【‘24夏 木工事例調査③】安多化粧合板株式会社
木工事例調査の2日目に、大阪八尾市にある安多化粧合板株式会社を訪問しました。こちらでは、様々な広葉樹で化粧合板※を作るという特徴的な事業をされています。今回、関西方面での木工事例調査を計画するにあたり、ぜひお話を伺いたいと思い訪問させていただきました。
※化粧合板とは、住宅や店舗などの建物の内装などに、意匠的な目的で使用される合板のことです。
安多化粧合板株式会社では、主に広葉樹を薄くスライスした突板(つきいた)を使って、他には見られない多種類の化粧合板を製作されています。今回は、先方のご厚意で工場とショールームの見学だけでなく、化粧合板を実際に作る体験もさせて頂きました。
到着後すぐに、「ヨーロッパ産のりんごの木があるからこちらへ」と案内してもらい、社員の方から化粧合板を製作する工程の説明を受けながら間近で製作の様子を見せて頂きました。化粧合板は大まかには下のような工程を経て作られます。
化粧合板作りの一連の工程を伺った後、私たちも、化粧合板作りを体験させてもらいました。
いざ、実際に一連の作業を体験してみると、突板の配置を変えるだけでずいぶんと板の表情が変わるのが印象的でした。また、様々な組み合わせからなる木の表情を間近に見ながら、1本1本の木が持つ特徴を活かすという新たな視点を学ぶことができました。
安多化粧合板株式会社では、6名の社員で全工程を担っており、受注生産を主として在庫をつくらない方針で経営されているそうです。
北海道大雪山のナラ材は、社員の方が北海道に出向いて伐採し、現地で製材した上で突板にします。日本国内だけではなく、スロベニア、クロアチア、ドイツ、ポーランドなどのヨーロッパ諸国にも活動拠点をおき、ここでも実際に社員の方が出向いて、現地の方とともに木を伐採し、製材もするそうです。こうすることで、社員自らが現地に出向いて材を見極めるとともに、現地の林業、製材業と協力しながら活動されている点に強く感銘を受けました。
工場見学の次に、ショールームを見学させてもらいました。
ショールームには、まだ合板に貼っていない突板のストックも並んでいました。見比べてみると同じチェリーでも育ち方によって色味には違いが出てきます。燻製は色味を出すことも目的ですが、自然の力を借りて、予想がつかない木の表情に変わるのが、面白みのひとつであると、楽しそうにおっしゃっていました。右から2番目の木目の表情がしっかりと見えているは、野生のオリーブです。樹高8mくらいの長さを切ったものだそうです。
安多化粧合板で使用している突板は、木が育ったそのままの形で使っているため、歪みがあったり隙間ができたりすることもあります。その木の形を意匠として使うために、下地のベニヤを黒く塗ることによって、デザインとして際立たせているものもありました。
ショールームの裏には様々な草木が植えられていました。あえて季節が感じられるものを植えることで、身近な場所から自然を感じるように環境設計をされていました。
ショールームでは様々な樹種の化粧合板を見させてもらい、その樹種ごとの特性や性質を活かす意味や面白みを感じながら製作されていることを伺いました。同じ樹種であっても表情や色が全く異なるので、化粧合板は完全オーダーメイドで製作されているそうです。
突板を貼り、合板を製作するというのは、アカデミーの木工専攻のカリキュラムにはないため、製作過程や考え方がとても新鮮でした。自然の力や特性を引き出すことでそれがデザインや意味に繋がり、それは唯一無二のものづくりとなる。木工製作としてかかせない大切なことを教えて頂いたように思います。そして、何よりも安多社長をはじめスタッフの皆さんが楽しみながらお仕事に取り組まれている姿が印象的で、熱量を持って取り組まれることで良いもの作りができると感じました。
安多化粧合板株式会社の皆さまには、ご多忙の中、お時間を割いて丁寧にご対応して頂き、本当にありがとうございました。今回、体験で作らせて頂いた化粧合板は、今後の学内での製作実習で活用したいと思います!
安多化粧合板株式会社ウェブサイト https://veneer.co.jp/
レポート:森と木のクリエーター科木工専攻2年 横井 清、木工専攻1年安達 彩佳