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2023年01月31日(火)

林業事例調査2022(1)(2022/12/16)

クリエーター科林業専攻の1、2年生科目「林業事例調査」。少し時間が経ってしましましたが、今年度は2022年12月16〜18日に滋賀県、京都府、奈良県そして三重県と4府県にまたがる視察を行いました。2泊3日の行程を林業専攻の1年生が報告します。

 

今年の事例調査一連のテーマは、「木材の利用や製材について考える」です。
木を育てて、最終的に利用する。人間にとってみると生産サイクルの長い林業においては、他産業以上にどのように商品やサービスを提供するかということが重要だと感じています。
今回の事例調査ではそういった素材生産や利用に関する事業体の視察に加え、その地域固有の樹木や岐阜県では見ることのできない海岸地域の植生観察も行いました。

 

最初の訪問地は、滋賀県甲賀市にある「甲賀市甲南ふれあいの館」と同県湖南市にある「平松のウツクシマツ自生地」です。

「甲賀市甲南ふれあいの館」は、甲南地域で収集された民具を中心に展示された歴史資料館です。今回ここを訪れたのは、前挽鋸の歴史を見ることが目的です。

甲南ふれあいの館の写真

前挽鋸は縦挽鋸の一種で、機械化以前の中心的な製材道具です。初期の大鋸(おが)は二人挽きでしたが、それを一人で挽けるように開発されたものが前挽鋸で、製材工程の効率化に大きく貢献した道具です。
縦挽鋸の導入は構造材の利用樹種を変えたようで、それ以前はスギやヒノキ、クリに限られていたものが、アカマツやケヤキなどの硬い材の利用を可能にし、農家などの民家建築が大きく発展するきっかけともなっています。

前びきのこ
展示室の写真

前挽鋸に関する展示品がずらり。
製材機ができる前の情景を想像しながら、人力の大変さとすごさを同時に思いを馳せました。

実は前挽鋸を今回の事例調査の最終日に再び目にすることになるのですが、この時は思ってもいませんでした。

 

「平松のウツクシマツ自生地」は、ウツクシマツというアカマツの突然変異種が天然更新している場所で、そこは国の天然記念物にも指定されています。
高木性の常緑針葉樹であるアカマツは岐阜県を始め日本の広い地域に自生するものですが、ウツクシマツは突然変異により以下のような特徴を備えています。

・幹は主幹がなく、1本の根元近く、または地表近くから枝が箒状、放射状に分かれて立つ。
・樹冠は傘を逆さにした特異な形態となる。

ウツクシマツ自生地

写真のように、萌芽して株立ち状になった広葉樹のような樹形となっています。
突然変異について、以前は土質(砂礫を交えた粘質な赤土で土層は浅く、一部に岩盤が露出している)の影響によるものと考えられていたようですが、研究の結果、潜性の遺伝形質であることが判明したそうです。
このウツクシマツも、マツノザイセンチュウが病原体となっている松枯れによって個体数が減少しているそうですが、地元の方が若木を育てて植栽するなどの保全活動を行なっているとのことでした。

ウツクシマツ遠景

 

お昼休憩を挟んで、午後は京都府京都市の北山地区へ移動します。同地区は日本はおろか、世界的に見ても最も古いとされる林業地のひとつで、600年もの歴史を持っています。こちらで生産されるスギは「北山杉」としてブランド化されています。中川村おこしの会の石岡さん、中源株式会社の中田さんに案内していただき、長きにわたって林業とそれに伴う商品生産、そして暮らしが一体となっている地域を視察しました。

北山杉説明

北山杉の特徴はなんといってもその細さです。遠目にみると一見竹林と錯覚してしまいそうなほどです。

倉庫

古くは茶の湯の流行とともに、茶室用の床柱(磨き丸太)等に用いられたのが始まりとされ、京都の文化の発展とともに古くから森づくりが行われて来たそうです。
近年は産業構造の変化とともに、床柱等の需要が激減し生産量も大きく減っているということでしたが、600年の歴史の中で育まれた、合自然的な取り組みへの関心は高まっており、最近ではドイツやフランスといった欧州やブラジルなどからの視察もあったそうです。

また、村の山林は民有林で分散所有が多いことや境界が不明慮なところが多いこと、後継者や担い手が不足していること等、施業に関して抱えている問題については現在の日本各地の山林と同様であることも伺いました。

台杉

写真は台スギという垂木などに使われる材を育てている木です。

スギを萌芽更新させることで、台となる部分は古いものでは400年近く前のものもあるそうです。改めて木の寿命の長さと力強さを感じます。

台杉説明
台杉2

それにしても、これだけの台スギが並んでいる様子は圧巻でした。
なぜかこちらの台スギは獣害等の被害もなく、花粉も少ないそうです。不思議ですね。
森林文化アカデミーの演習林でも、育ててみたら面白そうだななんて考えていました。

細い杉の生産は気象害のリスクも高く、非常にコストがかかること、枝打ち等の管理もシビアで、技術が求められることが分かりました。そのため確かな付加価値をつけることや販路の開拓が重要となってきているということでした。

京都北山では長きにわたって人が山に関わり、山を大切にしてきた歴史がありました。生産量も担い手も減り、厳しい状況にあるということでしたが、地域で歴史ある山を守っていく取り組みに感銘を受けました。

(クリエーター科林業専攻1年 河合和博)