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2023年07月10日(月)

木工事例調査R5夏② 鈴木潤吾さん工房

 木工専攻では学生達の関心分野に合わせて木工やモノ作りの事例見学を毎年行っています。今回は一泊二日の行程で木曽地域に足を運び、その時のレポートを学生がまとめました。2つ目にご紹介するのは鈴木潤吾さんの工房の訪問記事です。


 木工事例調査 1 日目の午後に、長野県木曽郡木曽町にある鈴木潤吾さんの工房を訪問し、お話をうかがいました。鈴木さんは、現在スプーンやフォークなどのカトラリー製作を中心に活躍されている木工作家さんです。

鈴木潤吾さん(左)

鈴木潤吾さん(左)

 鈴木さんは8年前に上松技術専門校に通うために埼玉から長野へ移住。卒業後、東京の会社に入社し、木曽の委託先工房にて3年間勤務した後、独立をされました。工房には昔ながらの木工機械が多数ありましたが、前職は機械を扱う内容だったため、その知識や技術が活かされているそうです。工房を始めた当初は、家具を中心に製作されていたそうですが、現在はカトラリー製作が 7 割ほどを占めており、受注は2~3年待ちの状況です。

カトラリー製作の実演

鑿を使ったカトラリー製作の実演

鈴木さんが製作されたカトラリー

鈴木さんが製作されたカトラリー

 まず、実際にカトラリーを製作する様子を見学させていただきました。製作には木工旋盤という機械と鑿(のみ)などの手工具 を使われていました。洗練された独自な形のカトラリーは、木製品以外の製品からもインスピレーションを受け、デザインを考えていらっしゃるそうです。特に、「木製品に見えないようなデザインを目指している。」とおっしゃっていたのが、木に親しみのあるアカデミー生にとっては印象的でした。一つの形に慢心せず、日々新たな要素を取り入れ、進化を目指している鈴木さんの姿勢は、私たちがこれからものづくりを行う上で見習うべき姿であると強く感じました。また、私たち学生に対し、穏やかな口調で話される鈴木さんは、柔和で物静かな作家さんのように感じましたが、多くの人々に受け入れられているデザインや作品からは、鈴木さんの「つくりたいものをつくる」という強い意思が感じとれました。

木工旋盤の実演

木工旋盤の実演

 つぎに、木工旋盤でカトラリーの柄を削り出す工程も見せていただきました。
 規定の図面があるわけではなく、長い時間かけて身につけたご自身のイメージのもと、迷いのない鮮やかな動作により、柄の形が短時間で仕上げられていました。仕上がりも繊細ながら
気品のあるデザインに圧倒されました。
 木工旋盤は独学で学ばれたとのことです。トライアンドエラーを繰り返して今の技術を身につけられ、さらにより良いものを作りたいという向上心が、鈴木さんの現在の仕事に活かされているそうです。私たちもそのような姿勢をアカデミーの学びの中で、日々意 識していきたいです。
 実演のみでなく、作品の良さを広める上でSNSの活用も有用であると教えていただきました。特に、作品の写真撮影 を重要視されており、ご自身の作品を客観的に見るためであったり、空間的認知を広げるためにも大切であるとおっしゃっていました。

高橋一真さん

高橋一真さん

 最後に、工房をシェアされている高橋一真さんにもお話をうかがいました。高橋さんはご自身でも作品製作をされていますが、鉋(かんな)などの手工具を販売する「はじめ手道具店」も営まれています。鍛冶屋さんが刃物や道具を作ってくださっても、その手工具を使う人がいなければ作るのをやめてしまうことにも繋がるため、木工を学ぶ学生に手工具を使ってもらうワークショップなどを開催し、使う人の裾野を広める活動をされておられます。その言葉を通して「使う人に手工具という道具を届けたい」という熱い思いが伝わってきました。
 ご多忙の中、お時間をさいて丁寧に対応していただき、本当にありがとうございました。

高橋一真さんと鈴木潤吾さん

文責 兒島京太朗、中西靖子、横井清