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2017年08月23日(水)

教員オススメの一冊 6:森のスケッチ(日本の森林/多様性の生物学シリーズ-①)

森のスケッチ

森のスケッチ(日本の森林/多様性の生物学シリーズ-①)
著者:中静透
発行年:2004年
発行元:東海大学出版会
おすすめしている教員:横井秀一


「森のことをもっと知りたい」。そんな方にお勧めなのが、この『森のスケッチ』です。

森のことを知りたい人は、まず、「この森に生えている木は何?」とか「この森にはどんな動植物がいるの?」を知ろうとするのではないでしょうか。そして、「この木はどんな生活をしているの?」とか「なぜこの木はここにいるの?」というように、様々な興味がかき立てられていくのではないでしょうか。こうして深みにはまっていくと、「この森はどのようにしてできたの(今の姿になったの)?」とか「この森はどうなっていくの?」と森の動きが気になってくるのではないでしょうか。

そう決めつけているわけではありません。自分がそうだったような気がする、というだけのことです。

撹乱後の更新状況。シラベの稚樹群が勢いよく成長を始めている。

森が動いている-絶えず変化している-ということに気づき、それが「なぜ?」や「どのように?」に繋がっていくと、森の見方が劇的に変わると思います。この本は、そんなきっかけになる一冊です。

ふつう、森は時間とともに緩やかに発達していきます。そこで起きているのは、樹木の成長、それによる樹木間の競争、その結果としての樹木の衰弱や枯死、それらに伴う様々な生物の盛衰です。しかし、森林には、こうした緩やかな時間が流れているだけではありません。

森は、いきなり壊れるのです。人による伐採だけでなく、自然現象によっても森は壊れます。風や雪による樹木の倒壊をはじめ、大雨や地震による地表面の崩壊、雪崩、河川の氾濫、山火事などなど。その形態や規模、それが発生する頻度は様々です。このように森林が壊れることを「森林の撹乱」と言います。撹乱が発生した場所では、新しい森が再生されていきます。このことを「森林の更新」と言います。この本は、「撹乱」とその後に起こる「更新」にスポットを当て、いろいろな実例をあげながら解説しています。

撹乱が起きていない林床に芽生えたコナラ。彼らの運命は?

例えば、樹木がどんなタネをどのくらい作り、それをどうやって散布するのか、そして、そのタネがいつ発芽し、芽生えがどのように生き残るのか、いくつかの仮説とともに多くの研究事例が紹介されています。そして、それらが森林の成立にどのように関わるのかという話もされています。

スギ林伐採後の更新状況。ここで起きていることも、この本を読むといろいろと見えてくる

少し堅苦しく思うかもしれませんが、概念的なことだけでなく研究によるデータに基づいて、それをできるだけわかりやすく説明しようとしているのが、この本のすごいところです。

「入門者」向けというより、「スキルアップを目指す人」向けだとは思いますが、このブログを読んでくださっている方にはこの本の著者の思いが届くことでしょう。この本に書かれていることが実感・理解・納得できれば、あなたは森を見る上級者の仲間入りです。

 

横井 秀一 教授

横井 秀一
森林施業(造林・育林)
森林生態
研究テーマ 針葉樹人工林の施業技術
広葉樹二次林の施業技術
広葉樹人工林の施業技術

 

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