森を中心としたまちづくり:森林セラピー基地からノマドワークセンターへの展開
「森林空間利用の事業化」のゲスト講師として、長野県信濃町から浅原武志さんをお迎えしました。浅原さんは森林セラピー基地の第1期指定を受けた信濃町の活動を20年近くけん引してきた方です。大手電機メーカーから町役場へ転職。現在は ㈱さとゆめ取締役、NPO法人Nature Service共同代表として全国的に活躍されています。
長野県北端に位置する信濃町は、野尻湖畔に外国人保養地が形成され、C.W.ニコル氏が主宰する「アファンの森」も立地するなど風光明媚な高原リゾート地ですが、2002年に広域合併をせず自立の町を宣言したタイミングでニコル氏が「エコメディカル&ヒーリングビレッジ構想」を提唱。それに呼応した町内有志8名が「癒しの森事業」という名称で計画を作成し森林セラピー事業が始まりました。
森林セラピーの指導者となる「森林メディカルトレーナー」の育成・認定、ドイツの「クナイプ療法」を範とした5本柱:①森林セラピー、②アロマセラピー、③森でヨガ、④描画シェアリング、⑤作業療法のプログラム開発、さらに「癒しの森の宿」の整備など、森を中心としたまちづくりが展開されています。
これらのプログラムの主な対象は企業の健康保険や福利厚生の事業です。今やどの企業も社員のメンタルヘルスケアやメタボ対策が大きな経営課題となっていますし、新入社員研修に取り入れたところ離職率が3分の1に低下する実績が出るなど社員の労働意欲の向上にも効果が見られるということで、30社以上が信濃町の「癒しの森事業」と契約を結んでいます。
これらの事業展開を可能にしたポイントを、浅原さんは事業開始時の「コンセプトとプランの大切さ」、実際に企業等へ営業をかける際の「マーケティング戦略」だと話され、物語マーケティングや関係性マーケティングの実例を分かりやすく教えてくださいました。さらに㈱さとゆめでは、信濃町の先進例を全国の森林セラピー基地や「森を中心としたまちづくり」へコンサルティングする事業を展開しています。さまざまな森林資源を活用する事業を考える上でも大いに参考になるお話でした。
これらの実績に上に、企業社員がリフレッシュ&クリエイティブな活動を行う滞在型サテライトオフィスとしてNPO法人Nature Serviceが中心となって「信濃町ノマドワークセンター」を2019年5月に開設しました。→参照:https://nwc.natureservice.jp/
現在のアカデミー在校生にはIT業界出身者も多いことから、皆その可能性に大いに刺激を受けたようです。浅原さんは逆に、アカデミーの森林・木材活用の先端的な取り組みやドイツとの交流などに大いに関心を持たれ「アカデミーという学校の活動、アカデミーの学生たちに大いに期待する」とエールをいただきました。
担当:嵯峨創平(森林環境教育専攻)