【アニュアルレポート2023】学内で伐採されたカツラを利用した講義机製作
学内で伐採されたカツラを利用した講義机製作
講師 渡辺圭
目的
外国産広葉樹の値段の高騰や、木材運搬距離の削減の動きが高まってきているなどの理由で、国産広葉樹材の需要は増えている。一方で国産広葉樹材の供給体制は十分とはいえず、家具やその他の木製品に利用可能な材でも流通経路がないためにチップ用材となったり、林地に残置されたりすることもある。都市部でも街路樹や公園の支障木など未利用のものも多くあり、それらの材を比較的簡易な設備で活用するモデルを示すことができれば、さまざまな地域での未利用広葉樹材の活用に繋がる。また環境への負荷も軽減し、チップ用材や廃棄されるよりも高い値で材を売る事ができれば地域経済への貢献にもなる。今回の取組が使えないと思われている材に目を向けるきっかけになればと考えている。
概要
2022年12月に林業専攻の池戸先生(2023年にご退官)より、アカデミー学内のカツラの伐採計画があり、木工専攻で材として活用できないかとお話しいただいた。伐採することになったのは根が水道や電気の配管に入り込んでしまうなど、やむを得ない事情の為だった。
アカデミーの教員になる前は福岡県で家具職人をしていたが、その頃にも庭木の伐採で大きなケヤキがあるけど使えないかとか、公園の敷地内で台風の影響で倒れてしまったコナラでなにか作れないかなどの相談を受けることもあった。しかし地域には製材所もなく乾燥設備や桟積みしておく場所もなかったため、お断りしてしまっていた。つまり私自身もそういった樹木は使うことのできないものと思ってしまっていた。
アカデミーには簡易製材機や卒業生の渡邉聡夫さんの課題研究「ビニールハウスを用いた低コスト木材乾燥の実施検証」で製作したビニールハウス乾燥設備があり、丸太を家具用材として使える状態の板にすることは比較的容易にできる。お話いただいたカツラも2023年5月に製材し、9月頃まで乾燥させていた。
カツラといえば鎌倉彫などの彫刻材として使われたり、材の狂いにくさを活かして引き出しの側板などの用途に使われてきたりしたが、今回用途は決めずに板の状態にしていた。板の状態になってみるとある程度の幅もあり使えそうな材の量も多かったので、「テーブル製作」の授業で講義室の机を製作することにした。
また今回もう一つの試みとして、小径木をなるべく有効に使うことができるように材の形に合わせてCNCルーターで矧ぎ合わせ面を加工した。CNCルーターとはCADなどで製作したデータに合わせてコンピューター制御で加工をする機械で、材を撮影した写真からデータを作成し、加工した。今回は学内のカツラを使用したもの2台(うち一台がCNC加工による矧ぎ合わせ)、岐阜県産材のイチョウとホオノキをそれぞれ1台ずつの4台の机を製作した。
今回使用したカツラ材が伐採した場所から製材、乾燥、加工、使用する講義室までどのくらい移動したかをGoogleマップで測ってみたところ、約950mだった。一般的な車のCO2排出量をもとに、距離から計算すると今回の木材輸送によるCO2排出量は約200gとなった。人間が一日に排出するCO2の量が約1kgと言われており、加工の際に機械を使いCO2を排出しているということはあるが、輸送に関してはとても環境に対して負担の少ないものとなった。
輸送技術が発達していない頃は、近くの山の木を伐採して家を建てたり、暮らしの中で必要な木製品を作ったりするということは当たり前だった。地域の材を近い範囲で使っていくというのは環境的にも、コスト的にもとても理にかなっていると思う。もちろん地域によってできること、できないことはあると思うが、こういった取り組みが増えることで、使われる材の選択肢が増えることを願っている。
教員からのメッセージ
アカデミー学内では材の伐採、製材、乾燥は、手間がかかったり効率的ではなかったりする部分もありますが、一連の流れができています。こんなに極端に狭い範囲で伐採から利用するところまで繋がっている事例は他では少ないとは思いますが、アカデミーの教員となり、私自身それまでは活用できないと思いこんでいた樹木も、思ったより小規模な設備で使える材にすることができるということを知ることができました。ぜひ設備や出来上がった机などアカデミーに見に来ていただき、様々な地域で取り入れるきっかけにしていただけたらと思います。
活動期間
2023年4月〜2023年12月
関連教員
池戸 秀隆(2023退官)
前野 健
関連授業・課題研究&関連研修
Cr1木工 テーブル製作
Cr2木工 収納家具
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