【アニュアルレポート2023】長良杉で作るアルヴァ・アアルト 模型製作ワークショップ
長良杉で作るアルヴァ・アアルト 模型製作ワークショップ
教授 辻充孝
目的
フィンランドを代表する建築家アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto/1898-1976年)は、木材に代表される自然素材や有機的な曲線デザインを用いた建築や家具で、直線的なモダニズム建築に人間性や温もりを与えたことで注目された。また、光や色彩、音響なども工夫し、空間に深みや豊かさを生み出していることでも有名である。
今回アアルト財団の協力を得て、パリ万博フィンランド・パビリオンの300枚近い貴重な図面を提供いただき、模型を製作する機会をいただいた。アアルト財団によると、この建物はフィンランドスタイルを世界に知らしめた非常に重要な建築であるが、これまで模型化されておらず、建物写真も10枚ほどしかなく、知る人ぞ知る建築となっているとのこと。
自然と調和した建物配置や、自然光あふれる空間構成、木製ルーバーの優しい表情など、この建築を図面と文献から読み解き、模型を製作することでアアルトの考え方を学び、建築の造詣を深めることを目的とする。
概要
北欧建築研究の第一人者である日本福祉大学の坂口大史准教授の計らいで、アアルト建築を深く理解する機会を得た。数回に分けてフィンランドと結んだオンラインレクチャーでは、フィンランド教育省のSirkkaliisa氏、写真家兼模型家のJari氏、アアルト財団のTimo氏に参加いただいた。レクチャーを含む数時間にも及ぶミーティングを経てアアルトやその建築の理解が深まった。図面や
この建物は、敷地にあった既存樹木を伐らずにその合間を縫って建設したことも特徴の一つである。さらに高低差が5mもある斜面地に計画されており、アアルト建築の特徴である敷地と建物の関係性が明確に表れた建築である。
また、アアルトは現場でいろいろ変更することで有名であり、図面と写真の整合性が取れていない箇所が散見された。写真と図面が食い違うということは、最後の最後までより良いものにしようというアアルトの熱意が感じられる。
フィンランド・パビリオンは、現存するアアルトの傑作ヴィープリの図書館と同時期の作品で共通点も見られる。また、パビリオンの性質上、設計期間はおそらく短時間。その中で自国のシンボルとなる建物をどう表現できるかにこだわったはずである。得られた情報から建物理解を深め、実施図面や手書きスケッチ、写真などを手掛かりに最終的な図面をイメージして竣工図面のCAD化を行った。
今回、 1/100スケールで敷地を含めた建物全体をモデル化し、アアルトの柔らかい素材感を出すために、無垢の長良杉赤味を用いることに決めた。アアルトの特徴の一つである複雑な装飾はレーザー加工機を用いることで表現した。
製作の途中で、フィンランドとのオンライン・ミーティングや、プロの模型作家さん、日本福祉大学の坂口氏、ギャラリーA4の方との打ち合わせを経て、模型の完成度を上げた。
完成した模型は、『 アイノとアルヴァ 二人のアアルト』として、2021年に世田谷美術館、兵庫県立美術館を巡回された。その後、2023年からフィンランド・ユヴァスキュラにあるALVAR AALTO MUSEUMに展示されており、学芸員さんは「美しい模型なのでこれにはアクリルカバー無しで、そのまま見てほしい」と語っておられた。
教員からのメッセージ
当時の図面や写真、またアアルトをよく知る国内外の関係者の方のコメントから建築家の意図を読み解き、理解を深める作業は、アアルトの思考をたどる謎解きの感覚でした。ここの納まりの意図は何か?写真からはこう見えるが図面は?など、学生と夜遅くまで議論しました。今回のWSで、世界的建築家アルヴァ・アアルトの一端を学生と一緒に理解を深めることができたことは、代えがたい貴重な体験でした。
活動期間
2020年~2023年
連携団体
・Alvar Aalto Foundation
・日本福祉大学
・世田谷美術館
・兵庫県立美術館
・竹中工務店 Gallery A4
・ALVAR AALTO MUSEUM
活動成果発表
・森林文化アカデミーHPで活動報告
・『 アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド ― 建築・デザインの神話 』として、
世田谷美術館 2021年3月20日(土)~6月20日(日)
兵庫県立美術館 2021年7月3日(土)~8月29日(日)
・ALVAR AALTO MUSEUM常設(フィンランド・ユヴァスキュラ)
関連授業・課題研究&関連研修
・木造建築の総合デザイン演習(Cr)
・デジタルファブリケーション(Cr)
過去のアニュアルレポートは、ダウンロードページからご覧いただけます。