【アニュアルレポート2023】里山ナイフ教室の広がり
アカデミー教員の研究成果を年に1度、『アニュアルレポート』という形(冊子)にまとめて発信しています。
ここではオンライン記事として再編集した、私が携わった里山ナイフ教室のコラボレーション活動のレポートをご紹介します。
(全ての教員のレポートをPDFでご覧頂けます)
岐阜県立森林文化アカデミー活動報告2023(アニュアルレポート)より
里山ナイフ教室の広がり
コラボレーションによる潜在層へのアプローチ
木工専攻講師 前野 健
目的
2022年の6月から、「おとなと子どもの里山ナイフ教室」(以下、里山ナイフ教室)という名称で、子どもから大人までを対象とした、主に初心者向けのナイフクラフト教室を開催している。この活動では、未整備の里山林に参加者と一緒に入っていき、笹刈りや間伐を行って、そこで得られた枝木を使い、ナイフクラフトを楽しんでいる。この活動も2年目を迎えるなか、幅広い年齢層のリピーターが生まれている。一方で、参加者の多くは森林総合教育センター(morinos)のウェブサイトをきっかけに参加をしている、いわば、木育や森や山のアクティビティに関心が高い層である。例えば、自然保育に関心の高い保育士の方や森のようちえんの親子の参加者なども、これに含まれる。
里山に入っていき、時間を忘れてナイフクラフトに没頭するような体験は、原体験の少ない都市部の子どもや、癒しやリフレッシュの場を求める大人にとっても有意義な場であり、むしろ、普段、森や木に親しみの無い人にこそ、触れて欲しいアクティビティでもある。このプロジェクトでは、これまでアプローチができていなかった潜在的なナイフ教室の対象者に参加してもらうことを念頭に企画検討が始まった。
概要
ナイフ教室の潜在層にアプローチするにあたり、今回は岐阜県現代陶芸美術館(以下、現代陶芸美術館)の企画展とコラボレーションする形でナイフ教室を開催することにした。現代陶芸美術館ではMoMCA(もむか)※の愛称で教育普及プログラムを開催しており、展示物の作品鑑賞会や企画展に合わせた創作プログラムを開催している。このMoMCAの創作プログラムの1つとして、里山ナイフ教室を開催することにした。
※MoMCAは(Museum of Modern Ceramic Art, Gifuの略称で、プログラムの愛称)
今回、里山ナイフ教室がコラボレーションしたのは、2023年12月16日(土)〜 2024年3月3日(日)に開催した企画展「ムーミンの食卓とコンヴィヴィアル展 ―食べること、共に生きること―」である。会期中はムーミンファンや北欧デザインに関心の高い来場者が見込まれた。
コラボレーション企画の里山ナイフ教室は『ムーミン展コラボ企画!ナイフを作って北欧風パンケーキを食べよう!』というタイトルで2024年1月27日(土)に開催した。参加者の募集は現代陶芸美術館のイベント告知サイトとmorinosのウェブサイトから行った。プログラムは「アートツアー」「ナイフクラフト」「北欧風パンケーキの試食会」3部構成で、午前の部(9:00~12:30)と午後の部(13:30~16:00)の2回行った。
アートツアーでは現代陶芸美術館学芸員の林いづみさんに作品鑑賞の案内をして頂き、物語「ムーミン谷の彗星」に出てくる、ムーミン達が森の中でパンケーキを焼くシーンの挿絵やキャラクターたちの言葉を通じて、ムーミンの世界観や仲間たちが交流する様子を参加者に感じてもらった。
ナイフクラフトは寒い時期であったことと、1時間という作業時間も考慮して、現代陶芸美術館のプロジェクトルームで行った。ここではパンケーキを切ったり、ジャムを塗るためのパンケーキナイフの製作を行った。製作は準備していたタカノツメの枝(直径20㎜~30㎜程度)をナイフ、クサビ、マレットを使って割るところから始めた。この日、ナイフ教室の講師を務めた丹羽茄野子さんが、自然の形そのままのタカノツメを見せると、普段の里山ナイフ教室の参加者からは見られない「そこから作り始めるんですか?」という戸惑いにも似た反応が見られた。
当初こそ、「わー、私、これ(マレットとクサビ)で割るなんてできないー」と初めての作業に面食らう場面もあったが、幼児から体験できる内容で構成したナイフワークのため、時間がたつにつれて、参加者は黙々と木を削る作業にのめり込んでいく様子が見られた。パンケーキの試食会場の準備が整い、ナイフワークの終了を告げると、会場からは「まだ削りたい」という声も上がった。
北欧風のレシピで作ったパンケーキの試食会は現代陶芸美術館が入っているセラミックパークMINOの森の入り口で行った。会場には3台の焚火台を設置して、準備していた木のお皿とフォーク、そして参加者が自ら作ったパンケーキナイフを使い、焚き火で焼いた焼き立てのパンケーキを試食した。参加者からは「自分で作ったパンケーキナイフで食べることができ、嬉しかったです」という声が聞かれた。
今回のプログラムには、午前と午後で合わせて27名が参加し、うち21名が初めてナイフ教室に参加した方だった。また、愛知県の都市部からも5名の参加があった。初参加者のアンケートからは「想像以上に楽しかった」「ナイフ作りに没頭できました」「さらにまた来たいなと思いました」といった回答があり、翌月開催のナイフ教室に、さっそく申し込む方もいた。
これらの反応より、コラボレーションを通じて、ナイフ教室の潜在層にアプローチする試みは、一定の成果が得られたと考えられる。
教員からのメッセージ
コラボレーション企画のナイフ教室はナイフクラフトの未体験者のみならず、これまで何度も足を運んで頂いているナイフ教室のリピーターの方からも大変好評でした。参加者の中には、森のプログラムをきっかけに現代陶芸美術館を訪れ、その後、何度も展示に足を運ぶようになったというご家族もいらっしゃいました。
「おとなと子どもの里山ナイフ教室」という場が、もの作りの楽しみだけでは無く、まだ知られていない場所やイベントの面白さも発信できるような気もしています。今後も一緒に開催したら面白そうなコラボレーションのお話があれば、その機会を積極的に活用したいと思います。
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このワークショップの活動レポートはmorinosや現代陶芸美術館のウェブサイトからご覧頂けます。