原寸図を描き、丸太から作る ウィンザーチェア
森林文化アカデミーの木工専攻では2種類の椅子製作を教えています。1年次では生木を手道具で削るグリーンウッドワークで編み座のスツールを、2年次では機械や電動工具を使ってウィンザーチェア(板座の椅子)を作ります。
ウィンザーチェアもかつては手道具で作られていたものですが、この授業の目的は現代的な手法や機械を使い正確に加工すること。卒業後に少量生産もできるようにと考えて実施しています。
今年度はもう1つ目的を加えました。それは生の丸太を製材・乾燥しながら作っていくこと。現代の木工というと、「しっかり人工乾燥させた材を用いる」ことが金科玉条のように言われるのですが、かつては生木を加工しながら乾かして上手に利用していました。それをやってみようというもの。
12月末でここまで。ほぼ組み上がり、あとは笠木(背板)を整形して仕上げるだけです。
実習はこんな手順で実施しました。
①岐阜県生活技術研究所で、人間工学についての講義およびポイントとなる部位の測定。
研究員の藤巻吾朗さんに毎年お世話になっています。
②飛騨産業ショールームで、デザイン室長の中川輝彦さんによる講義および商品の椅子の計測。
中川さんには人間工学的な考え方に加え、合理的な加工方法やユーザーのニーズなども踏まえたメーカーとしてのデザインのまとめ方を教えていただきます。椅子の計測では、数種類の商品の各部の長さや角度を詳しくチェック。比べることで、だいたいのサイズ感がつかめてきます。いつも快くご協力いただいており、大変感謝しています。
③丸太の購入
ここがいつもと違うところ。高山市の奥飛騨開発で、チップになる広葉樹の山からブナ、ウダイカンバを購入。座面は学校にある乾いた板を使いますが、それ以外の部材をすべてこの丸太から取ります。
④製材
森林文化アカデミーには大きめのバンドソーがあるので、直径25cmぐらいの丸太なら挽くことができます。
⑤製図
毎年、学内のこの部屋で使う椅子という課題を出し、学生がオリジナルデザインを考え、モックアップ(簡易な部材による試作)を作り、製図をします。CADでも良いのですが、森林文化アカデミーでは原寸図を描いています。角度や長さを確認したり、治具(補助具)を製作したりするのに都合が良いのです。
⑥脚などの荒挽き
最終寸法より少し大きめに挽き、室内で乾かしておきます。今回の実験で、冬の室温でも4週間で気乾含水率(13〜15%、水分が減っていき重量の減少が落ち着くところ)に達することが分かりました。
⑦旋盤加工
今回は気乾含水率に達したものを、更に60度の乾燥庫で数日乾かしてから仕上げ加工しました。
⑧曲げ木
笠木は生木のまま、鍋の上に箱を置いて蒸気で1時間蒸し、曲げます。厚さ20mmのブナ、ウダイカンバともよく曲がり、図面通りの曲線が得られました。
⑨複合角での穴開け
昔ながらのやり方では、だいたいの穴の方向に線を引いておき、手回しドリルで開けてしまいます。実はその方が簡単で、機械での穴開けは意外と複雑なのですが、正面図と側面図に現れる角度を機械の上に再現することで、正確に穴を開けられます。
⑩仮組み
笠木とスピンドル(縦の棒)を組んでみたところ。すき間なく挿さっていて、正確に加工できていることが分かります。
あと少しで完成です。
久津輪 雅(木工・教授)