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2024年05月29日(水)

公開プロポーザルコンペ(自力建設2024)

自力建設2024「小規模木材乾燥庫」。ついに訪れたコンペ当日です。
本日、7人の一年生が渾身の設計案を発表しました。
会場は90人近くが集まって発表を待ち構えています。会場の全員が学内施設の増築についてしっかりと考え、7人の中から1人に投票するコンペです。

まず建築専攻の辻先生から、今年の課題説明です。
今年度「小規模木材乾燥庫」については以前のブログ記事にありますが、今回は「広葉樹を自然エネルギーでしっかり乾燥させる」という性能を要求される、難しい課題と言えます。

続いて「全体説明」として、施主にヒアリングした内容を会場に共有します。このあと自身の案も発表する石岡さんによる説明。解説資料は2年生の先輩に手伝ったもらったようです。

トップバッターは増岡さん。「kawaki」というタイトルで、片流れの建物を提案しました。
ラーメン構造という架構で耐震性能を、壁面3面と屋根から集熱する温熱性を担保した上で、造形を2019年自力建設Cobikiに寄せて、コンセプチュアルなまとめとなりました。模型もわかりやすくつくり込んでいますね。

(増岡案「kawaki」ここまで)

二番手は葛山さん。斜面にコンクリートの蓄熱体を設置し、冬季の夜間に室内温度を下げすぎないように工夫しています。今回のハードルとなる「冬の庫内温度の低下」に対する一つの解決策です。
東西の壁面はガラス張りですがよく見ると樹状の耐力壁が!昨年度の自力建設へのオマージュでしょうか。南面の格子はアカデミー本校舎と似せ、配置計画は2022年度「丁稚基地」に対して素直に向けており、既存の風景との調和を意識しています。

 

(葛山案ここまで)

三人目は高島さん。架構=棚というミニマルな提案でまとめました。南北が建具になっていて両方から使えたり、配置の工夫によっては拡張性がある、面白い案です。細長い架構の安定感も伝わってきます。初めての設計や模型制作で苦戦した様子が伝わってきましたが、それがこの自力建設の醍醐味。懸命に考えて、要素を絞ったタイトな案になりました。

(高島案ここまで)

四番手は、最年少20代の石岡さん。実の姉と共に入学してきました。(アカデミーはたまにこういうことがあります)

タイトルは「木々の育」。木を育てることと、人を育てることを表しています。
目に留まり記憶に残るデザイン、というコンセプトで、ガラスの納まりまで検討しての提案です。片方が3重構造、もう片方は2重構造にして温熱性能に差をつけて比較実験できるようにしています。全案の中で最も意匠に凝った提案でしたが、性能、機能をきちんと充足させた上での美しさに言及しました。「W」の斜め材はmorinosへのオマージュとのこと。途中、山紫水明という言葉が出てきたのですが、「眠すぎる状態でつくったので、自分でつくったはずのスライドの意味を忘れました」という発言で会場を沸かせました。

(石岡案「木々の育」ここまで)

会場からの活発な質疑も、このコンペの面白いところです。厳しいところをつく質問も多々出る中、前年度棟梁から助け舟にも思えるコメントが。「山紫水明は、各々の建物の名前にしたいと思ったのでは?」と記憶を石岡さんの呼び覚ましてくれました。

五人目は銭鼎琨さん。中国から日本に木造建築を学びに来ての参戦です。
通風、ガラスの角度、潜熱蓄熱体のデータを基にして、前職でのスキルを活かした3Dモデルでの解説を行いました。センサーとラズパイで庫内環境をモニタリングして換気制御する仕組みや、蜜蝋を使った蓄熱など、独創性と説得力のある提案でした。なんとロゴも制作。タイトルは「栞」。漢字で木を干すと書きますよね。

 

会場からは「ラズパイをどのような仕様にするのか?」というITエンジニアらしいコアな質問も。

(銭鼎琨案「栞」ここまで)

6人目の三宅さんは、敷地を読み解くことに時間をかけたという、建築設計の本質的な部分を捉えた提案でした。建築は敷地ありきですからね。
敷地の日射や降水量を調べ、高床式にして湿気から逃れるとともに、下に集熱パネルを設置して冬期の室温低下に対処するというものでした。条件である8立法メートルしっかり収納できる提案で、建物形状もシンプル。「沐浴Lab.」と名付けられた施設です。会場からは「他の提案もそうだが、景観的に目立ちすぎる」という意見に、セットバックや低くできることを即答したのも好印象です。

 

(三宅案「沐浴Lab.」ここまで)

ラストは山川さんの提案です。乾燥庫をワインセラーに見立てて、建物の側を通る人が、綺麗に並んだ広葉樹の板を楽しめるように全面ガラスにしています。
四隅に透湿材料を使って湿気を抜いていく工夫や、ガラスと中空ポリカの使い分けも解説され、初めての設計ながら、自分の案を時間をかけて詰めていった痕跡が見て取れました。会場からの質問にもしっかり対応し、準備と考察の積み重ねが生きた発表となりました。

(山川案ここまで)

最後は想定クライアントの渡辺先生かた労いの言葉をいただきました。
学生からは課題発表から1ヶ月、初めての設計提案で頭の中は「乾燥庫」でいっぱいだったとの発言もあり、施主として感謝していると言っていただけました。甲乙つけ難い提案に、5票の投票先は、これから5/31の締め切りまでじっくり考えるとのこと。

 

1年生の皆さん、大変お疲れ様でした。
この1ヶ月、各自が真剣な葛藤をしたと思います。それがクリエーターの仕事です。

代表設計者の発表は6月4日。それまで少しの休息をとってください。

 

木造建築教員:松井匠