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2020年02月10日(月)

コブシの地理的変異に関する論文が出版されました

教員の玉木です。昨年の話になりますが,コブシの地理的変異に関する論文が出版になりました。この研究は名古屋大学,三重県森林研究所,(国研)森林総合研究所,Chonnam国立大学,三重大学との共同研究です。

早春に咲くコブシの花

Tamaki I, Kawashima N, Setsuko S, Lee J-H, Itaya A, Yukitoshi K, Tomaru N (2019) Population genetic structure and demography of Magnolia kobus: variety borealis is not supported genetically. Jorunal of Plant Research 132: 741–758

出版元のAbstract

邦題:コブシ(Magnolia kobus)の集団遺伝構造とデモグラフィー:変種キタコブシ(borealis)は遺伝的には支持されない

植物学会の日本語要旨

 

この論文では,全分布域(北海道,本州,九州,済州島)のコブシ集団の遺伝的変異と葉形質の変異を調べて,その地理的傾向について議論しました。その結果,遺伝的変異は,北海道から東北にかけての北方系統とそれ以南の南方系統で大きく異なることが分かりました。特に南方系統は内部により細かい遺伝的な違いがあることも分かりました。また,葉面積や葉の相対幅が大きいキタコブシは,北海道から本州地中部の日本海側にかけて分布しており,上述の北方系と南方系の一部を含んでいることが分かりました。つまり,キタコブシは遺伝的にまとまったグループというわけではないことが分かりました。

近年,広葉樹を植栽する際にも遺伝子撹乱を避けるために,遺伝的系統に基づく管理が求められるようになってきました。本研究の結果から,変種キタコブシと変種コブシを分けるだけでは不十分であることが示されました。また(キタコブシを含む)コブシには細かな遺伝的系統が存在するため,都道府県レベルのかなり狭い範囲で管理を行う必要があることが示されました。コブシは良く植栽される樹木です。そのため,野外への逸出例も数多く報告されています。遺伝子撹乱を避けるためにも,その植栽には,十分な注意を払う必要があります。

ここから先は今回の論文の結果とは関係のない話になります。コブシは岐阜県でも広く街路樹や公園樹として植栽されています。しかし,岐阜県の低標高地にはそもそもコブシは自生していません。その代わりに,希少種のシデコブシが自生しています。この2種は,現在は分布が重複していないのですが,人工交配させると容易に交雑してしまいます。シデコブシの遺伝的多様性を保全するためにも,街路樹や公園樹等の大規模な植栽はしないでもらいたいものです。

これからも論文が出たら,内容を紹介していきたいと思います。また今回,久々,教員紹介の文献リストを更新しました(今回紹介した論文の他にも,いくつか論文が出版されています)。