木工事例調査④「然」 中津川市連携事業
森林文化アカデミーの木工専攻では毎年、全国有数の木工産地の一つである岐阜県中津川市の工房を巡る「木工事例調査」を実施しています。準備と運営はアカデミーと中津川市の連携協定に基づき、中津川市林業振興課にご協力いただきました。
レポート第4弾は、新しいブランドを立ち上げたばかりの木工房「然」です。
中津川市付知町の有限会社・然を訪問しました。
代表の内木(ないき)勇さんは高校卒業後、地域の木工会社で2年ほど修業。2004(平成16)年4月に自らの工房「然」を立ち上げ、4年間は業務用品を作る商社の仕事に従事されました。その後、岐阜県の助成金も得て「asahineko(アサヒネコ)」というブランドを付知の5社でスタートさせ、小泉誠さん、村澤一晃さんら一流のデザイナーとともに、アスナロ(ヒバ)、サワラ、ヒノキ、ネズコ、コウヤマキの5種類の針葉樹を生かした生活道具を作るプロジェクトを立ち上げられました。
また、林業・製材所、建築士、デザイナー、木工所、工務店、家具店など、森の「川上」から「川下」までの人たちが連携して木の家具づくりに取り組む、コダマプロジェクトにも参加しています。商品の1つである学習机は、購入するとその木が育った森への旅行がついてくるというユニークなものです。
「然」という名前は、松本のデザイナーに依頼してつけてもらったそうで、主に作っている製品はオーダー家具。名古屋の家具屋さんのテレビボードやキッチンなど大物が売り上げの7割を占め、残り2〜3割がasahinekoの製品。
内木さんは、地域にヒノキなどの良材があるのに注文に応じて外材も使わなければならないことや、ウレタン塗装で木の表面を固めることに疑問を感じるようになり、デザイナーの山本愛子さんと「日のきや」という新しいブランドを立ち上げました。2年ほど前から山本さんと考え続けてきたそうで、最初の製品が完成し、販売はこれからになります。
コンセプトは天然素材。木部は地元のヒノキとクリで作ります。接着にはミルクカゼイン接着剤を使います。ミルクカゼインは乳製品由来で、本来は漆喰の下地に開発されたもの。それを木工用の接着剤に応用した製品があるそうです。現在実験中で強度もそこそこあり、耐水性も十分。塗装も恵那農業高校が生産するエゴマを分けてもらって、搾ったオイルを塗っています。
自然に還る害のないもの、食べても安全なものをとことん追求し、理解していただける人だけに販売。知り合いのお店で販売し、問屋を通すことは考えていないし、大量生産する予定もないそうです。販売数量は50~100を考えており、単位が少ないのでビジネスの柱にはならないが、然全体の売り上げの2割ぐらいをめざすと話されていました。
全部木だったらいいなという思いから、余分な装飾をなくして製品に仕上げています。反りや、割れといった木の特性もうまく生かし、買う人にもそれを理解してもらい、購入後もメンテナンスしてくれるお客様に提供していきたい。まだ理解してくれる人は少ないかもしれないけれど、5~10年後には経済市場よりも自然のものや感覚的に大事なものを大切にする人が増えてくると思うので、その時に売れるように取り組んでいるそうです。
内木さんは、「木工の道を選んでよかったと思う。工場に入ってきたお客さんが、いい匂いやなと言ってもらった時や納品してお客さんに喜んでもらった時などにやりがいを感じます」と話されていました。
内木さんや山本さんから「日のきや」に込める思いが心に深く伝わってきました。人へのやさしさや地球環境を重視した「日のきや」がどのように展開されるのか、個人的に大変興味を持ち、これから木工を続けるうえで自分も大切にしたいと思いました。お忙しい中、見学させていただきありがとうございました。
文責:豊田千景・林照翁(木工専攻1年)
久津輪 雅(木工・教授)