建具製作(自力建設2024「栞」)
今回は、秋から進めていた建具製作の模様をお伝えします。
自力建設プロジェクトでは、毎年、木造建築専攻と木工専攻の1年生が共同で建築空間における木工品を製作します。木材を使ったモノづくりを学ぶ両専攻が、お互いの知識と技能を活かしながら学びあう機会となっています。今年度の題材は、アカデミー棟北側に設置する「扉」とその「枠周り」にしました。
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扉の設置場所の現地説明
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学内中の扉を観察
さかのぼること10月下旬、4つのグループに分かれて、扉のデザインコンペをすることにしました。まず、扉を設置する建設中の自力建設の状態や学内の建物にある扉を観察しながら、各々イメージを膨らませていきます。その後、各グループでデザインを思案して、1か月後プレゼンをして基本デザインを決定しました。
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デザイン案を深める
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デザインコンペ
ここからは、具体的に設計と試作の段階になります。今回の扉の方式は「けんどん式」しました。これは2mを超える板材を出し入れするため開口部の広さと、建物の温熱環境を高めるために必要な気密性を両立するためです。意匠も含めたこれまでにはないオリジナルな扉になるので、モックアップを製作しながら、設計を深めていきました。
まず、見付となる表面ですが、向かい合わせとなる丁稚基地(2022年度自力建設)の出入口の扉をオマージュして、スギ板張りの濃茶と赤茶の2色の市松模様にしました。この色合いは、黒と朱の2色の墨汁で再現することにしました。配合を変えながらカラーサンプルをいくつも作り、最適な色合いを探りました。また、その化粧板となるスギ板も雇いざね加工に挑戦しました。
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模型で樹種や木目方向の検討
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化粧板の雇いざね
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カラーサンプルの作成
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化粧板のさね加工
けんどん式の扉の開閉は、脱着と運搬の動作を伴うので「軽量化」も設計の大きなポイントになります。そこで、骨組の樹種を比重の軽いスギにし、一本当たりの部材の断面を小さくして、細かく配置することで骨組全体の体積を減らして軽量化しつつ、剛性を保つ構造にしました。しかし、断面が小さい細長い部材は、木取り後に反りが発生しやすくなるので、組む時に反りの方向をよく見て、なるべく扉全体の歪みにつながらないようにする注意が必要となりました。
そして、今回の建物は気密断熱性能を高める設計をしているので、扉も抜かりなく断熱性と気密性を配慮した設計になります。骨組の内側には、スタイロフォームを目一杯詰めて断熱性を高め、扉と建物側の枠周りが接するところには、ピンチブロックを配置して、建物の気密性を確保することにしました。
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扉の内部構造(骨組と断熱材)
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ピンチブロックの取り付け
取手は握りやすさや身長差を考慮した形状と大きさを検討したほか、樹種はクリを使い、カンナで仕上げ、端部も三枚組継ぎにしてディテールや触りごこちにもこだわりました。
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取手のかんな仕上げ
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取手の3枚組継ぎ
さらに、けんどん式の扉は「かんぬき」で扉を建物側に押しつけて固定することが一般的ですが、今回は、磁力を使って扉を建物側に引き付けて固定する方式に挑戦しました。脱着動作のしやすさやピンチブロックの反発力を見極めながら、扉上部の設計や磁石の取り付け深さの調整を繰り返しました。
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扉に取り付けたネオジム磁石
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固定時の扉上部
一方、建物側の枠周りは、扉の上下に取り付けた磁石を吸着できるように、上部にスチールプレート、下部に錆止め塗装を施したスチールアングルを設置しました。これらを扉が傾くことがないように水平をきちんと取りながら施工するのが難しいところでした。
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枠周り上部
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枠周り下部
試作で完成形が見えたら本製作が始まります。完成日を設定し、工程と作業分担を考えて計画的に製作することもこの授業の重要な学びの一つです。今回全部で4枚の扉とその枠周りを製作・施工しました。
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専攻の枠を超えた製作作業
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建築学生に対して木工教員による製作指導
授業最終日、すっかり日が暮れてしましたが、皆の頑張りもあり、なんとか全枚数を完成することができました。
木材でモノづくりをする木造建築と木工の両専攻の学生が、ゼロからデザインしたものをどのように実現するのか、四苦八苦しながら自ら考え、教員からご指導いただいて創りあげた実践的な良い学びになったと思います。
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1枚目完成に喜ぶ渡辺先生
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無事完成
木造建築専攻 増岡