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2022年06月10日(金)

木を使うということ…「水」との長いお付き合い?(講義「木造建築材料(乾燥)」から)

 建築物の柱・梁などに用いる木材は、山から伐った後は乾燥しないと、建材として使えるものになりません!
 その乾燥を学ぶ授業が、エンジニア科とクリエーター科共同の「木造建築材料(乾燥)」です。


含水率計について説明している吉野先生

乾燥によるメリット1)
 なぜ木材乾燥が必要なのか、というと、建築に用いる際に以下のメリットがあるからです。
・施工後の狂いが少ない
・クリープ(梁が自重で垂れ下がってくるなど)を抑えられる
・木材の強度性能が高くなる
  スギ正角材では、含水率が1%高くなると曲げ強度が約2%、ヤング係数は0.9%低くなると言われています2)
・腐れ、シロアリ被害を防ぎやすい
・加工性や塗装・接着性が良くなる
・重量が軽くなり取扱いや輸送の効率が上がる
1)北海道立総合研究機構『林産試だより』2003年2月号 戸田正彦「乾燥材の強さとメリット」
2)長尾博文、田中俊成、中井孝:第43回日本木材学会大会研究発表要旨集、314(1993)

 

授業の主眼
 今年から木造建築専攻の助教として赴任された若手ホープの上田麟太郎先生と、ベテラン吉野安里先生により行われました。
 授業の主眼は、
・含水率の求め方を知ること
・含水率計算ができること
・含水率計の取り扱いができること
・天然乾燥や人工乾燥について知ること
です。

 木材乾燥はそれだけでも研究領域になるような重要な工程です。木材は乾燥していく中で「割れ」「反り」など、さまざまな変化が生じます。今回の授業を通して、その現象を知り、含水率と木材強度の関係を知ることが主眼です。

 今回は、以下の2つの方法を行いました。

①全乾法で正確な含水率を知る(ブロック状の試験片):スギの未乾燥材を小さなブロックに切り取り、全乾状態(含水率ゼロ)まで乾燥させ当初の含水率を求める
 ※全乾法:試験片により、乾燥前の重量と、完全に乾燥(全乾)させた後の重量から、含水率を求める手法のこと。

②天然乾燥(柱・梁材を想定):ヒノキを105mm角×3.6mに挽いたものを天然乾燥していく過程で生じる変化を記録する(材は「背割り」ありと「背割り」なしの2種類を製材して違いを見る)

 

 

全乾法コース

 最初は天然乾燥(机の上に置いておくだけ)させ、次に60℃の低温乾燥で含水率を下げ、最終的に105℃の高温乾燥で全乾(含水率ゼロ)にします。その間にどのような変形が生じるかを観察します。そして、初期の未乾燥状態と全乾状態の重さを測り、もともとその材にどのくらいの水分が含まれていたのかを推定します。
 試験片は、乾燥によって反っていく様子を記録するため、断面を鉛筆でなぞって紙に写し、含水率の変化と反りや収縮の関係を記録します。

今回の授業では、「長時間・こつこつコース」に60℃乾燥を加えて“時短”する方法を採用。

 

スギを製材

 

スギをブロック状にして、断面を鉛筆でなぞり紙に写し取っているところ

 

乾燥開始した試験片(変形が進んでいます)
 「全乾法コース」の試験片の結果は、改めてブログでご報告します!

 

 

天然乾燥コース
 製材後、外の置き場にトタンをかぶせた状態で天然乾燥(放置してるみたい?)させていると、背割りあり・なしにかかわらず、材面と小口にひび割れが生じます。今回の授業では、材面(四面)のひび割れ(「材面割れ」)の長さを計測し、面ごとのひび割れの長さの合計を記録します。
 また、含水率と木材の強度(曲げヤング係数)の関係を観察するため、材の中央に10kg、30kgの重りを載せ、中央の変位量を計測し、梁のたわみの公式から曲げヤング係数を算出します。

 

            
授業1回目から約10日後、早速「材面割れ」が起きてます。ペンでマーキング

 

載荷してたわみの変位量を測定します

 

今回は10kgと30kgでのたわみの変位量を測定

 

梁のたわみの公式から、曲げヤング係数を求める(いろいろな数値が関係しています)

 

 

授業2回目はあいにくの雨。試験材もたっぷり水分を含んでいて重い

 

両端の支点に載せて、中央に変位計を設置

 

重りを載せ変位量を計測。10kgの場合と30kgの場合を計測します

 

 

材面4面をA~Dと名前を付け、それぞれのひび割れ量を測ります

 

背割りの幅も記録します

 

 

 

そして、1月ほど間をあけ、授業3回目に突入。再び計測します。

 


ひび割れマーキング担当と計測担当。息の合った?コンビ。大きな文字は重量(kg)です

 

秤で重量を計測。前回よりも数キロ軽くなっています

 

変位量も計測します

 


重量の推移。最大で15kgも軽くなっている試験材があります

 


変位量と曲げヤング係数の推移。相当ばらつきがあります

 

 

 天然乾燥により、確実に水分は抜けて行き、その分材面割れが増え(内部割れも起きていると思います)ました。
 個人的には、水分が抜けると試験材は硬くなる→変位量が減る→曲げヤング係数が高く(曲がりにくく)なる、となるかと思っていましたが、上記の表から読み取ると、曲げヤング係数が下がっている(乾燥するにつれ弱くなっている)ものもあり、相当ばらつきがあります。これは、乾燥により材面割れや内部割れが進み、それが原因で曲げヤング係数を下げているのではないか、と想像しますが、どうでしょうか?

 

 

学内施設の含水率を測る

 3回目の授業では、4班に分かれ学内のいろいろな施設の木材の含水率を計測しました。

 


含水率計を手に、気になったところを測ります

 

20%超!「意外と高いな~」(2021年自力建設の柱)

 

 

各班が計測した含水率から高めに出た箇所にシールを貼ります

 

左上の建物はフォレスト棟。オレンジ:25%以上、青:20~25%、黄:前日(晴れ)に20%以上
 結果は、
・フォレスト棟の各部に含水率が高い箇所が多い(沢が近いので湿気が多い場所だと思われる)
・建物外部は内部よりも含水率高め(当日は雨が降っていたので、当然かも知れません)
・地面に近い場所(2021年自力建設の通路の土台など)の方が含水率が高い
ということが分かりました。

 前日(晴れ)に上田先生が各所を計測(黄色いシール)されていましたが、雨が降ると20%以上の箇所が増えました。天候により含水率が変わることも読み取れ、建物の木材に含まれる含水率は日々変動していることを感じられました。
 含水率が高めの箇所→30%を超えると腐れが発生すると予見できる→メンテナンス上の要注意箇所としてチェックしておく、ということに役立ちそうです。
 今後も、含水率計(精度高いもの)を片手に、あちこち測ってみたら、また発見がありそうです。

 

クリエーター科2年 橋本剛