木工事例調査 ③木が大好き早川木工所
中津川市付知町の「木が大好き早川木工所」へお邪魔しました。この木工所は昭和50年創業で父親の後を継ぎ、水に強いサワラ材を主に使用し、和盆や、落し蓋などの製品を手掛けています。最近では「コプリーレ」と呼ばれる放置木を有効活用した瓶のボトルキャップを開発し、それが話題となり、NHK「まるっと岐阜」(毎週月曜から金曜18時30分~19時放送)の中で紹介されました。そんな早川木工所の工場を代表者である早川謙作様の解説付きで見学をさせていただきました。とても魅力的なこの工場を3人の学生がそれぞれの視点でレポートさせていただきます。
人気商品「コプリーレコスメ」の秘密
早川木工所の主力商品である「コプリーレコスメ」は、「コプリーレ」の改良版として新たに制作された小型の商品で、リップ・薬・アクセサリー入れなどの幅広い用途としての使いやすさ、さらに地域の間伐材や障害木などの小径木や雑木を素材として利用する環境志向性の高さなどが特徴です。海外を中心に人気に火がつき、現在(2018年6月28日時点)の受注残だけでも4000個あり、製造が追いつかないほどのヒット商品ですが、今回の見学を通してその人気の理由が、デザインの質の高さにあることが分かりました。海外への出荷を視野に入れたアマニオイルによる自然塗装にはじまり、海外の人々の感性(影や、モノを形づくるラインへの美徳)と木の持つ見た目の柔らかさという特性をマッチングして、それまでには使用者がケガをしてしまう可能性があるということで敬遠されていた角形のコスメ用品に、優れたデザインとしての価値を見出し、新たな市場を開拓したこと。それこそがこの商品の人気の秘密なのだろうと思いました。
久保 遼一
設備について
工場に入るや否や学生の視線を釘付けにしたのがこちらのNCルーター。コンピュータ制御による大型の機械です。どのように使用し、どのように稼働するのか、初めて目の当たりにする学生がほとんどの中、興味津々で説明を聞きます。まずは写真の中央に見える操作盤でX,Y,Z軸の座標を入力し、機械自身がいまどこにいるのかを教えるために設定をします。そして切削能力を高めるため特別に開発されたスウェーデン鋼の専用刃物を取り付け、セッティングが完了すると、プログラミングされた情報に基づき自動で加工を施してくれます。これによりコプリーレコスメの大量生産が可能となります。
続いてご紹介いただいたのがこちらの機械。「たぶん見たことないようなものだと思いますが…」との前置きからお話を伺っていくと、主に丸い商品を加工する為の機械で、切断・切削(真円を出す)・切削(溝やアールをつける)・仕上げと4工程を1台でこなしてくれる多機能なものであると解りました。落とし蓋の製造や、かつては回転寿司の下駄の15万個もの量産に寄与しています。10年以上休みなく稼働するこの機械は、もともと金型の設計をお仕事とされていた早川社長がご自身で設計され、同地域の他の木工所や県外からも仕事の依頼があるほど、現在もなくてはならない存在となっています。
かつて金型のプログラミングの開発や設計に携わっていた早川社長ならではの設備環境や高い技術力をもって、早川木工所の主軸となる商品が量産可能となることが身をもって体感できました。その一方で、これらの機械でもできない繊細な作業は今でも手作業で行われているそうで、生産効率向上に気を配りながらも、製品の質に対する妥協は絶対にしないというというところに、プロの仕事を垣間みた気がしました。
畑山沙織
「モノづくり」と「コトづくり」
現在の日本景気を景気動向指数からみると、安倍政権発足以来64か月連続で景気の基調判断は改善を示しています(内閣府HP 景気動向指数 平成30年3月改訂版参照)。これは戦後のいざなみ景気(2002年~2008年の73か月)を超える勢いで推移しています。しかし、社長にお話を伺うと「そんなに易々とモノが売れる時代じゃないですね」と話されました。続けて「だからと言ってじっとしているわけにはいかない。これからはどんどん積極的に動いていく必要がある。そこで私が大事にしているのは人とのつながりですね」とも話をされました。その言葉通り、社長は中津川の商工会議所を訪ね、そこで大きな出会いをしたそうです。
その方は中津川商工会指導員の松下さんという方で、この方とのつながりがきっかけで、コプリーレが全国の商工会議所の指導員が参加する経営事例発表会で最優秀賞を受賞しました。また、この功績が認められ、環境に優しい取組みで作られた製品を「岐阜県リサイクル認定製品」として県が認定する制度があり、こちらにも登録されました。加えてデザインをお願いしているデザイナーさんとのつながりでカスピ海と面する国であるアゼルバイジャンで日本人初の展示会も実施しています。
こうした経緯からモノづくりとしての技術はもちろん大事なことではありますが、これだけモノが溢れている世の中で生き残っていくためには自ら動きだしてコトづくりをしなければならないことを痛感致しました。そしてさらに印象的だったのは、地元中津川市付知町の有志メンバーで組織している「つけち木工の会」の会長としての活動です(任期満了の為、現在は会員)。この会の活動の中で林業や建築業をつなげる活動や、この活動がきっかけで中津川市代表として木工に関する補助金の持続要請をする為に経済産業省や環境省へ足を運んだりもされております。自分自身の為だけではなく、中津川市付知町のことや、ひいては木工に携わる方々のことまで視野に入れて活動をしていらっしゃる社長の活動には頭の下がる思いです。
清水 貴康
終わりに
今回の訪問で私たちが一番感じたのは「木に向き合うことの大切さ」でした。それは木の性質を熟知し、どのように加工をすればよいのか真剣に探究したり、上述したコトづくりを通じて木の将来をつなげていったりする姿に象徴されています。そして、この社会情勢の中、様々な観点から木に向き合い、必死で色々なことを考え、日々を過ごしている生の姿を見ることが出来ました。これはインターネットなどでは味わうことのできない足を運んだものだからこそわかるとても重要な体験でした。わざわざ私たちの為に貴重な時間を作っていただきまして本当にありがとうございました。
最後になりますが、中津川市の農林部 林業振興課 桂川様はじめこの木工事例調査に携わっていただいたすべての方々に感謝したいと思います。そしてこの貴重な経験をさらに意義のあるものにすべく今後の学生生活に活かしていきたいと思います。
森と木のクリエーター科 木工専攻一同
文責:久保遼一 畑山沙織 清水貴康