講座の運営を実践から学ぶ「木育講座の基礎」
クリエーター科木工専攻1年生の実習「木育講座の基礎」では、エンジニア科の学生にスツール作りを教えます。

今回製作した3本脚のスツール
このスツール作りのプログラムは、山で材料になる木を切りに行くところから一緒に体験し、クリエーター科の学生から、もの作りの魅力を伝えるもの。
この実習では、講座の準備から運営・片付け・ふり返りに至るまでのひととおりを体験し、同時に対象の理解や伝え方など、多様な学びを得ます。
今回、履修した1年生の浅野さんが、授業をふり返ってレポートにまとめましたので、ご紹介します。
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「木育講座の基礎」の授業にて、1/20.29.30 の3日間に渡りエンジニア科1年生(以下En1)の皆さんに3本足のスツール作りを指導しました。この授業では木育について理解するとともに、プログラムの企画と運営の体験・実践をしてみるということが趣旨となっています。En1の皆さんは「里山資源の様々な利用」の授業の中の1つとして、このスツール作りを体験してもらいました。

削り馬とセンの使い方を説明する様子
今年度はこの授業を採ったのはまさかの自分一人!しかもやる気はあれど説明が上手い方ではない(むしろ下手)という状況で、どのように進めていけばEn1の皆さんに安全でスムーズにスツール作りを進めてもらえるのかと思案し、先輩たちのワークショップでの経験を参考に、手順に沿ったスライドを作成してみることにしました。
講座を終えた今、このスライドは自分の中であって良かったなという気持ちと不要だったかなという気持ちが半々に感じています。不要だったかなというのは、自分で作ろうと決めたものの、時期的に他の授業課題などと重なったこともあり、一人でスライドを作成するのがなかなか大変だったのと、想定した活用が出来なかった(これは準備不足もあったと思います。)と感じたからです。
他方、説明が不得手である自覚があるので、カンニングペーパー的な意味合いとしてやはり用意しておいて良かったなとも感じています。

スライドを使ったレクチャーの様子
3日間の工程は大まかに下記の通り。
- 1日目:脚の材料選び~ほぞ取り、座板の木取り
- 2日目:座板の成形、脚との接合
- 3日目:ツノ切り(座面から出ている余計なほぞを切る)、座面の仕上げ、脚の長さ調整
基本的に全体の説明は自分が行い、不足している部分を前野先生に都度補足していただく、というスタイルで進めました。またこの3日間は卒業生で木工専攻18期生の丹羽さんにもティーチングアシスタントという形でサポートに入っていただき、En1の皆さんの作業中は3人で見回りつつ手助けをするという形をとりました。
今回使ったスツールの脚は、昨年10月にEn1の皆さんと一緒に濃加茂の里山を整備した際に間伐してきたアラカシです。里山資源の活用ということで、間伐材でも今回のスツールの様な家具であれば十分に利用でき、しかも生木の状態でも、ものづくりができるのだということを知ってもらう良い機会になったのかなと思います。

自分達で切ってきたアラカシから、スツールの脚を選ぶ
3日間の製作期間の中で特に伝え方に苦心したのが、脚を座板に固定する「くさび」を打つための切り込みの入れ方でした。口頭で上手く伝えられる自信がなく、スライドで図を作ってはみたものの、いざ本番になるとしどろもどろに…。
先生に助け舟を出していただいて何とかなりましたが、自分の中に十分に落とし込めていない状態で人に伝える、というのはやはり上手くいかないなと痛感しました。そんな中でもEn1の皆さんは感覚的にわかってもらえていた様子で、ほとんどすんなりと心配していたパートが終わったのも印象的でした。

クサビの切込みを説明するイラスト
今回の講座は自分の中で「全員に完成してもらう」ということをゴールに設定していました。
このゴールは主観的な部分もありますが、最後まで作り遂げたことでしか得られない達成感を感じてもらいたいなという気持ちがあったからです。
なので脚の材選びの際も「あまり太いものにすると削るのが大変になりますよ~」などと初めにやんわり伝えたり、苦戦している様子を見かけると「少し手伝おうか?」と声をかけたりしてはみた一方、「自分で選んだもので自分なりのやり方で作りたい!」という気持ちもとても理解できるので、設定したゴールに対してどこまで手や口を出さず見守るべきかということを終始考えていました。

脚の先端にほぞを作る浅野さんの実演
結果的には全員が完成できたことで目標は達成できたとは思いますが、講座が終わった今でもあの手助けは余計だったかな、実はそっとしておいても自分でやり切れたかな…とつい考えが巡ります。そんな中でもEn1の皆さんの授業の感想を読ませてもらったところ、スツール作りが特に楽しかったと書いてくれていた子が何人かいたことで、大変だったけどやはりチャレンジして良かったなと感じました。

みんな無事にスツール完成
最終日は伊佐治先生やユタさんの用意してくださった鹿肉BBQにも混ぜてもらい、ご相伴にあずかりました。鹿肉、美味しかったです!
まとめの中で伊佐治先生がおっしゃった「準備が八割」という言葉をひしひしと痛感しています。思い返せば準備が足らなかったなと思うことだらけですが、本当に良い経験となる授業でした。
Cr1 木工専攻
浅野 由佳理

頑張ったご褒美?絶品の鹿肉料理
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この実習の特徴は「教えられた正しいやり方を実践する」ことでは無く、対象(今回であれば、エンジニア科の学生たち)を理解して、その上で、彼らに伝わりやすい方法を自分達で考えながら、講座を組み立てて実践することです。
このやり方ですと、もちろん学生は失敗することもたくさん出てきます。一方で転びながら学んだ体験は、苦労なく得られた成功体験よりも有意義で、多くの力が身に着くように思います。
教員は「頑張ってね」と言いつつ、同時に(たくさん失敗しなよ)と内心思いながら見守っているこの実習。今回は1人だけの履修ということもあり、ことさら大変だったと思う一方で、たくさんの経験値と学びが得られたと思います。
浅野さん、とても良く頑張りました。お疲れさまでした!
木工専攻 准教授
前野 健