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2024年07月20日(土)

【‘24夏 木工事例調査④】京都炭山朝倉木工

木工や素材生産などの現場を見学する木工事例調査。今回は1泊2日で滋賀県、大阪府と京都府に足を運びました。7月5日に京都府宇治市にある京都炭山朝倉木工(以下朝倉木工)を訪問して、朝倉亨さんと妻の玲奈さんにお話を伺いました。

工房にて、朝倉さんご夫妻

工房のセルフビルドの説明をされる朝倉さんご夫妻

朝倉木工では、テーブルやチェアなどの家具をはじめ、お盆やお皿、バターナイフといった小物も製作しています。特徴的なのはなんといっても、ほぼすべての製品を「鉋」などの刃物で仕上げていること(※通常は紙やすりで磨くサンディング仕上げの製品がほとんどです)。木工を始めたばかりの学生から見ると惚れ惚れするような仕上がりの作品ばかりです。

そして、それらの作品の「見せ方」に気を配っているのも特徴のひとつと感じました。
「工房兼ご自宅」「ショップ」、そして昨年完成したばかりの「新工房&ショールーム」の3つの建物それぞれにお客様に『何を見てもらいたいか』というコンセプトがありました。

最初に案内していただいたのは、「京都炭山朝倉木工」のスタートとなった工房兼ご自宅です。

朝倉さんは大学で木工を学び、卒業後は家具メーカーに就職。そこで8年間家具の製作をされていたそうです。起業時に建てた工房兼ご自宅は、ご夫婦でセルフビルドしたもの。『これから家具屋を始める若い夫婦が、地元の木を使ってセルフビルドしている』ということをアピールし、宣伝になればという思いもあったそうです。工房の柱や梁は、お二人で大工さんの工房に通い、技術を学んで、ほぞ加工や鉋がけをされたそうです。

続いて案内していただいたのは、工房から数件おとなりの2019年にオープンした「ショップ」です。

別棟のショップで、作品の説明をされる様子

別棟のショップで、作品の説明をされる様子

扉は根杢で作られ、明るい雰囲気が印象的な建物になっています。そこでは、朝倉木工を代表する家具や小物が数多く展示・販売されていました。小規模な家具工房では、展示してある家具を見て、樹種を決めてオーダーして、手元に届くのは少し先になることが多いものですが、こちらでは気に入ったものがあればその場で購入して持ち帰ることも可能です。今回の見学でも、スツールや我谷盆を購入した学生もいました。

ご自宅で使われていた、鉋仕上げのテーブル

朝倉さんがご自宅で使われていた、鉋仕上げのテーブル

ここに展示されているもので販売していないテーブルがありました。
サンディングをしない刃物仕上げが特徴の朝倉木工ですが、このテーブルは、朝倉さんが初めて、ご自身のために作製したものだそうです。
刃物仕上げをすることで、濡れたコップを置いても輪じみが付きづらく、その表面はまるで鏡のように光を反射します。15年近く使ったものとは思えないほどきれいな状態が保たれています。

角切盆

ショップに展示されていた隅切盆

もう一つ、聞かせていただいたのが、「隅切盆」のことです。
朝倉さんの木工はお盆の製作からはじまり、木工を学びはじめた当初に「100個作るように」と指導を受けたそうです。

朝倉さんのお盆の製作はライフワークとして今も続いているそうで、見せていただいたのは40歳のころに製作した大きな隅切盆でした。こちらはテーブルのような使い方を想定して作られた物でした。「隅切盆には木工のエッセンスが詰まっているので、木工を志す人はまずは角切盆を作ってみることをおすすめします」と貴重なアドバイスを頂きました。
また最近では、デザインの自由度の高い「我谷盆(わがたぼん)」も多く製作されており、「自由度の高い我谷盆は(自分の)性にあっている。魅力を感じて製作を行っている」とお話をされていました。
窓から差し込む光が美しく印象的なショップでした。

新しく建てられた新工房兼ショールーム

新しく建てられた新工房兼ショールーム

三か所目の「新工房兼ショールーム」は去年完成したばかりの建物です。外壁は土壁で作られており、さきほどのショップとは雰囲気が異なります。一階が工房で二階がショールームになっていますが、こちらは朝倉さんの置家具だけでなくキッチン等の造作家具も仕事にしたいをしたいという思いを形にしたもので、二階に上る階段を含めて空間をまるごと見てもらうためのデザインになっています。窓から差し込む光の方向まで配慮されていて、家具ばかりでなく空間を構成する素材も含めて、朝倉さんの目指すものを体験できたように感じました。

そして、最後に再びお伺いしたのは「工房兼ご自宅」の二階です。予約制ですが、ご自宅の一部をショールームとしても使っています。生活感のある空間にあるテーブルや椅子を見ると、自分の家に置いたときのイメージが広がりやすいと好評だそうです。

端材の活用について語る玲奈さん

端材の活用について語る玲奈さん

玲奈さんからは「端材」への思いを語っていただきました。玲奈さんの言葉を借りると『木っ端どうすんねん問題』です。製品の製作過程で出てくる木っ端を玲奈さんはどうしても捨てることができず、その活用を常に考えていらっしゃるとのこと。今回、私達も椅子の製作時に出た木っ端を頂きました。アカデミーの学生として、次にお会いするときまでに、木っ端をいかに利活用していくか、それぞれに考えていきたいと思います。

朝倉木工さんでは、鉋仕上げに代表される木工の技術だけでなく、自分が大切にしていきたいコンセプトや自分がやりたいことをいかに工夫して形にしていくのか、そしてそれをお客様に伝えるための「見せ方=魅せ方」の重要性も教えて頂きました。

「20歳で木工を始めて来年で30年になるが、全然飽きないし、やってみたいことも尽きない。木工はいい仕事だなぁとずっと今も思っている」

帰り際に、亨さんが話してくれた言葉が印象的で、これから木工を生業としていく者として、とても励みになりました。

集合写真

朝倉ご夫妻と集合写真

最後にみんなで集合写真を撮って頂きました。
ご多忙のところ、お時間をさいて丁寧に対応して頂き、本当にありがとうございました。

レポート:森と木のクリエーター科木工専攻2年 鈴木 達也、木工専攻1年見世 健太