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2023年11月06日(月)

バウビオロギー(建築生物学)の温熱環境を考える

11月3日、4日と第3回バウビオローゲの会を開催。全国からバウビオロギーの実践者が集まりました。
 
今回のテーマは、私が企画した「バウビオロギーの温熱環境を考える」です。
2022年に日本では上位の断熱等級が示され高断熱化に向かっています。
これは良いことなのですが、本来の目的は「心地よくエコに暮らせること」、「家族が幸せに過ごせること」です。
日射制御や暖冷房設備も考えながら断熱や気密、日射をどのようなバランスを取り入れるべきか。
今回のテーマも面白そうです。
 
初日は、実践者の報告と石川先生のセミナーです。
 
 
次に、日本バウビオロギー研究会の代表であり前橋工科大学副学長の石川先生からの報告です。
バウビオロギーとの出会いはホルガ―・ケーニッヒさんの「健康な住まいへの道」を翻訳することだったとのこと。
この作業の中で、暖かいとか涼しいといった日本の情緒的なとらえ方も大切にしつつ、ドイツから定量的な物事の考え方も学んでいく姿勢を発見したとのこと。
また、ドイツやフィンランドのような高緯度の地域では、低い角度から太陽が差し込み、一日を通してまさに室内に光が通り抜けるような体験できます。
日本にいて図面を見ているだけでは、このような感覚は得られないのですが、敷地との共鳴によって、その土地ならではの建物になっている実例を紹介いただきました。
 

石川先生による実践者報告

3人目は、前橋工科大学学生の木津さんから卒業研究で取り組んでいる「こころの健康―暮らしや居場所に対する満足度と主観的幸福感の相関分析」の報告がありました。
多くの居住者アンケートから、いろいろな居住環境と満足度、主観的幸福感の関係性をあきらかにしています。

初日の最後は再度、石川先生から専門家セミナーとして、居住環境と暖房設備について話していただきました。
バウビオロギーでは、壁面暖房が良いとされていますが、これは日射が当たった時のような状況を作ること。
壁面暖房でも特に上方から熱がやってくると頬がポカポカして心地よいです。放射暖房では上下温度分布が起きにくくなります。

また、ご自宅で実践された壁面暖房の実例や、現在改修中のスタジオ等を課題も含めて話されました。

 

2日目は、話題提供として

私から、目指すべき心地よくエコに暮らすにはどうするかを、現在考えている内容と課題をお話ししました。
家の中に、適度な温度ムラがあることで、居心地の良い場所を自分で調整する楽しさが味わえます。
そのためにも断熱や気密、日射といった外皮性能は一定以上向上させないといけません。

その他、日本の湿気の問題(梅雨や夏期の高湿、冬期の乾燥)にも言及しました。
ドイツではこれまで、湿気(特に高湿)に関して大きな問題になっていないためバウビオロギーでも大きく取り上げられていません。

話題提供2人目は、東京都市大学名誉教、BIJ理事の坊垣先生です。
近年、行ってきたテラスハウスやマンション改修の実例を紹介いただきました。
その中で、実際に熱性能を計測する加熱箱法による断熱性能推定などは非常に興味深いものでした。

さて最後は、全員で輪になってディスカッションです。
話題にしたい内容は、これまでの報告で出てきた

・どんな温熱環境を目指す?
・外皮性能はどのくらい(断熱、気密、日射)
・暖房は何を使う?
・湿気の対応は?
・簡易箱測定機の可能性は
・外断熱の材料は
・温湿度変化の未来予測
・主観的、客観的な感じ方(CASBEE健康CL)
・限られた予算でどのように対応するか

などです。
私の進行の未熟さもありすべての話題には言及できませんでしたが、バウビオロギー実践者との意見交換は有意義な時間でした。
学生からは実感を伴った感想や、実務者からはコストとのバランスで性能や素材の選定、定量的な評価に加え、情緒的な感じ方の大切さなど、気づきのある内容になりました。

 
 
終了後は希望者にモリノスプログラムを体験していただきました。
今の季節でしかできない葉っぱのグラデーションづくりや木材同定など、私も初めてのプログラムで、楽しめました。
木造建築専攻 教授 辻充孝