木工の経営学 〜作る技術と同等以上に大切なこと〜
2023年度から、木工専攻の2年生が学ぶ科目「木工の経営学」を大幅にボリュームアップしました。木工の教育機関では「作る技術」を教えることだけに集中しがちですが、どれほど作る技術を持っていても、できた物が売れなければ仕事としては続きません。また木育や木工教室など教えることを仕事にしたい場合も、参加者の受講料をいくらに設定するか、補助金を申請するかなど、経営面の知識やスキルは必須です。
講師陣は3人。
清水貴康さん:曲物工房清水 代表(各務原市)。信用金庫の営業マンを経てアカデミーで学び、卒業後に起業。曲物の製造。
和田賢治さん:ツバキラボ 代表(岐阜市)。森林文化アカデミー教員として勤務後に起業。シェア工房、木工道具・機械の販売、木工品のOEM生産、コンサルティングなど。
河合高志さん:岐阜県林政部職員(中津川市役所出向中)。森林環境税の補助金事業や木育事業に携わり、民間との協働にも詳しい。
清水さんも和田さんも、実際に木工の分野で起業し、従業員を雇用して事業を拡大している人たちです。また河合さんは、木育の活動に強い思いを持ち、しなやかに事業を進める「地方のプロデューサー」です。この3人で、以下のような流れで授業を担当してもらいました。
4月13日 ①自分が目指す木工・木育の仕事の姿は?(清水・和田・河合)
4月26日 ②会計・経理って何?(清水)
5月9日 ③起業後のお金の流れをイメージする(清水)
5月25日 ④価格を設定する(清水)
6月14日 ⑤〜⑥実際の木工業の起業・経営の内容を知る(清水)(和田)
6月26日 ⑦補助金の仕組みと使い方(河合)
7月12日 ⑧事業計画書を作る(清水)
7月19日 ⑨さらに事業を拡大するために(和田)
講義は清水さんが基本部分を担当し、学生たちは卒業後に取り組みたい事業の「ビジネスモデルキャンバス」を描き、原価計算をして、SWOT分析をして、事業計画にまとめる・・・という流れで進めました。
さらに、2人の講師たちが実際に事業を営む現場で話を聞く会も設けました。
まず訪ねたのは岐阜市のツバキラボです。
ツバキラボでは木工品製造、シェア工房、木工道具販売、コンサルティング、の4つの事業を営んでいます。社員は和田さん本人を含め6人。2017年の創業当時からの事業の進め方や売り上げ額の推移など、リアルな話をしてもらいました。(アカデミーでの教員経験がある和田さんなので、数字を赤裸々に!とお願いしました)
続いて訪問したのは各務原市の曲物工房清水です。今年4月から森林文化アカデミー卒業生(写真手前)がスタッフとして働いています。
清水さんの所でも、事業計画書や補助金の申請書類を見せてもらいながら、リアルなお金の話を聞きました。清水さんは信用金庫でトップの成績を収めたこともある営業マンだけに、お金の話は得意分野です。
岐阜県職員の河合高志さんには、県が独自に運用している「清流の国ぎふ森林・環境税」を、ぜひ活用する側になってほしいというメッセージを学生たちに伝えてもらいました。
授業では、学生たちが卒業後に取り組む事業の一部費用を森林・環境税でまかなうことを想定して補助金の申請書を書き、河合さんに書き方をアドバイスしてもらいました。アドバイスには、税金をより良く、賢く使ってほしいという思いが込められています。
木工の教育機関でも、なかなかここまでリアルで手厚い授業はないのでは、と自負できる内容になりました。学生たちがここで学んだことの一部でも卒業後に生かしてくれれば何よりです。今後も内容をより充実させて続けていきたいと思います。
久津輪 雅(木工専攻・教授)