々な知識や技術を学ぶことができる場であり、また、多くの人と向き合い、自分と向き合い、心を磨くことができる場であったなと思います。

「見る」のではなく「観る」視点を備え、感性を研ぎ澄ます。「なぜ?」「どうして?」という好奇心に加え、「感謝」と「謙虚」な心を持ってコツコツ取り組めば、次のステップがきって見えてくると思います。


<連絡先>
共育工房IPPO メールアドレス  mokuiku.ippo.2008@gmail.com
共育工房IPPO ホームページ   http://mokuikuippo.jimdo.com/