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2025年03月26日(水)

“合意形成の難しさ”と向き合う—ソーシャルデザイン「課題の構造図を描く」

<2025.1.30-31> 森林環境教育専攻1年「ソーシャルデザイン」

10月から始まった「ソーシャルデザイン」も、ついに最終回を迎えました。恒例の「課題の構造図を描く」、今年の実習は、郡上市明宝の小川地区で実施しました。

小川地区は人口約120名の小さな集落。2021年に「めいほうトンネル」が開通するまでは、急な峠を越えなければならず、まさに“秘境”と呼ばれる場所でした。アクセスの不便さの一方、地域の結束は強く、伝統行事が多く残り、住民による様々な地域づくり活動が盛んです。冬には、住民たちが手づくりでスケートリンクを作る伝統が40年以上続いているなど、こどもたちを地域全体で育てる文化が根づいています。

しかし、悲願のトンネル開通と同時に小学校が廃校となり、子どもの数は減少の一途をたどっています。地域の未来を考えるため、明宝出身の下田知幸(しもだ・ともゆき)さんが市から委託を受け、住民の意向調査を進めています。今回の実習は、下田さんの協力のもと、「課題の構造図」を描く機会をいただきました。

講師は、「課題の構造図」を全国各地のの自治体と協働して実施している、NPO法人issue+designのデザイナー、白木彩智(しらき・さち)さんです。

実習当日、異例の大雪に見舞われましたが、予定を調整しながらお昼過ぎに無事到着。初めて訪れたアカデミー生たちは、さっそく「課題の構造図を描く」実習に取り組みます。

まずは、地域の実情を把握するために3名の方にヒアリングを行いました。

 

1人目は、下田知幸さん。
下田さんは、事業で小川の調査事業で、全戸アンケートを実施しました。

明宝出身で、母方の実家が小川にある下田さんですが、調査の前に信頼関係を築くことが大切と考え、全戸アンケートの前には「お酒を持って、いろいろな人の話を聞きに行った」とのこと。一人ひとりの声を丁寧に拾い上げながら、外の視点も交えて地域を捉えています。

2人目は、郡上市明宝振興事務所 高田課長
下田さんと二人三脚で、小川の将来についての指針を探っています。

地域の公共施設の整理が進む中、宿泊施設や廃校になった小学校の活用方法を模索。「不利な立地だったからこそ、地域の自立心と結束力が強まった」と話します。しかし、人口減少と高齢化が進む中、同じ人が複数の地域団体を兼務し、新しい動きが生まれにくい現状も浮き彫りになりました。

明宝振興事務所 高田課長(写真・右)と鵜木さん

3人目は、鵜木千紘(うのき・ちひろ)さん。
10年前に家族で小川に移住し、5年前には地域の漬物加工所を引き継ぎました。「暮らしにくいと思われがちですが、住みやすい場所ですよ」と語り、地域の結びつきや、”穏やかな”自然など、小川の良さを語られました。一方で、地域の今後については、小川単体ではなく、明宝全体で未来を考えていく必要もあるのではないか、という意見も挙げられました。

鵜木さんの息子さんたちが最後の卒業生となった小川小学校

下田さんから示された今回のテーマは、「新陳代謝が起き続ける地域であるためには?」。この問いに向き合いながら、この日ヒアリングしたことを基に、学生たちは課題の構造図を作成していきます。

まずは、ヒアリングした内容を付箋に書き出し。
「当事者が誰か?課題を誰の視点で書くか?視点の置き方が難しい」
事前練習の時に知った、課題抽出の難しさを実際に感じていました。

陽もすっかり落ち、本日の宿となる、古民家をリノベーションした素敵な「ななつやスティ」に移動。


郡上市の移住施策である「郡上カンパニー」で小川に移住し、小水力発電の立ち上げに携わっている大橋さんも来てくださり、小川の魅力と可能性について、さらに深く聞くことができました。


<2日目> 雪も止み、きれいな朝焼けが銀世界を照らします。
凛とした冷たい空気で頭をリフレッシュして、いよいよ課題の構造図を完成させます。

白木さんから、「新陳代謝を妨げる要因を洗い出し、つなげる」という指示が出され、作業を進めていきます。
しかし作業が進む中で図が複雑になり、着目する視点には個人の想いも強く入ってきて、図はバラバラになっていってしまいました。

 

一つにはまとまらないと感じた学生のみなさん。相談の結果、3つのグループに別れて作業を進めることにしました。

 

午後からの発表まであと30分。このまままとまらず、バラバラの図ができるのか・・・と思っていた時、白木さんから「よし、フュージョン!」と掛け声が。

白木さんが3つの構造図を統合していきます。異なる要素がつながっていくプロセスは、まさに圧巻。一つにまとまっていきながらも、3つのグループそれぞれが考えた要素や因果関係は、なんとそのまま反映されていきます。

学生からは「そうそう、そういうことだった!」と、感心の声が。

発表時間ギリギリで、ついに一体となった「課題の構造図」が完成しました。
高田課長、下田さんに向けて、作成した内容について学生が説明します。

高田課長は、「初めて見る形の図。地域の課題が、資本主義など社会全体のこととつながって示されているのが興味深い」とコメントされました。

 

今後に向けて、白木さんからは「本来、課題の構造図は当事者が作成するもの。次のステップとして、どこに焦点を当て、解決策を考えるかが重要」との助言がありました。

負のフィードバックループを可視化した今回の構造図ですが、今後は正のフィードバックループを見つけ、より良い未来への道筋を描くことが求められます。

最後に、今回のリサーチで白木さんが作成した「小川の課題を考える4つのポイント」が、下田さんに贈られました。

 

2日間の実習を終え、学生たちからはさまざまな声が上がりました。

「小川の人々の“地元愛”に触れた。もっと話してみたい」
 「合意形成の難しさを痛感。でも、意見を出し合う時間が大事だと感じた」
「課題を構造図で可視化すると、モヤモヤがスッキリし、何をすべきか考えられるようになる」
「自分の苦手な部分も見えた。社会の課題を考えるのに役立ちそう」

そして、全員一致で「疲れた!」と一言。頭も身体も心もフル稼働した2日間でした。

最後に、高田課長から「いつも下田さんと2人で集落再生を考えていたが、今回は良い刺激になった。ぜひまた小川に来てほしい」との言葉をいただきました。

この授業をきっかけに、春から小川で課題研究を始める学生も出そうです。今後の展開が楽しみです!

<森林環境共育専攻 小林(こばけん)>