20周年記念特別連続講座 森林文化「人為と森林」の報告
10月26日(火)に実施されたCr科の授業「森林文化」では,東京大学名誉教授の井出雄二先生をお招きして,「人為と森林ー人間活動はどのように樹木や森林を改変したのかー」というタイトルで講演していただきました。井出先生は森林と人間の関係を,遺伝学や生態学の観点から研究されてこられた方です。
今回の授業では,まず,日本人と森林ということで,縄文時代から明治時代までの樹木の利用の歴史についてお話しがありました。
続いてブナ科のクヌギとイチイガシに関するお話をお聞きしました。両樹種は縄文時代のころから,どんぐりが食用にされたり,丈夫な材が様々な道具に使われたりしてきました。いずれも葉緑体DNAの遺伝的多様性はそれほど高くないのですが,それぞれが辿ってきた道は異なるそうです。クヌギは人の手を借りて分布を拡大し,イチイガシは農耕の発達とともに生育適地が失われ,個体数を大きく減らした可能性が高いというお話でした。
休憩を挟んで,静岡県の天城山御林の江戸時代の古文書資料に基づく製炭の歴史や,モミ林の成立過程,下枝の張った不思議な樹形のブナのお話をお聞きしました。古文書の読解では,まず,樹種名を特定するのが難しいということでした。同じ樹種でも複数の呼び名があったり,漢字があるのがやっかいなところです。
最後に天竜のスギ人工林の話をお聞きしました。天竜には古いものから最近のものまで,成立時期の異なるスギ人工林があるのですが,それらはいずれも太平洋側のスギ天然林に起源をもつそうです。古い社寺林の起源はそれぞれ異なるそうですが,林分内には家系構造が見られたそうです。これは古い社寺林内での交配で生じた実生が育って現在に至っていることを意味します。また,古い林でも近年の育種種苗によるいずれの林でも遺伝的多様性を高く維持できているとのことでした。
おわりにということで,井出先生から,「森林は移り変わっていくものです。同じ林を何年も見続けて,その変化を記録していってください。記録を書き留めておくことが大事です」という言葉をいただきました。学生の皆さんも,自分のフィールドでこの言葉を胸に森林を見続けていってください。
教員:玉木