木工事例調査R7冬① ぬし熊
木工やものづくりの事例見学をする木工事例調査。今回は1泊2日の行程で、三重県へ行ってきました。その時の様子を森と木のクリエーター科木工専攻の学生がレポートで紹介します。
木工事例調査1日目の午前は、三重県尾鷲市にあるぬし熊を訪問しました。ショールームを案内してくださったのは、代表の世古効史さんです。三重県尾鷲市にある明治20年(1887年)創業の工房「ぬし熊」。世古さんはこの地域の曲げわっぱの一種である「尾鷲わっぱ」の第4世代職人です。世古さんは22歳で家業に入り、父親の作業を見て技を覚えました。
残念ながら工房を見学することはできませんでしたが、世古さんは歴史や製造工程を説明し、私たちの多くの質問に答えてくれました。
曲げわっぱといえば、お湯と型を使ってひのきを曲げて作る丸い箱が一般的です。現代では作る人が減ったとはいえ、その人気は健在で、多くの人が予約を待っています。曲げわっぱの歴史は日本全国にあり、最近発表された奈良時代(710~794年)の出土箱に関する研究のポスターも見せてくださいました。
全国各地で、箱はそれを使う人々のニーズに合わせて進化してきました。しかし、世古さんの「尾鷲わっぱ」が特別なのは、曲物の背景にある歴史だけでなく、曲物の素材や作り方にあります。例えば、この曲げわっぱは漆で仕上げられています。漆はもともと熱や水にとても強いのですが、世古さんは労働者たちがみそ汁用のお湯を沸かすために、焚き火で熱した石を曲げわっぱに入れていたことを教えてくれました。
尾鷲市のHPから:
江戸初期尾鷲林業の振興とともに山林従業者が急増し、これらの人々の食器として木製曲げ物(わっぱ)が既に使用されていました。同じころカツオ漁も盛んとなり、漁師らも専ら食器に「わっぱ」を愛用しました。製作工程は45工程で入念に行われます。素性のよい尾鷲ヒノキ材を板に割り、水に浸けておき柔らかくしてから曲げ、桜の皮で継ぎ目を閉じ、漆を塗ります。純粋な漆はヒノキ材によく浸み、剥げることはありません。尾鷲わっぱは、平成6年(1994)10月19日には三重県指定伝統工芸品に認定されています。
先日、木工専攻の1年生は高山市の西田さんと曲げわっぱのワークショップを行い、材料の選び方を含め、箱の背景や作り方について学びました。職人たちは人工林のものよりも天然林の木を好んで使います。なぜなら木材の年輪はより細かく、より簡単に曲げることができるからです。
「尾鷲ヒノキ」は、日本の中でも最も降雨量が多く、温暖な気候のこの地域で、急峻な地形とやせた土壌という木が生育するには厳しい条件の中で長い年月をかけて育てられます。その複合的な要素が重なることで、年輪が緻密で耐朽性に優れ、赤味が強い「尾鷲ヒノキ」になります。
尾鷲は温暖な地形であり、秋にも成長が続く為、秋材の占める割合が多くなっています。
秋材は、低温な時期に成長したために、細胞が小さくよくしまっており、幅が狭く、色が濃く、堅くて、強度も大きくなります。さらに、FSC®認証を受けた木材を利用されています。
尾鷲わっぱを作るには全部で45の工程があり、乾燥と養生に多くの時間がかかるため、1個作るのに約1ヶ月かかるといいます。しかし、出来上がった尾鷲わっぱは一生ものであり、一族の中で受け継がれることも多いそうです。
世古さんの曲げわっぱのもうひとつの違いは、接着剤を使わないことです。胴体の壁と蓋は、漆に木の粉や小麦粉を練り混ぜた「こくそ」を板の合わせ目に、隙間なく塗り込んで、2枚のカンバ(桜の皮)で縛って固定されています。底板と蓋も竹釘で固定されているので、経年変化によるサビの心配もありません。ヒノキと漆は天然素材なので、電子レンジでも安心して使えるそうです!
今回の調査では、世古さんから、木工芸術の歴史の大切な視点を学びました。この学びを今後の活動に活かしていきたいと思います。ご対応いただきました世古さんに感謝いたします。ご多忙の中、貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。
森と木のクリエーター科 木工専攻1年
ベケット りんど
安達 彩佳