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2024年01月25日(木)

高知縦断 木造建築視察(後編)

高知縦断 木造建築視察(前編)に続いて、後編です。

12月16日、高知県梼原町の建築視察を行いました。

この梼原町は町内の狭い範囲に数多くの隈研吾氏設計の建物が存在しており、その建物や梼原町に残る文化的な建物を見学してきました。

最初に「梼原町役場」(設計:隈研吾建築都市設計事務所)に訪れました。

構造部材に大断面集成材を使用したこの建物は、重厚感もありながら木の持つやわらかさも兼ね備えており、木造でつくられた大空間に圧倒されました。

次に訪れたのは「ゆすはら座」です。高知県唯一の木造芝居小屋で、隈研吾氏がこのゆすはら座に感銘を受け、梼原町と関わるきっかけとなりました。

大正時代の和洋折衷を取り入れたデザインのこの建物は、モダンな外観や天井の美しい木目に目を惹かれます。

一時は老朽化や維持運絵の厳しさから取り壊しの話も出ていたようですが、街に親しまれてきた芝居小屋として、保存運動の高まりをみせ、保存される運びとなったそうです。

現在では保護有形文化財に指定され、梼原町にとって貴重な建物となっています。

次は「雲の上の図書館」です。こちらも隈研吾氏設計の建物となります。

エントランスを抜けると、複雑に組まれた木材が吊り下がっている光景が広がります。

自力建設で木組の加工を行なった身としては、作業工程を考えてしまい少し恐怖をおぼえてしまいます。

本棚は全て側面がなく、四周が棚になっています。
そのため、面となる部分が表に見えず、線で構成された空間に軽やかなに見えます。また、棚の形状も先端が細く削られており非常にシャープでスタリッシュな印象を受けました。

続いてこちらも隈研吾氏設計の「マルシェ・ユスハラ」を見学しました。

茅葺のファサードが特徴的なこの建物は、1階が梼原町の特産物販売である街の駅ゆすはら、2階以上が宿泊施設である雲の上のホテル別館となっています。

ファサードとは異なり、建物内は杉の丸太が立ち並ぶ空間となっていました。丸太からは細い丸太が枝のように伸びており、森の中を巡るような空間となっていました。

2階ホテルへ続く階段に金属メッシュが使われており。建物内ある階段を目立たないように配慮しつつ、透け感のあるメッシュが奥行きを感じさせるデザインも目を惹きます。

梼原町の隈研吾氏設計の建築を見学し、梼原町の特色を生かしつつそれぞれ全く異なる意匠を持つ建築群でしたが、木や茅といった自然素材を表面に出し、周辺鑑賞との調和を図ることで、街との一体感を持っているように感じました。

そして、空家改修ワークショップ、プレゼンを挟み、12月19日は高知視察の最終日となります。

朝食後、高知林業大学校の学生とも別れ、見学先である高知県立牧野植物園(設計:内藤廣建築設計事務所)に向かいました。

建物に向かう道中には樹木や植物の名前が書かれたプラカードがいくつも見られます。

アカデミーでは樹木同定という授業があり、葉っぱや樹皮の特徴から樹種の特定方法を学ぶため、こういった展示にも学生として興味深いものがあります。
黒地のプラカードも植物を見るのに邪魔しないよう配慮されており、展示として非常に楽しめる環境が整えられているとのが印象的でした。

建物入り口は大きなピロティ空間となっています。登り梁を支える鉄骨の列柱が緩やかに建物と外部の植物園を繋いでいます。

植物の展示空間を湾曲した大きな屋根が取り囲むように計画されていますが、棟の高さが有機的に変わる勾配屋根が稜線のように見えるため植物の展示の邪魔にならないと感じました。

内部空間は鉄骨造の棟から、木の垂木が伸びている広い展示空間となっています。

また、内部の界壁には鉄筋コンクリートも多く使用されており、木造にこだわることなく、理想とした空間を作るために適材適所に素材を使い分けていることが印象的でした。

次に訪れたのは、竹林寺 本坊と納骨堂です。(設計:堀部安嗣建築設計事務所)

本坊内に入ると湾曲した天井が天窓につながっており柔らかな光が差し込む空間が来訪者を出迎えます。
手すりの天板には鉄板が使われており、鉄の黒く冷たい感覚が空間を引き締めているように感じます。

中庭に面した廊下ではすだれを下ろすと写真のようになり、荘厳な雰囲気が漂う空間とないります。

細部へのこだわりも見て取れます。写真は扉の一部を撮ったものですが、中央の1本が突出しており手かけとなっています。

わかりやすい写真がこちらになります。

L字の木材が取り付けられ取手となっていますが、遠目にはほとんどわかりません。

家具もこだわった作品が多く、写真のシェルフは右側の下見板張のようになっている部分が引き出しとなっており、取手がなくても引き出しやすく、かつデザインにも優れたものとなっていました。

そして、今回の高知視察の最後の建物である竹林寺納骨堂になります。

参道の奥にあるこの建物は、納骨室の壁はRC造、天井屋根が木造となっています。

納骨室へはポーチからゆるやかなスロープを下って向かう構成となっており、高低差で空間が分けられているようにも感じます。

木造の屋根は105角の角材で構成されています。
妻側から屋根を見ると角材の木口が連続して並んでおり、板材にはない重厚感が感じられます。

建物側面は土佐漆喰で仕上げられており、この大きな一面を目地なしで作り上げる職人の技術の高さを感じさせられます。

また、建物の奥には水庭が設けられ、さらに壁の上にはプランターが設けられ植物が植えられています。
納骨堂という建物ですが、お寺に訪れた人が参道を通り、その一番奥にあるこの建物にも気軽に立ち寄っていただきたい、といった思いがあるそうです。

これで高知視察および空家改修ワークショップは終わりとなりますが、伝統構法の木造建築だけでなく、CLTや大断面集成材を用いた大規模木造建築や木造以外の構造と組み合わせた建物など、さまざまな木の空間を見ることができました。

木造の新しい可能性を見出すためのきっかけにもなったと思います。
また、実際に現地へ赴きその空間を体験することの重要さを改めて感じまることもできたので、今後も図面や写真だけでなく現地の空間体験を可能な限りしていきたいと感じました。

木造建築専攻1年 山下修平