工芸用に3種類のサクラの皮をむいてみた!
高山の伝統工芸士・西田恵一さんから、曲げわっぱを留めるのに使うサクラの樹皮の入手に苦労していると聞きました。曲げわっぱは岐阜県の伝統的工芸品「飛騨春慶」の木地です。かつては地元で樹皮を採取する人がいたのですが、今では遠く秋田から買わなければならないとのこと。
その話をアカデミー特任教授で広葉樹の専門家、横井秀一先生にしたところ、県内で調達するにあたり、まずはどの樹種の皮が適するのか調べてみてはと提案をいただき、演習林内で3種類のサクラを伐ってみることにしました。そこで実に面白いことが分かったのです。
サクラの樹皮は、職人さんの間では「カンバの皮」と呼ばれます。秋田の樺細工ではオオヤマザクラおよびカスミザクラが使われるそうです。木材が一般に流通するのはヤマザクラですが、秋田など寒い地方にはヤマザクラはなく、代わりに近縁種のオオヤマザクラが自生しているとのこと。西田さんによれば、樹皮を採取するには直径は10〜15cmもあれば良く、伐り時期はまだ根から水を吸い上げているお盆頃から9月初旬までが良いとのこと。
アカデミー演習林では、ヤマザクラ、カスミザクラ、ウワミズザクラの3種を伐ることにしました。西田さん、横井さんに加え、学生にも呼びかけてみたところどんどん参加者が増え、教員3人、学生10人以上のイベントになりました。こういう活動がすぐにできるのがアカデミーの良いところです。
伐倒は、林業専攻の新津裕先生と木工専攻の学生が担当してくれました。お神酒を用意して、全員で感謝の祈りを捧げてから伐倒。いずれも樹齢22〜24年ほどの小径木でした。杣人(そまびと)や木地師(きじし)に倣い、鳥総(とぶさ)立て(木の梢を切り株に挿すこと)をして再生を願い、丸太を下ろしてきました。
さてここからが本題。
まず西田さんがヤマザクラをむいてみたところ、むけるむける、ツルリとむけます。曲げわっぱに十分使えます、とのこと。直径12〜3cmほどの幹のほか、5センチほどの枝からもきれいな皮が採れました。学生たちも大興奮。
カスミザクラも同じようにツルリとむけました。
一方、ウワミズザクラはちぎれてしまい、むけません。ウワミズザクラは成長すると樹皮に縦に亀裂が入るので、横方向の強度はあまりないだろうと予測していたのですが、その通りでした。ちなみにウワミズザクラは資源量は豊富にあり、高山では「ホエビソザクラ」として木工用に流通しています。ヤマザクラに比べやや材の色が赤みを帯びています。
横井先生から、むけているのは外樹皮で、その内側に内樹皮があり、さらにその内側に形成層(細胞分裂する部分)があるとの解説がありました。そこで内樹皮もむいてみたところ・・・
面白いことに、ヤマザクラはむけない、カスミザクラはツルリとむける、ウワミズザクラはむけない、ということが判明。さらに、カスミザクラの内樹皮は縦に裂けることが分かりました。外樹皮は横に裂けるので、繊維方向が違うということになります。
まとめると、以下のようになります。外樹皮と内樹皮では繊維の方向が90度異なっていて、樹種ごとに成長の仕方が違うようなのです。
樹皮は西田さんに持ち帰っていただき、ヤマザクラとカスミザクラの使い心地の違いを試してもらうことになりました。サクラの種類は他にもあるため、他の樹種ではどうなのかも試してみたいところです。
こうして森の専門家と木の専門家が集い、すぐに行動につなげられるのが森林文化アカデミーの強み。こうした研究が工芸素材の持続的な供給につながればと思います。