「木工事例調査」in 静岡・山梨 〜①すまうと
森林文化アカデミー・木工専攻では年に数回、県内外の優れた木工所を訪問し、木工の技術、地域の木材の利用、工房の経営などについてプロの方から学ぶ機会を設けています。2/28〜3/1は静岡市の「すまうと」「ヒノキクラフト」、山梨県富士河口湖町の吉野崇裕さんを訪問しました。学生によるレポートです。
静岡県静岡市の『すまうと』に見学に伺わせていただきました。 代表の野木村敦史さんにお会いし、まずは野木村さんの経歴や『すまうと』立ち上げの経緯などをお話しいただきました。 大学では建築を学び、クリエイティブな構造をやりたいと考えていらっしゃった野木村さん。初めは企業にて構造計算をするお仕事をされていたそうですが、木工業界ではエンジニア(特に構造エンジニア)が関わらずにものづくりをしていることに気づいていたそうです。
「家電などのメーカーであれば、デザイナーとエンジニアが介在し、ものづくりが行われるのが通常です。木工業界はエンジニアがいない事に気づきこれは自分にとってチャンスだと感じました」
そこで退職して木工を学ばれ修行をされたのち、独立されたそうです。初めは家具のデザインを作って提供することが多かったそうです。その後、やはりデザインと作ることと両方をしていなければ面白くないということから、スタッフを雇い運営を続けられたとか。
「耐久性や材質などしっかりと試験をしてデザインをしたいので、メーカーにはそれに付き合ってもらわなければ出せないというスタンスで仕事をしていました」
「デザインとものづくり、両方をしていなければ面白くありません。それは当初から考えていたこととつながります」
野木村さんの家具は合理的であり、シンプルで美しいものでした。接着剤なしでテーブルの天板や椅子を製作されており、構造という強みがあるからこそ生まれる発想だと感じられました。性能試験や、強度試験なども行い、裏付けをしっかりと取っている事も印象的でした。
現在野木村さんは様々なプロジェクトを立ち上げ、家具を通じて新しいライフスタイルや価値観を提案されいる事も伺えました。 「建築家の成果物に、家具は入ってこない。家具もしっかりとお客様の予算に入れて空間作りをしてもらいたい。そういう活動を”タテカグ”プロジェクトで行っています」
建築と家具はユーザー側からすると一体のものなのに、業界としては境界がなくならないというところに問題意識からこのプロジェクトはスタートしたそうです。
「”104”プロジェクトは、元々余ったスギ材で何かできないかを考えて立ち上げました。エンジニアとデザイナーが組むことの意味を発信していきたいです」
この”104”プロジェクトは『天使のコシカケ』という製品を作り、その作り方や部品をプロジェクト参加会員にシェアしているそうです。『天使のコシカケ』は、柱や梁の余った建材にステンレス製の脚をさし込むことで、誰でも簡単に作ることができます。そこには、晩材(硬い)と早材(柔らかい)がサンドイッチ構造になっていることで、縦方向からの力に強い、というスギの性質を活かす、野木村さんならではの知識・技術が込められてました。これまで余ってしまっていた建材の端材で、また柔らかくて家具に使えないと言われるスギを、もっと活用していこうという提案を、プロジェクトを通じてされていることがわかりました。
また”タチキカラ”プロジェクトでは、お客様を山に連れていき、選木、伐採、また製材を体験してもらい、数年かけて家具が出来上がる過程を体感してもらうという取り組みを行っています。
「現代はものづくりに対する考え方がチープになっているのではないか」 という野木村さんの思いから生まれたプロジェクトだそうです。 自分が選んだ木から、手間隙かけて家具が生まれる過程を体感することで、ものづくりへの理解や、家具に対する愛着を持つことに繋がってほしいという野木村さんの思いが伝わりました。
また極力自然素材を使うことにこだわり、仕上げは無塗装かオイル、接着は米のりを使用されているそうです。昔と違い、現在では米のりも粉末になったため、使用が簡単であり、強度も木工用ボンドに劣らないそうです。化学物質に敏感な方から、需要があるそうです。
「現代だからこそできる天然素材の使い方をしたいんです。木工用ボンドと米糊のせん断試験では結果はほぼ同じであり、強度は同じです」 「最近は仕上げも疑問に思い、針葉樹の場合はほぼ無塗装で仕上げています」
技術が発達し、効率が求めらる現代で、だからこそ天然素材や新たな関係性の構築にこだわった野木村さんの思いを伺い、私たち学生も心を動かされました。木工とは異なる業界からの視点を保ち、その間を繋いでいこうという姿勢は、とても参考になりました。
一通りお話を伺ったのち、工房を見学させていただきました。 まずは低温乾燥室。自前で建てられた乾燥室には材料がぎっしりと置かれていました。乾燥温度によって材の成分が変わってしまうため、天然乾燥した材をさらに低温乾燥でじっくりと水分を抜くそうです。 またねじ切りマシーンという面白い機械が。こちらは野木村さんの自作だそうで、変動機などを組み合わせた、独自のねじ切り機だそうです。 今はお一人で運営されていることもあり、とても忙しくてやりきれないことが沢山あるというご様子でした。これからも様ざまな事にチャレンジされると思います。多くの刺激を頂き、本当に濃い時間となりました。大変お忙しいところ、貴重なお時間を頂き、丁寧に説明をしてくださり、誠に感謝しております。
野木村さん、ありがとうございました。
森と木のクリエーター科 学生一同 (文)山路今日子・若林知伸