木工事例調査R5春① 椅子の学び舎とまなびの杜
木工やモノ作りの事例見学をする木工事例調査。今回は一泊二日の行程で関東方面に足を延ばしてきました。その時の様子を、学生のレポートでご紹介いたします。1日目の目的地は、山梨県の富士河口湖町。木工家の吉野崇裕さんが主宰する椅子の学び舎、まなびの杜を訪問しお話をうかがいました。
椅子の学び舎は富士山を臨む富士河口湖町に埼玉より移築された築95年の古民家に約250脚の椅子の展示を行うミュージアムで2022年7月にオープンしました。この施設は木の文化を繋いでいくという吉野さんの理念に基づくもので、現在新たに工房も建築中です。その工房の外観もほぼできあがり、私たちが訪問した際は内装工事が進行中でした。この工房はアーティストレジデンスも兼ね、木工家に限らない広い分野のアーティストを数か月単位で受け入れていくことになっており、この4月からの予約が既にいっぱいになっているそうです。海外でも活躍される吉野さんならではの日本の木工文化の発信される姿と、また、海外までも含めた文化交流の場としての意義と今後の展開に私たちもわくわくしました。
また、この工房を建築する為の木材の約95%は、ご自身の森でご自身が伐採したものが使われていました。アカマツが中心の森だったため、柱や土台に必要だったヒノキを買い足した程度との事。もともと未整備であった森を活用し、ご自身の生活や社会に活かしている点は少しでも見習いたいと思いました。
椅子の学び舎では、約250脚の名作椅子が所狭しと並ぶ姿が圧巻で、木製の椅子以外にも金属や藤編みの椅子なども含まれています。これらの椅子を吉野さんに丁寧にご説明頂き、また、一部は座り心地も試す事ができました。個人的には、名作椅子もさることながら、吉野さん自身が作られた禅の姿勢を実現させるZenチェアの座り心地と、座る事で健康になるというコンセプトに惹き込まれました。
これらの椅子の学び舎、工房は、吉野さんとそのご家族と仲間の方々が切り開いた4000坪の森の中にあり、現在もまだ発展中でした。2016年にこの土地を取得され、現在ここまでの姿になっている事に驚きましたが、吉野さんは細かなプランは無いまま、たまたまこうなったともおっしゃっていました。しかし、お話を聞いていると、ご自身の指物の技術、木工家としての技量とその時代から培った信用と人脈、そして行動力や情報収集力、発信力により、木とその文化を想う気持ちに賛同される仲間が集まった結果なのだと、感じることができました。
2023年4月には既にオープンしている椅子の学び舎と共に、工房での木工体験・本格講座なども含めたまなびの杜としてグランドオープン予定で、更にその後も鍛冶小屋や野外ステージなども計画されているとの事。ご家族や仲間で力を合わせ、更にクラウドファンディング等も活用し、楽しく森や木の文化を広げ、継承していく場を作り、運営していくその姿は、森や木について勉強しているものとして是非見習いたいと思わされた訪問でした。