土間とL字アングル(自力建設2024「栞」)
1.土間の防草対策
今回建築している乾燥庫はガレージ車庫のように床がなく土間のみの設計となっています。
乾燥する木材は、土間に桟木を置いて、その上に積上げていきます。
ただ、残念なことに土間にコンクリートを引くだけの予算が無かったので防水シートの上に砂利を敷き詰める設計を採用することになりました。
なぜ防水シートと砂利?と不思議に思う方は何人かいらっしゃるはずです。
実ははじめから防水シートで設計するつもりはなく、当初は防草シートを引いて温室の中に草が生えてこないようにする予定だったのです。砂利はそのシートが破れないように保護材料的な役割でした。
最近の民家の駐車場はこのような設計がよくみかけるのではないでしょうか?

引用先:https://www.oniwa-oshare.jp/garden-making/gravel-bed-in-the-parking-lot/
ただ、畑を所有していて防草施工に苦労している私は、安い防草シートでは草がすぐにシートを突き破り生い茂ること知っていたし、突き破られないシートは超高価なことも知っていました。なにより、防草シートは雨を浸透させるシートであるため地面からの湿気を室内に戻してしまいます。

引用先;カインズ 防草シート
ただでさえ高価なシートを買わなければならない上に防水対策を別途とる必要が出てきて、みなさん取れる手無しの状態に。
そんなときに、丁稚基地の棟梁からのアドバイス「屋根の防水に改質アスファルトルーフィング使ってるんだから土間にも使ったら?どうせ余ってるんだし!」。
目から鱗がおちるとはこのことなのでしょうか。改質アスファルトルーフィングは草を食い止めるだけの耐久性もあり、防水機能もあります。早速この案が採用することになり、防草兼防水シートとして改質アスファルトルーフィングが採用されることになりました。

アスファルトルーフィングと桟木の施工

土間が気持ちよくて寝そべる棟梁
実際の土間の設計は、3通りの設計を各棟に適用しています。
西棟は、改質アスファルトルーフィングの上に砂を20mm敷いてから30mm砂利をかぶせています。砂を敷くことで、遮光性が上がり、砂利自体がアスファルトルーフィングを傷つけることを防ぎます。
中央棟は、過去自力建設の余りのアスファルトルーフィングを敷いた上に西棟でも敷設している改質アスファルトルーフィングを敷き、その上に直接砂利を50mm敷いています。砂を間に敷いていないのは、砂利が思いのほか小さく丸みがあったので、普及版設計の際の施工簡略化の可能性を試すためです。念のため、人が足を踏み入れる部屋の両端500mm幅はさらに3枚目の改質アスファルトルーフィングを敷いています。
最後に、東棟(アカデミー棟)ですが、市販の砂利の代わりに演習林などにある薄くて大きな石を集めて敷き詰める予定で、棟梁が石採取の準備をしているところです。棟梁は、石の蓄熱効果に着目し、小さな石より大きな石を敷き詰め、石の種類にもこだわる予定となっています。
皆さんお楽しみに。

砂利が敷かれた土間はとても温かい
ちなみに、木、コンクリート及び石の熱容量は以下の通りです。花崗岩は土や砂利より1.5倍の熱容量があるので、集めてくる石の種類次第ですが、うまくいけばアカデミー棟の蓄熱能力は他に比べて高くなりそうです。
アカデミー棟が一番性能が良くなることを期待しましょう。
材料毎の容積比熱 一覧
材料 |
容積比熱[kJ/m3・K] |
ひのき |
933 |
すぎ |
783 |
普通コンクリート |
2,013 |
花崗岩 |
2,353 |
大理石 |
2,348 |
大谷石 |
1,670 |
土 |
1,582 |
砂利 |
1,549 |
砂 |
1,423 |
引用先:https://environmental-engineering.work/archives/201
2.L字アングル
唐突にL字アングルの話が出てくるのはなぜなのでしょう。と、皆さんが最初に感じる印象を私は感じながらこの文章を書いています。
今回の乾燥庫は、他の建物と違い、床が無く土間だけで、その土間もコンクリートを敷かない設計となっているので、基礎が無い入口側の室内外の境界があいまいです。これでは室内の気密が落ち、乾燥能力が落ちてしまいます。
そこで、土間の入口側は、向かい合わせで接合したL字アングルを建物境界に敷設し、捨てコン及び沓石で固定することで、室内外の境界を明確にする設計としました。このことで、北側下面の気密を確実なものにすることができ、また、4枚の扉の下面が一直線にそろうことを保証しています。
実はこの設計、最初からこのような設計ではなく、基礎施工の失敗経験や妥協の産物から生まれたものでした。
私は、その経緯を紹介したくて、この記事を書いています。
まず最初に、L字アングルを固定する沓石は当初の設計になく、厚さ100mmの捨てコンがL字アングル設置箇所一面に連続的に打設される予定でした。
しかし、南面のコンクリートブロック設置面の捨てコンを打設した際に、設計目標高さに対して幅方向、長さ方向ともに数cmの振れ幅で凹凸が出来る施工結果となったことから、約3mの長さの理想の水平面を持った捨てコンは素人のコテ裁きでは難しいことに気づいたのでした。
過去の失敗をもとに、今回の捨てコンに求められる設計条件を分析しました。L字アングルはそれ自体が水平面を持っていて、それを維持するだけの剛性があります。ただ、L字アングルは扉の枠回りとしての役割と建物の北側下面の気密性を保つ役割を果たす必要があります。さらには、扉の枠回りの一部でもあるため、上部の梁と平行に敷設しなければなりません。つまり、「基礎北面との相対距離」、「梁下-L字アングル間距離」を3m程度の区間において数ミリ単位で設計通りの精度を保つことがL字アングル敷設の最低要求となります。
上記の最低要求を満足するように考えた解決案は、捨てコンは基礎周辺だけにし、L字アングルを支えるためだけに沓石を間に敷設する設計でした。
これなら、基礎の前の数センチ幅のコンクリート打設だけに設計通りの精度となることを集中すればよく、間の沓石の高さと位置は両端が基礎に固定されたL字アングルによって強制的にあっていくことになります。
この方法で合計9カ所のコンクリート打設を行い、無事すべての施工を成功させることが出来ました。
つづいて、L字アングルが向かい合わせに接続している設計についてもお話しします。
この設計、当初は厚さ50mmの桟木をL字アングルに固定する設計でした。ただ、施工途中に先生から「水の侵入機会が多い部分のため腐敗対策をすること。」との指摘を受け、設計やり直しになることに。
予算も無い中で安く済む方法を考えるも、人工木材だと追加予算になり、なにも取付けないと入口の気密が脆弱になると、うまい方法が思いつかない日々が続きました。
丁度そのとき、並行して検討していたL字アングルの購入先について、高価な輸送費と割高な切断加工費を削減する方法はないかと学校帰りに何件もホームセンターをまわって店員と交渉していたら、材料費だけで手に入る地元のホームセンターをたまたま見つけることに成功、先生からの提案もあり、最終的にL字アングルの向い合わせの設計となったのでした。
結果、単体だと扉の枠回りや室内の気密確保の部材として少し頼りないL字アングルが重量、剛性とも2倍になることで、建物の一部としてしっかりなじむようになりました。
普段からホームセンター巡りをしている私は、岐阜から多治見、南は小牧まで各ホームセンターが扱っている商品の特徴を知っていて、もともとネット商品よりも安く早く調達できるノウハウを持っていました。
今回、「脚で稼ぐ」という古い考えの私だから解決出来たのかなと感じ、まだまだ若い者には負けないぞと、頑張れる勇気が湧いてきました。
最後に、設計から施工中の長い期間をかけて設計が変わっていった土間、捨てコン、L字アングルですが、施工を終えた今、私は、あらためてモノづくりの奥深さと経験の重要さを痛感し、私の前職の業界で起きていたことを思い返していました。
前職で私は試験を担当することが多かったため、計画、調達、試験内容の立案すべてについて手探りで作業をするしかなく、少ない予算で結果を出さないといけないため、常に自身の過去の経験の蓄積と周囲の関連技術の情報収集に余念がありませんでした。ほとんどの困難や問題は、過去の経験の応用と周囲の何気ない一言を大切にすることが、解決の突破口になるというのが私の信条です。
技術者にとって技術的ノウハウというものは、意図的に学習したことで得られるものではなく、予期しない障害に対して真摯に解決に取り組み、技術者集団として相互の意見を尊重した建設的な解決方法を立案し実行することで得られるものです。
これからも、周りの人たちの言葉にアンテナを張り、自身の行動の反省を忘れず日々の作業を行うことで、この木造建築の業界での様々なノウハウを身に着けていきたいと思います。
木造建築専攻学生:三宅