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2017年12月21日(木)

横山浩司さん・楓林舎訪問 〜木工事例調査より

(この調査は8月に行ったものですが、ホームページへの掲載が遅れました。申し訳ありません)

木工事例調査二日目の午後には、長野県大町市の郊外にある楓林舎・横山浩司さんの工房を見学させていただきました。横山さんは松本民芸家具で木工修業ののち独立し、現在では建築家・中村好文さんがデザインする家具(主に椅子・テーブル)を製作する家具職人さんです。

横山浩司さん

かなり広い敷地に住宅と工房が建てられており、敷地内には製材された板材が高く、大量に積まれていました。丸太の状態で購入し、ご自身で製材されるそうです。

横山さんの工房の材料

 

横山さんについて語るとき、やはり建築家・中村好文さんとの連携で家具を製作していることを抜きには語れないでしょう。

実際に仕事は中村さんから回ってきて、横山さんは家具作りに専念できます。そういう形は往々にして、デザイナーが優位に立ち、職人に無理難題を言うケースもあるようですが、横山さんは家具の構造的に不安な部分については変更を提案するものの、基本的には中村さんのデザインに特に変更を加えることなく制作されるそうです。

家具が好きで、職人を大事にしてくれる中村さんは横山さんを信頼し必要として家具を発注し、横山さんもそれに答えようとします。互いに強い信頼関係があればこそ、長い間の付き合いが成立しているのでしょう。

それは、とりもなおさず、すばらしい家具を継続的に作り続けることにもつながっているわけで、今後の木工のあり方を考える上でも非常に参考になると思います。

製作中のブランケットチェスト

 

そして、現在制作中の桐材を使用したブランケットチェストについて話を伺いました。

普段、桐を使用することは少ないそうですが、桐を加工するうえでの注意しているところなど話をしていただきました。

まず、非常にカンナをかけにくい材であり、硬い木材用に仕込んだ刃物では表面からくずが出てくるだけで、まともにけずれないそうです。そのため、「桐」用に刃を一枚刃とし、裏押しからやり直し、より鋭角に研ぎ、さらに刃先の左右方向については通常のものより中央部が高くなるように研ぐ必要があるとのことでした。

また、乾燥が難しい。風雨にさらし長年乾燥させ、お湯につけ、あく抜きをする必要があるそうです。流通している材料では乾燥が甘い、あくが出てきて、作品は紫色に変色することもあります。それ以来、自身で丸太を仕入れ、製材・乾燥を行います。椅子やテーブルに使用するナラやクリなどの材料は5~6年天然乾燥をしているそうです。自分の納得のいく製品を納品するために、徹底的にこだわる姿勢が非常に印象的でした。

一方で、接着力は強く、一般の木工用ボンドで十分に接合できるそうです。そのとき、木ねじではなく、ウツギで作られた木製のくぎで十分留まるとのことでした。逆に、木ねじを直接打っても効かないので、ウォルナットなどの硬い木を埋め込み、そこに木ねじが入っていくように工夫する必要があるようです。他ではあまり行っていないようですが、横山さんの工房ではこの「桐」の塗装をオイルフィニッシュとするそうです。さらに、「いぼた蠟」をつかった仕上げも効果があるとのことです。

チェストの引き出し

 

また、横山さんは椅子・テーブルを中心に制作を行っている中にあって、”手すり”を制作・施工を請け負っています。家具とはまた違う手すりに関するお話については非常に興味深く勉強になりました。

手すりは海外では専門職としてある業種だそうですが、国内では既製品を建築に取り付けていくことが一般的です。その中で、設計士の要望する手すりを制作し、既製品にはできない曲線や接合部のデザイン性・質を可能にしているとのことでした。現場で設計士と詰めていく点などの話と合わせて伺い、椅子やテーブルの脚物以外での話を伺うことができ、大変貴重な学びの機会となりました。

 

「ウィンザーチェアが作れなくても椅子は作ることができるが、ウィンザーチェアを作ることができれば他のいろいろな椅子も作ることができる」という話や「ウィンザーチェアが曲線の世界であるから、手すりの曲線も可能」という話は非常に印象的でした。

製作中のウィンザーチェア

 

細かい技術的な話から、中村さんとの設計・施工の進め方の話など、多岐に話を伺うことができました。技術的な部分や、材料の選定などにおいて、自身の納得のいく家具を納品するために何ができるかという部分を探求しているような印象でした。

今後、家具製作などの現場に携わる中で、仕事をする相手との信頼関係、仕事をする上でのこだわり、プロとしての意識など、非常に深い学びとすることができたと思います。

砥石

 

横山さんの工房見学後に安曇野ちひろ美術館で実際に横山さんが制作された椅子を見学・体感し、今回の木工事例調査を終えました。

ちひろ美術館の椅子

私たちが今回の木工事例調査で訪問した木工家の性格はかなり明確な違いがありました。家業を引き継いで木工を続け、会社組織の経営で地域と密着しながら製品を作り続ける前田さん、作家という色彩が強く、自由に作品を作り続ける谷さん、職人に徹したものづくりをする横山さんという、それぞれの方が私たちに話をしてくださった内容からもそのことはかなりはっきりした違いとして見えてくるのではないでしょうか?横山さんの徹底して具体的なものづくりについての細かい所にまで至る話は、非常に強く魅かれるものを持っています。

 

 

報告:クリエーター科1年・宮崎晋、2年・古山智史、陳平芸