木工教員みずから卒業生と起業
木工専攻の教員の久津輪 雅です。今年2月、卒業生とともに一般社団法人を立ち上げ、4月から本格的に活動を始めました。
団体の名称は「技の環(ぎのわ)」と言います。キャッチコピーは「伝統の技を支え、人をつなぎ、環をつくる」。そのコピーの通り、文化財の保存修理や伝統工芸品の製作などの伝統技術がこれからも継承されていくように、後継者育成や、原材料・道具の確保などの支援をすることを目的とした団体です。
技の環を設立したきっかけは、岐阜県が2019〜2023年度に実施した「匠の技を支える道具の保存伝承事業」です。県内の職人は使う道具のほとんどを県外からの供給に頼っており、実態と課題を調査する事業でした。その調査員を私と卒業生の大滝絢香さんが務めました。大滝さんはモロッコでの旅行会社勤務や東京での大使館勤務などの仕事を経て、地域に根ざした文化に携わる仕事をしたいと森林文化アカデミーに入学。木工と言っても「作る」よりも「伝える」「支える」仕事を当初から希望していました。
技の環のウェブサイトに写る4人のスタッフのうち、左端が私、隣の鮮やかな黄色の服の女性が大滝さんです。残る2人は工芸コーディネーターの蓑谷百合子さんと、元岐阜県工業技術研究所長の村田明宏さん。いずれも伝統工芸に携わる仕事をする中で知り合い、意気投合して仲間になった人たちです。詳しくはリンクをご覧ください。
主な活動は岐阜県文化伝承課から受託した「匠の国ぎふ 課題解決支援」の事業で、これは県内の職人や関係者からの相談を受け付け、情報提供をしたり詳細調査をしたりして、課題解決につなげるお手伝いをするものです。活動開始とともにさっそく各地から相談が寄せられています。相談が来るのを待つというより、4人のスタッフが現場へ出かけ、職人や関係者と対話をする中で課題がいくつも出てきます。それらをすくい上げ、解決に向けて動いています。
ところで法人を設立するには、定款を作ったり、登記をしたり、事業計画書や収支予算書を作ったりと、様々な準備が必要です。お金の面も、設立前から開業資金が必要だし、動き出したら給与などの経費も支払わなければなりません(ちなみに私はフルタイムで森林文化アカデミーに勤務している公務員なので、技の環の仕事は勤務時間外や休日などに行っています)。
森林文化アカデミーの木工専攻では日頃から学生たち(特に40歳以上で入学する人たち)に起業を促していて、「木工の経営学」という授業も実施しています。元信用金庫職員で、森林文化アカデミーを経て曲物工房を起業した清水貴康さんが非常勤講師となり、起業に向けたノウハウを教えています。
教員の私自身は起業経験がないのに学生たちに起業を促していたわけですが、今回みずから社団法人を立ち上げたことで、私の経験すべてがリアルな教材になりました。さっそく授業でも法人の設立や運営について詳しく話しています。
森林文化アカデミー木工専攻は、「作りたい」人だけでなく、「伝えたい」「支えたい」人材を育成しています。関心ある方はぜひオープンキャンパスやオンライン相談会へどうぞ。
久津輪 雅(木工専攻・教授)
※技の環の取り組みを、4月から岐阜新聞で月1回連載しています。ウェブ版で全文読めますのでご覧ください。
第1回 「技の環」誕生 岐阜が誇る伝統に危機
第2回 鍛冶職人 舟造りに使う釘、モジ、玄能
6月以降も続きます。