岡 亜希子(おか あきこ)
民具オモシロガリスト
・プロフィール
1980年生。大学卒業後12年間、冒険教育、ESD、教科教育の場に身を置く。2015年に岐阜県立森林文化アカデミーに入学。農山村の民具を活用したワークショップや、グリーンウッドワークの活動に取り組む。
アカデミー卒業後は、「クリエイティブリユース(廃材の創造的活用)」を軸としたコミュニティづくりに賛同し、岡山県倉敷市玉島に移住。地域から出て来る廃材を使ったモノづくりや、町から出て来る廃棄木材を利用してグリーンウッドワークを継続中。もう一方の生業として古道具屋「Womb Brocante(ウームブロカント)に勤める。倉敷美観地区店の店主かつ民具オモシロガリスとして日々、古道具の美しさ、オモシロさ、カッコよさを探究している。
◎古道具「Womb Brocante(ウームブロカント)」
http://www.womb-brocante.com/
店内の様子
①アカデミーに入学を決めたキッカケ
キッカケは東日本大震災です。東京で暮らしていたのですが、震災を機に暮らす場所と暮らし方を変えなければいけないのでは?と感じ始めました。具体的ではありませんでしたが、「コミュニティを感じられる場に身を置きたい」「自分の手で食べるモノや使う道具を一部でも創ることのできる暮らし方をしたい」と考えていた時に、アカデミーの募集情報と出会いました。
②アカデミーの学生生活で印象に残ったこと
忙しかった!取得した単位数以上に、とにかく色々なことをしたなぁ~と。オープンカレッジの学生スタッフ、部活動、他専攻の授業にまぜてもらったり、学外でのイベントに携わったり。この2年間は「自分が学ぶ」「まずはやってみる」ことを生活の中心に置ける幸せな時間でした。
③仕事を選んだ理由、今の仕事のやりがい
Wombで働くことを選んだ理由は、クリエイティブリユースを実践している場だったからです。クリエイティブリユースとは、捨ててしまうモノや使われなくなったモノに新たな価値や有用性を生み出すこと。Wombでは、古道具そのままも販売していますが、新しい使い方の提案や、バラして他の素材と組み合わせて新たな道具を創り出すこともしていたんです。課題研究でのチャレンジ項目の一つが「民具をクリエイティブリユースの視点で活用する」ことだったのですが、既に実践している人と場に出会えた!と嬉しくなりました。またコミュニティでの活動と職場とで価値観に乖離がなかったことも、決め手の一つでした。
1:シャトルのフック掛け、農工具のカードスタンド
今は、お店に来ていただいた人たちの「想像&創造スイッチ」が押されている瞬間を見られることがやりがいです。何に使われていたんだろう?自分だったらどう使う?気持ちや思考が動き、対話が始まる。時には「これ穴開けられますかね?」といった、何かに加工する気満々のご質問も。とてもワクワクしますね。
アイディアを持ち帰っていただけるだけでも幸せです。例えば、糸巻きを白磁皿とセットにしてポプリ置きで提案していると「捨てようと思っていたけれど真似してみようかしら」と言ってくださるお客様がいます。燃やされていたかもしれない糸巻きの運命が変わったとしたら、とても嬉しいことです。
2: 糸巻きに白磁皿をのせて
もう一つ。世代を超えたやり取りが様々に起きてくれていることが、とても大きなやりがいとなっています。「懐かしい」と感じる60~80代。「ステキ」「カワイイ」「オシャレ」「カッコイイ」と感じる20~50代。「これ何??」と興味を持つ子ども達。同世代で、世代間で、様々なやり取りが生まれます。帰り際「昔話に花が咲いて楽しかったわ、ありがとう」と声を掛けてくださるご年配の団体さん。墨壺を手にして「これはな、大工が材に線をひくときに使うもんなんよ、昔はよく…」と語り始めたおじいちゃんに、「へ~、かっこいいカタチしてるね」と相槌をうつ小学生。「これは組紐を編む時に重しにするの」と話すおばあちゃんに、「ピアス置きにしようかな」と買っていって下さる娘さん。まさに、買って帰れる歴史民俗資料館、ですね。民具オモシロガリストとして仕掛けたいと思っていたことが、ひょっこり起こせている気がしています。
3: 組紐の重りにピアスをのせて
4: 俵編み機の脚を帽子掛けに
古道具には「木でできているモノ」が多いので、木に関する様々な学びが活かせているのも嬉しいことです。ホオで作られた版木を手に「何の木ですか?」と聞かれてお喋りがはずんだり、木地モノに蜜ロウを塗り込んで木目をキレイに見せたり、小さな引き出し箱を手直ししたり……。ちなみに、勤め始めて最初の仕事は「薪を使ってレジカウンターを作る」ことでした。新規オープンのお店だったので内装から関わらせてもらって。電動工具の授業をとっておいて良かったです(笑)。 木製以外のモノ(焼物やガラス物など)はまだまだ知らない事ばかりですが、木のモノについて聞かれると普通の古道具屋より少しマニアックなお答えをしているのではないかと思います。
5: 日本酒蔵の槽(ふね)と薪とをかけ合わせたレジカウンター
100年以上経つ「なまこ壁の蔵」を店にしていることもあって、お客様と古民家リノベーションの話題で盛り上がることもよくあります。建物の話から、空間づくり、コミュニティの話まで。興味のある方が多く、古民家リノベーション講座で得た経験や情報が役立っています。
④アカデミーの学びで役に立っていること
様々な地域に出かけ、そこに暮らしてきた人たちと出会えたこと。中でも、古道具や民具の美しさを語ってくれた方々との出会いが民具オモシロガリストの出発点であり、今もその延長線上にいます。二股の木にスチールを組み合わせた帽子掛けを見て、「スベスベでキレイだなぁ、これ何だったんだろう?」と話されているお客様にそっと「俵編み機の脚です」とお伝えするんです。二股木の活用術にみなさん感心されます。そんな時には、「昔の人は賢いなぁ」と語り合った明宝や春日の人たちの顔が思い出されます。
あげていったらきっとまだまだあります。山から離れたところにいても、意外とアカデミーでの学びとつながっているものですね。
⑤今の仕事で意識していること
民具オモシロガリストのミッションは、民具(古道具)の美しさやオモシロさを伝えること。私のライフワークです。そのために日々意識していることは「見立てる」ことです。
一つ一つをよく観察して、触って、嗅いで、聴いて、そのモノの向こう側にいる人や暮らしを想像してみる。その上で、今の暮らしでも使いたくなるようなアイディアや一手間、組み合わせ方を、ディスプレイを通して提案する。その時に使っているのが見立ての力なんです。例えば食卓や台所で使うことを提案したくても、実際に食べ物を置けるわけではありません。そんな時には、使い込まれたスベスベのツチノコ(俵編み機の重り)を果物や野菜に見立てて盛り付けます。馬具を布巾掛けにしてみたり、魚籠があれば魚が跳ねているのようにドライフラワーを活けてみたり、陶器の碍子を箸置きにしてみたり。使ってみたくなるシーンを思い浮かべながら見立てを重ねていくことで、新しい活用方法が生まれる。Wombへいらした方々に、何かしら「視点の転換」が起きてくれたら嬉しいなと思いながら仕事しています。
6: 碍子を箸置きに
(2018.6.25掲載)