実験から木材の性質を学ぶ・考える「木造建築材料(乾燥)(強度)」
木材をうまく活用するには、木材の性質への理解が欠かせません。
特に、
・木材が湿る/乾燥すると何が起きるか
・木材の強度や性質はなぜ一つずつ違う(ばらつく)か
という点は、木材に関わるなか、様々な場面で必ず直面することになります。
・なぜ乾燥した木材が求められるのか
・なぜ木材の格付けが行われているのか
という、「商品」として流通する木材を説明する上で欠かせない問いの答えも、これに含まれています。
そこでクリエーター科建築専攻・エンジニア科林産業コースの授業「木造建築材料」では、
1年を通して「乾燥」「強度」をテーマに、木材の性質や利用について説明しています。
ちなみに、授業タイトルでは「建築」と銘打っていますが、建築や建材に限定せず、幅広いトピックスについて扱っています。
春の「乾燥」では、「木材って元々どれぐらい湿っている?」をテーマとしました。
木材はもともと生きていた樹木から得られたものです。
丸太から製材したての木材(生材)は、触れれば水気が手に残るほど湿っています。
含水率計(水分計とも)を手に、心材と辺材(赤身と白太)や、変色した箇所の水分量の違いを体験しました。
違いは何から来るのでしょうか……?
その場で理由を考えてもらい、説明を返しました。
この授業の少し前に、エンジニア科林産業コースは授業「切る・割る・削る」でサクラの枝を切り、スプーンを削り出してグリーンウッドワークを学んでいます。
折角ですのでその際のサクラの端材を拝借して、
・削った枝はどれぐらい湿っていたのか?
・丸太にとっての樹皮の役割とは?
を実験で示しました。
枝を真っ二つに切り、片方は樹皮を剥がしてもう片方は残したまま、室内に5日間置いて重さの変化を調べました。
樹皮を残した①のほうが乾燥が遅く、樹皮があることで乾燥が抑えられることが分かります。
木材流通の業界でも、丸太はふつう樹皮が付いたまま取引されています。
樹皮があれば乾燥が遅くなり、丸太の割れを抑えられるのがその大きな理由ですが、
一方で樹皮は、木材の商品価値を大きく落とす害虫や菌類が発生する温床でもあります。
樹皮ひとつ取っても、色々と話題があります。
湿った生材を加工して利用するには、まず乾燥が欠かせません。
現代では、乾燥機を利用した木材乾燥(人工乾燥)が広く行われています。
岐阜県森林研究所の土肥研究員・田中研究員を講師にお招きし、木材乾燥機について授業を行って頂きました。
乾燥機の中に入り、乾燥機の構造から乾燥方法、樹種に合わせた工夫まで広く説明頂きました。
内側からでないと見えない装置もありますが、中に立ち入る機会はほとんどありません。
貴重な体験です。
さっそく乾燥機の使用も体験。
まずは乾燥させる木材を積み上げる、桟積みです。
ただ積めば良いというものではなく、乾燥不良や乾燥後の曲がり・ねじれを抑えるためにはきちんと整えて積む必要があります。
乾燥させた木材はその後、建築1年にバトンタッチ。授業「部材をつくる」と大工合宿を経て、今年度の自力建設の部材になりました。
「乾燥」の授業と並行して「強度」では、木材の曲げ試験(万能試験機)を通して授業を行いました。
「ヤング率」「強度」とは何か?から、生材と乾燥材、寸法が違う材、樹種が違う材(スギ・ヒノキ・ケヤキ)を実際に曲げて折りながら、
壊れ方の違いやヤング率・強度への影響について体験します。
例えば(同じ材質で)材の厚さが2倍になると、理論的には曲げ剛性が8倍になり(=たわみが1/8倍になり)、曲げ破壊荷重(最後に折れる時の荷重)は4倍になります。
同じ板から2枚の材を切り出し、厚さを変えて実験しましたが、結果は厚さ2倍に対して曲げ剛性が約7.5倍、曲げ破壊荷重が約3.9倍となりました。
この結果は、理論値通りと言えそうでしょうか?
理論値より低い結果とすれば、その理由には何が考えられるでしょうか?
……という辺りが、この実験を行うミソです。
生材と乾燥材の比較では、(ポッキリ折れた乾燥材に対して)グニャリと曲がった生材を見て、「曲げ木」との共通点に気付いてくれた学生さんも居ました。
万能試験機で行ったことを、今度は実大材で再現。
試験器具を用意して、測定セットを組んでいます。
測定データはすぐパソコンに入力し、その場で曲げヤング率を算出しました。
演習林の丸太から製材したこの材は、ほかの国産材と比べて強い方でしょうか?
万能試験機と同じ方法(曲げ式)とは別の方式として、縦振動式も行って結果を比較しました。
曲げ式では材の上に重石を載せてたわみを調べ、ヤング率を算出しましたが、
縦振動式では材を木口から打撃し、その際の振動をもとに数値計算でヤング率を算出します。
どちらも、流通材でヤング率による格付け(機械等級区分)に利用されている方法です。
6本を測定した結果は、いずれも縦振動式で求めたヤング率が曲げ式を上回りました。
縦振動式と曲げ式のヤング率の違いはどこから来たのか?
測り方の特徴や材の見た目をもとに、理由について考えてもらいました。
「なぜ?」「どうして?」がその場で生まれる・考えられるのが実験の面白さです。
その答えが既に用意されているとは限りません。
見つけたと思った答えが完全に正しいという保証もありません。
確証を掴むために、新たな実験の積み重ねが必要になることもあります。
「どうして?」に終わりはないのかも知れません。
知識を与えられる・押し付けられるのではなく、自分から考えて納得できる答えにたどり着くことが、知識を深めるために必要なことだと考えています。
この一連の授業で行った実験が、学生各位にとってこれからのヒントになればなあと願っています。
助教 上田 麟太郎