木工事例調査in宇治・伊賀 ④山本工房
木工事例調査in宇治・伊賀の最後は三重県伊賀市にある山本工房を訪問させていただきました。その時の様子を学生がレポートします。
伊賀の中心地から車で約20分。本当にこの先に工房があるのだろうかと少し不安になるような田舎道を進み、脇道へ入っていきます。四方を山と畑で囲まれたその先に、一軒の建物があり、入口には「山本工房」と書かれた看板を見つけました。
山本工房の店主である山本伸二さんは29歳から木工をはじめ、約8年間の修業期間を経て独立。現在は受注生産が中心で、大きな作品にいたっては全長7メートルにもなる栃の大径木を原木の雰囲気をそのままに表現したベンチや、時にはお皿等の小物を作成するなど、作品は多岐にわたります。そして写真にある建物はなんと山本さん自らが約10年かけて建てたと聞き、驚かされるばかりでした。
建物の中は作業場とショールルームと住居スペースで構成されており、ショールームの中にはとても大きな作品が展示されておりました。圧巻でした。大きさから力強さを感じながらも流線的な形のものが多く、柔らかい印象をうける作品は山本さんの作品の特徴であると感じました。
木工家を志す一つのきっかけとなったのは、ほしいと思う本棚が見つからなく、自分で作ろうと考えたとのことでした。そして、自分が作品を通して社会に関わるためには技術を磨かなければいけないという考えに至ったということでした。その技術は生半可なものではなく、洗練された正確な技術が必要であると山本さんは語ってくれました。
こちらの写真に写っているのは、ふたのある正方形の小箱です。大きさとしては将棋の駒を入れるのに適したサイズです。写真ではわかり辛いのですが、ふたを下の小箱に重ねる際、きつくも感じず、かつスカスカではない、まさにピッタリという言葉しかあてはまらないほど正確に収まります。90度向きを変えて、入れなおしてもピッタリと収まります。使用している材料は紫檀(したん)で、非常に硬い素材です。やわらい木であればいわゆる「遊び」があるのですが、紫檀にはほとんどないため、しっかりと仕上がってないとこうはいきません。ここに洗練された技術があり「みなさんも最低でもこれくらいできるようになっておかないといけない。そうでなければ今後、自分のイメージしたものを形にすることができない。そうなると夢や想いが脆弱なものになっていってしまうし、それを払しょくするためにまた努力をしなおすから、結果、遠回りになる」とお話を頂きました。加えて「最初に難しいことをやっておけば、あとは簡単なものしかない。それに簡単なことは楽しくない」とのお話を頂きました。まさに「急がば廻れ」というお話でした。
作品に対する思いについても語っていただきました。山本さんが大事にしていることは「触覚」「光」「動き」の3点でした。触覚は作品に触れた時にどう感じるのか、光は自然の光が射した時にどう見えるのか、動きは作品そのものに動きをもたせるということでした。写真の作品は非常に特徴的な形をしているお皿ですが、この3点が非常にわかりやすい形で表現されています。この作品のモチーフにしたものはなんと作業室にあった輪染みでした。「作業をしようと思っていたらたまたま輪染みを見つけた。これだ。と思って制作にとりかかった」「作品はそんな何気ないきっかけでうまれることも多い」とお話を頂きました。加えて「作品は想いを表現するもの。そのためには自分自身のことを知る必要がある。とても難しいことではあるが、そこが分かれば自分になすべきことや、自分には耐えられないものなどもわかってくる。そんな謎解きを木という素材を使って具現化している。そして、今も謎解きをしているところである」と語っていただきました。
訪問して印象に残ったことは木工というものを言語として私たちが生きている意味や、その目的、どのようにして心を満たしていくかなど人生観について語って頂いたような気がしました。そして己の価値観を見出し、それをしっかりと持つことが大事であるということに気づくことができました。これから将来木工に携わっていく人間のみならず、多くの方の心に刺さるものだと感じました。
短い時間ではありましたが、我々の為に時間を作っていただき、また、私共の質問に関し包み隠さずお話しいただいたことに感謝申し上げます。自分自身の想いのままに生きる。そのことの大事さを再認識し、自分を見つめなおすとても良い機会となりました。山本さんの自然にでる何とも言えない笑顔が物語っていると思います。今後の人生を素直にまっすぐに生きていきたいと感じました。
文責:森と木のクリエーター科 木工専攻(1年) 清水貴康