木工専攻夏休みの宿題「木端どうすんねん問題」を考える
7月の初め、木工専攻では授業で京都府宇治市にある京都炭山朝倉木工さん(以下、朝倉木工)を訪問しました。朝倉木工ではオリジナルデザインの無垢の木の家具を制作しています。この日は代表の朝倉亨さんと妻の玲奈さんにショールームや工房をご案内して頂き、多くのことを学ばせて頂いたのは、以前にアカデミーブログでご紹介した通りです。今回の記事は、その続きのお話になります。
実はこの時、玲奈さんから学生達に出された宿題があったのです。それは、木工をしていると必ず出てしまう「木端(こっぱ)※」の課題です。
※木端とは、もの作りの中で出てくる木の端材のこと。大抵は用途が無く薪にされたり廃棄されてしまうもの。工房から出るぽいぽい材。
玲奈さんは、この木端でも「何かができるのでは」という思いがあり、捨てることができないのだそうです。玲奈さんの言葉を借りると「木端どうすんねん問題」です。「学生の皆さんにも、この木端の使い道を考えてみてもらいたい」と、私達は朝倉木工を後にするとき、工房で出た木端を頂いてきたのです。
この「木端どうすんねん問題」に木工専攻の学生と教員が夏休みの宿題として取り組んでみました。その成果をご紹介したいと思います。
木端スタンド_安達彩佳Cr1
いただいた木端をすべて使用する&端材から端材を生み出したくなかったので、そのままの形状を活かした、PCスタンドとスマホスタンドを作りました。PCスタンドは傾斜のある3つの端材を貼り合わせ、切り込みにPCをひっかけています。スマホスタンドは溝を2個所作り、一方はスマホを配置し、もう1つの溝に板を嵌めてスマホを支えています。(安達)
リングストッカー(アクセサリーストッカー)_横井 清Cr2
端材を接着し、木工旋盤で挽きました。先細りの円柱型にし、端材の見え方を考慮してデザインを決めました。支柱となるリングストッカーだけでなく、下皿をつけて安定感を増すようにしました。下皿も弁当箱製作時の端材です。指輪を支柱に上からはめ込みストックできます。下皿にはネックレスやピアスを置いておくことができます。
三色きのこけし_橘 明広Cr1
「きのこけし」とは、こけしと経筒の機能を兼ね備えたものです。宮城の鳴子や仙台などに細々と売られていた「こけし通信」をブラッシュアップしました。こけしの胴体に美濃紙の手紙を入れて、定形外郵便で、220円で送ることができます。朝倉さんからいただいた木片を接着して、初めて3色柄の「きのこけし」を作ることができました。今まで丸棒を手彫りしたり、旋盤したりして制作していたのですが、材を接着することで新しいデザインの「きのこけし」のアイデアが生まれ始めました。(横井)
あしのおとも_見世 健太Cr1
木っ端を使用して作成した「くつべら」です。木端から新たな木っ端を出さないように元の形をそのまま利用したので斜めに自立します。持ち手の部分は、異なる持ち方、手の大きさに合うよう、曲線的なくぼみをいれています。かばんに入れて持ち歩くこともできるハンディなくつべらになりました。(見世)
Yosege(寄木+髪の毛)_若田拓也Cr2
特徴は樹種の色。不規則に接着したため、同じデザインのものがない一点もの。本体内径が小さく、毛量が多い方はハーフアップがお勧め。特に難しい工程は無かったが、インスタグラムに当写真を投稿したところ朝倉さんからご連絡を頂くことができました。インスタグラムを通じて、意見やアドバイスを頂くことができるということ、アイデアが浮かんだらとにかく形にしてみることの大切さを学ばせてもらいました。(若田)
やまのはスタンド_浅野由佳梨Cr1
木っ端の状態から極力そのままの形を活かし工数を少なく製作できるよう考えました。
山の連なりの様な見た目と、元は山から来た木の端材ということで「やまのは」と名づけました。
樹種を裏表変えることで、2通りの表情が楽しめます。今回はフォトスタンドとして製作しましたが、溝の寸法次第でミラーを差し込んでの使用もできるよう考えました。(浅野)
ボーっとしてない棒_矢持達也Cr2
主な用途は、鍋敷です。板の向きを変えて置くと色々なデザインが楽しめます。また、磁石が付いているので冷蔵庫などにくっつけて置くことができます。紐もついているのでぶら下げてもOKです。3つの端材をバランスを考え接着しました。思いの外スッキリとしたデザインになって気に入ってます。(矢持)
ペントレイ_鈴木達也Cr2
我が家では玄関先に置いて、カギや宅配便用のハンコ入れにしています。 単純に同じ角度のついた端材は組み合わせれば平行になると考えたことから、端材をふたつ張り合わせて三枚におろし、幅はぎしたものをCNCで掘り込んで作成しました。オイル仕上げ。
端材が溜まってしまい処理に困るということが今回の「お題」の発端だったので、手間をかけすぎずに製作できるようになるべくシンプルなつくりにしました。外国産材は、オイルを塗るとコントラストが出て美しいことを実感しました 。(鈴木)
クサビ額縁_ベケット・リンドCr1
夏休みにうちの猫ちゃんの絵を貰いました。絵に合わせて額縁を作りたかったので木端から作りました。材の長さは絵にぴったりして良かったです。(ベケット)
猫のウォールデコ_前野 健(教員)
最近、板の木目だけでも鑑賞の対象として成り立つのでは・・と思うことがあり、あえて実験的に用途の無い題材を選びました。手軽に壁に貼ることで、木の表情・彩りを室内に与えられたらと思い作ってみました。さすがに木端をそのまま壁に貼るだけでは作り手として工夫が無いため、木の表情+欲しくなる形を考え、ネコ型の壁に貼るレリーフ(ウォールデコ)としました。(前野)
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さて、いかがだったでしょうか?
普段は作る形・使う技術が決まった製作実習が多い中、今回は逆に材料の制約のある中で、自由に表現するという逆のアプローチを体験してもらいました。1年生に至っては、まだ木工を初めて半年足らず。やりたいことに技術が追い付かない歯がゆい部分もあったと思いますが、結果として、とても素敵な佳作が多く生まれたように自分は思います。
小さな木片から様々な作品が生まれる木工やデザインの面白さ。個人的には「デザインとは課題解決の手段」という、もの作りにおける大切な視点を、それぞれに感じることができたのが良かったと思っています。
朝倉木工さまには、この場を借りて課題成果のご報告とお礼を述べさせて頂きます。
とても素敵な学びのテーマを頂き、ありがとうございました!
木工専攻 准教授
前野 健