教員リレーエッセイ 5:「ぎふ木育30年ビジョン」
松井勅尚(木工)
岐阜県は2013年に「ぎふ木育30年ビジョン」を策定しました。子どもをはじめとするすべての人々が、森林に対して責任ある行動をとることができる人材となることを目指しています。そのために、触れあう・親しむことをスタートとして、気づく、考えるという段階的な取り組みを進めていくことにしました。私も策定に関わり、そのビジョン実現のためにプログラム開発や仕組みづくりを模索してきました。
岐阜県立「森の恵みのおもちゃ美術館(仮称)」
昨日2月23日林野庁補助事業として「第4回木育サミットin江東区」が開催され、その基調シンポジウムとして「岐阜県立森の恵みのおもちゃ美術館(仮称)が目指す木育」として取り上げられました。岐阜市内の岐阜県美術館・岐阜県図書館が開設されているエリア「ぎふ文化の森」に2019年4月開館を目指し工事が始まっています。木育は、この数年水平展開し、林業木材産業以外にも広がりつつあり、その1つが「木のおもちゃ美術館」です。
“おもちゃ”とはすなわち、子どもの成長のために必要とされる道具のこと…木育を「子どもから始めよう」という取り組みの施設なのです。集まる皆さんの多くが森林についての関心が高い訳でもなく、むしろ唯、木のおもちゃで遊ばせたい親子が多いかと思います。その集まった機会が森林へ関心を向けてもらうチャンスなのです。
67%・91.3%
さて、皆さんご存知の通り67%は日本の森林率です。木育サミットでの林野庁の情報では、先進国の中では日本はフィンランドに次ぐ、世界第2位の森林率を誇る国となったそうです。では、91.3%とは、何の数字でしょうか?実は日本の都市部に集中している人口の割合です。東京都には日本の人口の10分の1が集中しており、今も増え続けているのです。岐阜県をみてみると、岐阜市の人口は約40万人。県全体のなんと5分の1が集中しているのです。これは当たり前のように思いますが、先進国の中でも前例がないことのようです。週末の過ごし方はショッピングモール。山や川には意識が向かないのが現実です。91.3%の都市部の人々の意識が、日本の意思決定に大きく影響します。山や川を「宝の山」と認識できる人を育てることが大切であると思うのです。
“おもちゃ”は子どもだけの特権ではなく、どの世代でも興味を引くものです。“木のおもちゃ”に特化した施設で、山や川への無関心層に関心を持ってもらうためには、どのようなアプローチをしたらいいのか?
森林文化アカデミーの木工専攻のカリキュラムには、岐阜県の施策と連携したものも多くあります。地域材を活用した「おもちゃ開発」も、オール岐阜県産材でのおもちゃを目指す「森の恵みのおもちゃ美術館(仮称)」で活用することを見据え授業を組み立ています。
クリエーター科授業「木工講座の実践」では「ぎふ木育カフェ」で使用する教材開発に取り組みました。「ぎふ木育カフェ」とは、木のブローチや栞等、木の小物を作りながら、お喋りをする場を設け、人と人、人と森林の距離を近くする実験的試みで2015年から実践し、プログラム開発してきました。対象者は主に未就園のお子さんを持つ子育て中のお母さんたちです。2014年に視察した、「文化と子どもを真ん中に置いたまちづくり」で世界的に有名な、イタリアのレッジョ・エミリア・アプローチの中心人物であるマラグッツィの言葉「子どもを知るためには住んでいる街を知っている必要がある」を手掛かりにスタートしました。
生活で使えるモノであること、90分で完成すること、さらにお喋りしながら作っても一定のクオリティを保つこと等、しばりが多い中での教材開発には、確かな木工技術がベースとなっています。本年度はこの「ぎふ木育カフェ」の取り組みを飛騨や東濃へエリアを拡大して年間8回実施し、さらなるアイテム開発をする予定です。
また、「森の恵みのおもちゃ美術館(仮称)」でのプレーヤーを育成するためのプログラム開発を、プロジェクト授業として実施しました。学生たちは、自らプログラムの企画者となり、講師の調整や、講座の企画と運営を実践的に学ぶことができます。次年度も、2019年の開館に向けて「ぎふ木育指導員養成講座」プログラム開発を再構築していく予定です。
この3年以内にこのような施設がなんと全国に8館も出来るそうです。当然、その場所で、森林と人をつなぐ人材が求められています。2019年の開館までのこの2年間は、学びのためには当に旬。あなたも森と人をつなぐ仕事を目指してみませんか?