アトリエm4(長野県松本市)訪問 〜木工事例調査より
森林文化アカデミーの木工専攻では、年に数回、学生自身が企画してプロの木工家、職人、工場などにお話を伺いに行く「木工事例調査」という授業があります。8月22〜23日にかけて、長野県の4ヶ所を訪問してきました。
材 …… カラマツ ・ 異素材
最初に伺ったのは松本市にあるatelier m4。創業1901年、伝統的な江戸指物(釘を使わずホゾや継ぎ手で材を組む家具・建具。江戸は武家や庶民向けとされる)をつくり続ける前田木藝工房の4代目・前田大作さんが、新しい木工品制作のあり方を提案したい、との思いから2007年に立ち上げられました。
こちらの制作物での大きな特徴は2つ。1つは材。通常家具の多くには広葉樹が使われますが、前田さんが強く推しているのが針葉樹である“カラマツ”。
一般的には針葉樹は柔らかくホゾや継ぎ手の加工に耐えられないため、家具材としては嫌われます。また、カラマツの特徴として早材と晩材とで堅さがかなり違い、鉋仕上げが難しく、めくれやささくれが出やすい、節やヤニつぼが多いため木取りが難しい、と、難点が多いそうです。しかしこれらは「製材と乾燥で十分にクリアできる」と前田さん。試行錯誤を繰り返し、少しずつ加工のノウハウを見出して、カラマツの材としての美しさに魅了されていったと仰います。
「すぐそこにカラマツがあるから。」
自宅のすぐ前にはカラマツの人工林が広がり、周囲にはその管理をする林家さんがいる。カラマツで家具を作ることはこの地で木工を生業とする者の使命だ、という前田さんの熱い思いが言葉に溢れていました。
その地域にはどのようなものがあるのか、どのようなことが必要とされるのか、どのような取り組みが問題解決の糸口になるのかなど、木工業界にとどまらず様々な分野にわたって考えさせられるお話だったように思います。
特徴のもう1つは、木と“異素材”を組み合わせた家具。
特に金属を多用しており、鉄・銅・真鍮・ステンレスなど複数の金属の中から、鉄をテーブルやイスの脚に、真鍮を細かいパーツの素材にと、適材適所で木と異素材を組み合わせた家具を制作しています。
金属の加工成形もほぼ独学でこなされているそうで、まずはやってみて多くの失敗を重ね、時には職人さんに訊きながら少しずつ技術を身につけていったとのことです。
時代とともに様々な職人さんや技術が消えていくなか、新しい時代の変化に対応しながら、さらに別分野の古い技術も活かしたアイテム作りをする、その貪欲さと誠実さ。私たち学生も見習わなければならない事ばかりです。
職人と会社 …… 形態 ・ 理念
工業製品でもなく工芸品でもない、愛せる日用品を作りたい、と前田さんは仰いました。それを作るのは作業者でもなく作家でもなく職人だと思う、と力強く続けました。
近年は小ロットの部品製作に対応してくれるメーカーや製作所も増えてきているようで、オリジナルの部品を作りやすい環境になってきているようです。様々な部品を組み合わせて、かつての指物師の仕事のように、家具をプロデュースできる時代になってきているとのことでした。
今は生産性を求められ、職人仕事を成り立たせることは難しい時代でもあり、木工を生業としてくには工芸の道しかないという意見も聞いたことがあります。そんな時代の中、美術的な工芸品ではなく実用的な愛せる日用品を作っていくために、新しい価値観を求めて挑戦する前田さんのお話から大きな刺激をいただきました。
昔はお弟子さんを抱えていた木工房から社員を抱える株式会社に舵を切った前田さん。給料が出て、残業代が出て、保険も付いている仕事場にしたいと仰っていた前田さんのスタイルは、これからの木工の形を感じさせるものでした。
テーブル …… 道具の美 ・ 普遍性
木工専攻ゆえ「まずは木」となりがちな志向を、「むしろミックス」と覆るほど惹かれた、異素材との組み合わせテーブル。コントラストを狙ったというよりも、プロポーションとコストから金属使用に至ったそうです。暮らしの道具として求められる要素を突き詰めた先の「機能美」は、研ぎ澄まされた静謐な佇まい。シャープでシンプル。それでいて必要な仕事は徹底して細やかに、手間ひま惜しまず隈なく施され、それは、学生である私たちの質問にひとつひとつ丁寧に、誠実に答えてくださったお人柄そのもので、やはり、人間性というのは仕事に出るのだなとあらためて感じました。
木を知るからこそ、その弱点もわかる。ならば、その部分はより機能に優った素材を用いればよい、明快かつ柔軟な思考。名作椅子はたくさんある。ならば(椅子よりも)それらに合う名作テーブルづくりを目指す、潔くすがすがしい姿勢。一方で、大切にしたいものはどこまでも守り抜き、それぞれの素材のもつ性質や風合い、その素材をめぐる繋がり、伝統・文化への敬意尊重は怠らない ―― そういった作り手の想いがそのまま魅力となって見る者をひきつけるのは、作り手の目指すところがしっかり一点一点に反映しているからで、それは確かな技術があってこそのことでしょう。
クールなテーブルに込められた熱い想い、それを具現化する精巧な技 — かえるところは日々の努力、足りていないと思い知らされました。
(クリエーター科木工専攻 池冨士裕・山路陽平・柴田眞規子)