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2019年03月09日(土)

木工事例調査 in 宇治・伊賀〜 ③京都炭山朝倉木工

宇治1日目の最終は、宇治市炭山にある京都炭山朝倉木工へ訪問させていただきました。ご主人の朝倉亨さんと奥様の玲奈さんを中心にオーダーメイドの家具制作をされており、今回はショールームと工房そしてご自宅と、全てを丁寧にご説明していただきました。

まず初めに見学させていただいたのは、工房から徒歩1分程の場所に設けられたショールーム。中に入ると奥には大きなクリの棚やテーブル、椅子、そしてスプーンやナイフ、コースター等々、大きな家具からカトラリーなどの小物まで数々の作品が並びます。家具から小物までを同じ割合で制作していると話す朝倉さん。ひとつずつ作品に触れながら、朝倉さんご自身のものづくりの考え方や技術をお話されました。

『歳を重ねて使い続けられるものをつくる』

朝倉さんたちが制作に使われる材の多くは、クリやケヤキなどの国産材。しかしながら、最初の頃はモダンでおしゃれな感じを求め、ウォールナットやチェリーなどの外材が多かったと言います。制作していく中でだんだんと自分の好みが変わっていったと話す朝倉さん。一生ものである家具は飽きずに長く使え、歳を重ねた時も良いなと思えるようなものを作りたい、と考えるようになった時、国産材の使用や「和」を取り入れるデザインの工夫などの変化が現れたそうです。そんな朝倉さんがまず説明して下さったのは、主力製品でもあるオーチェア。ラウンドアームの背の中央部材を5枚組み手にし、「王」という漢字を伸ばした形になっていることから名付けられたのだそう。どの部材も厚みを持ち重厚感のあるデザインは、まさに「和」を感じさせる、落ち着いてしっとりとした雰囲気を醸し出します。

多くの木工家によって作られるラウンドアームの椅子ですが、そこには朝倉さんならではのオリジナリティーが詰まっているのが感じられました。

また、主力製品とは異なり、朝倉さんがライフワークとしてずっと続けているものがあると仰います。それは木工家である黒田辰秋氏の影響でずっと取り組んでいる、隅切り盆。ショールームには、朝倉さんが20歳の時と40歳の時にそれぞれ制作されたお盆があります。手工具を使って彫り込むため、「続けていくことで手工具とデザインの習熟度を確かめることができる」と話す朝倉さん。その制作の大変さから、長いこと非売品であった隅切り盆ですが、使ってもらってこそお盆であると思い、値段・デザイン・制作工程を試行錯誤し、今では製品として並べられているそうです。そこには様々な葛藤もあるものの、ライフワークから製品へとつなげる、朝倉さんの思いと努力の形が垣間見えました。

椅子、テーブルと次々と作品を拝見させていただくなか、朝倉さんの作品全てに一貫して見られるのが、鉋フィニッシュです。家具のどの部分の面を見ても、鉋や鑿などの手工具を使って最後の仕上げをされているのが分かります。家具などの仕上げというと、サンドペーパーを使って、製品の表面を整えてから塗装を行うのが主流ですが、ここでは違います。「よく砥いである刃物でスパッと切れていると、塗装後の艶がでるし、輪ジミや傷もつきにくい、そして何より作業が楽しい!」満面の笑みでそうお話しする朝倉さんは、「和」を取り入れつつ今の暮らしに合うデザインをしながら、そのデザインを自ら楽しむことを決して忘れない、作り手の鑑のような存在だなとつくづく感じました。

続いてショールームから移動し見学させていただいたのは、セルフビルドで建てられたという工房&ご自宅。大規模な家具やたくさんの椅子が制作されたであろう工房は、驚くことに大変コンパクトな空間でした。だからこそ、部材や道具などは壁や天井近くに収納され、作業スペースを広く取る工夫がされていました。

最後に、工房の二階にあるご自宅にお邪魔しました。ショールームができる以前から、ご自宅を予約制のショールームとして使われていらっしゃるそうですが、その背景には「家具を長く使い込んでいくとどうなるか、知ってもらいたい」という朝倉さんの思いが込められています。その思いをしっかりと体感できる、使い込んで13年目というダイニングテーブルを全員で囲み、朝倉ご夫妻からお話を伺いました。

「仕事をしたりして迷いに入った時、これまでの自分が活きてきた」と話されるのは奥様の玲奈さん。森林文化アカデミーで木工を学ぶ私たちは、木工技術だけにとどまらず林業的知識などの幅広い学びを得ることができます。その一方で、木工の技術をみっちりと習得できる時間が職業訓練校などより少ないのも事実です。しかしながら、「技術はだんだんと後からついてくる。自分が迷いに入った時、これだけ見て考えてきたのだ、と言えるくらい自分を広げておくことが大切」とお二人揃って仰います。幅広く学べる学校だからこそ、そして何より今学生であるからこそ、自分は何が好きで何をやりたいのか、自分から動いて見つけていく必要があると強く感じました。

「木工をやっていて良かった!」と力強く話す朝倉さん。そこからは、ひたすら努力をし、自分自身の木工を見つけ、そこに楽しさを見出している様子がひしひしと伝わってきました。私たちも、自分のものづくりの軸を見いだせるよう、今しかない時間を有効に使い自分を広げていきたいと思います。

朝倉亨さん、玲奈さん、この度はお忙しい中、多くの時間を割いてご説明や貴重なお話をいただき、本当にありがとうございました。

 

文責:森と木のクリエーター科木工専攻(1年) 丹羽茄野子