曲げ木をもっとカンタンに!〜徳永順男さんのアイロン曲げ木講習会
(※文末に講習会レポートへのリンクがありますので、そちらもご参照ください)
森林文化アカデミーの木工房に、全国から集まった木工家+学生あわせて50人!大入り満員となったのは、家庭用アイロンで曲げ木を行うというユニークな講座です。
曲げ木は、昔から用いられてきた木工技法のひとつです。火であぶったり、煮たり蒸したりして、木材に熱を加えて曲げます。しかし厚みのある材を失敗なく曲げるのは難しく、個人で木工を営む人では曲げ木を敬遠している人も多いのではないでしょうか。
兵庫県三木市の徳永順男さんは、日本を代表する木工作家の一人。椅子の作品に曲げ木の技術を多用されています。徳永さんも当初は一般的なセオリー通りの蒸し曲げを行っていたそうなのですが、大掛かりな設備が必要だったり、失敗が多かったりしたため、独自に研究を重ねてたどり着いたのが、家庭用アイロンで木材を熱して曲げるという方法でした。
今回は、サクラの30mm角 X 長さ1100mmの材を、半径200mmの円形の型に沿って曲げていただきました。まず材を布で包み、たっぷり水で濡らし、更にアルミホイルで巻きます。木口の部分は開けておきます。
これをアイロンで熱します。温度は最高にセット。アイロンをしっかり押しつけて、材の4面を転がしながら、端から端までまんべんなく熱を加えていきます。加熱時間は、材の厚み1mmに対して1分が目安。今回は30mmなので30分です。
充分熱が加わってくると、このように木口から蒸気が吹き出してきます。途中で水分が不足しているようであれば、材を立てて木口から水を流し込みます。
30分熱したら、「帯鉄」と呼ばれる道具にはめて、型に沿って曲げていきます。この帯鉄は、木材の外周側が伸びてちぎれてしまうのを防ぐためのもの。木は引っ張りには弱く、圧縮には強いのです。19世紀に考案された技法で、トーネット法とも呼ばれます。徳永さんの帯鉄は、バンドソーの刃を再利用した自作のものです。
型に沿ってしっかり曲がったら、クランプで留めて、しばし冷めるのを待ちます。
帯鉄を使って型に沿って曲げるのは一般的な技法なのですが、驚いたのは短時間で型から外しても曲げが戻らないこと。私自身、曲げ木はよくやるのですが、数日間よく乾燥させてからでないとカーブが戻ってしまいます。ところが徳永さんのやり方では、1時間も経たないうちにクランプを外してみてもこの通り。戻らないのです。
曲げ木の原理は、熱によって細胞同士をつなぐリグニンを軟化させ、木の構造をなすセルロースをずらして圧縮することで、木を曲げるというものです。温度が冷めるとリグニンがふたたび硬化します。徳永さんの技法は、煮たり蒸したりするやり方に比べ高い温度で加熱し、作業中も熱や湿度を逃がさないため、より効果的な曲げを可能にしているのではないかと思います。
この方法で50mm角のケヤキなども曲げることができるそうです。何よりも家庭にある道具で手軽にできる点がすばらしいですね。会場ではさっそく参加した若手木工家の方たちも試してみて、冒頭の写真のように満足いく結果が得られました。翌朝までクランプで留めてから外しましたが、その後に曲げが戻ることはありませんでした。
この講習会の内容を、参加者の一人で大阪市在住のデザイナー、近沢名恵さんがレポートにまとめてくれました。大変分かりやすい内容で、徳永さんと近沢さんから許可をいただきましたので共有します。こちらからダウンロードしてご覧ください。
私自身はグリーンウッドワークの椅子づくりで、薪ストーブを使った蒸し曲げを行っています。端材や削り屑を燃やして曲げられる(=100%再生可能エネルギー)のが魅力ですが、この徳永さんの技法を一部取り入れて、アルミホイルで包んだ木を薪ストーブであぶって曲げてはどうかと思いました。名付けて「焼き芋曲げ木」、いずれ試してみようと思っています。
常識を疑い、新たな技法を開拓する徳永順男さん。技術そのものも、ものづくりへの姿勢も、大変勉強になった講習会でした。
森林文化アカデミーでは今後もこのような講習会を開催していきたいと思っています。
久津輪 雅(木工・准教授)