木工事例調査①「加子母森林組合」 中津川市連携事業
森林文化アカデミーの木工専攻では毎年、全国有数の木工産地の一つである岐阜県中津川市の工房を巡る「木工事例調査」を実施しています。毎回大きな驚きや発見があるこの調査、今年は5ヶ所の工房と、神社、歌舞伎小屋を2日間かけて巡りました。準備と運営はアカデミーと中津川市の連携協定に基づき、中津川市林業振興課にご協力いただきました。
学生からのレポート第1弾は、加子母(かしも)森林組合・・・? なぜ木工事例調査なのに森林組合なのか? その理由は本文をどうぞ!
今回は加子母森林組合を見学させていただきました。加子母町はヒノキの生産適地の北限に近く、年輪幅が細かく均一、材質はピンクで艶があり、香りが高い事が特徴な「東濃ひのき」の産地として有名です。
「美林萬世之不滅(びりんばんせいこれをたやさず)」・・・これは加子母森林組合の山づくりの考え方です。
林齢の異なった様々な木が配置され、草花や木の実があふれ、小鳥や動物や昆虫が鷲見、「豊かな循環型の森林」を育て護っていく意思を表した山づくりの理念です。
今回見学させていただいて「豊かな循環型の森林」だけでなく「循環型の社会」という事も含まれているように感じました。
私は森林組合と聞くと林業のみというイメージをもっていましたが、こちらでは「林業」「木材市場」「木材加工」の運営をされています。
木材市場は、売り手ではなく「競り」によって買い手が価格を決めます。今回お話をしていただいた加工販売課長の内木英喜さんは「手間暇かけて育てた木材が自分たちでは価格が決められず、良い丸太も安く取引されてしまう」という事に疑問を抱いていたそうです。
木材を加工し製品を作ることで、作り手が価格を決めることができます。適正な価格で丸太を購入することで、林業や山主にも還元されるような仕組みを森林組合でも作ろうという思いから、木材加工を始められたそうです。
製品は幼稚園・保育園で使用する家具から一般の方のオーダー家具、その他にも様々な製品を製造されています。東濃檜を使った園児用の家具製品は「子供達に木で出来た物を使って欲しい」という幼稚園からのオファーを受け製作したそうです。
下の写真は、製作されている園児用の椅子と茶室です。ある特徴に皆さんお気づきでしょうか?
節が無くて美しく狂いにくい「無地材」という良質な木材を使用していることです。とても美しくて優しい印象をうけます。「無地材」は主に建築材として和室などに使用されていましたが、時代の変化により需要が下がってしまいました。
良い木からは良い無地材が多く取れるため、家具材として利用できる上に「林業や山主への還元」に繋がります。
内木さんは地域の木を使う事を第一優先に考えていて、「仕入れコストは下げない」とおっしゃっていました。
また若い人材の育成にも力を入れていて、木工未経験者が地元の職人さんと交流をしながら成長していく事で地域を大切にできる人材に育てています。木工技術や専門的な知識だけではなく、地域の事を考えられる人材が求められていて、作るモノと同じように、作るヒトも大切な事だと感じました。
今回見学させていただいて、私は「山づくりを知っている人がモノづくりをする」、これはとても素晴らしい事だと感じました。林業と木工は仕事としての作業は違いますが、お互いがなくてならない存在です。
個人の木工作家や家具工房が山づくりから関わることはなかなか難しいと思います。しかし木工を専門でやりながらも、この木は誰がどこで育てたのか、使う事でどこに還元されるのか、モノを作るだけではなく自分の行動の先にある未来の事を考えてモノづくりをしたいと思います。
これからそれぞれの学生がモノづくりを通して「循環型の森林・社会」について行動していくことと思います。
最後になりましたが、丁寧にご説明して下さった内木様、また加子母森林組合の皆様、お忙しい中本当にありがとうございました。
文責:クリエーター科1年 木工専攻 水上淳平
教員より:
森林の育成から、伐採、流通、加工、販売まで、一貫して行うことで木に付加価値をつけるという取り組みがすばらしいです。NCルーターやレーザー加工機など自前の最新鋭の機械に加え、さまざまな技術を持つ地域内の職人さんとも連携することで、多様な注文に応えています。この部門を率いる内木さんは「木工は独学です」とおっしゃるので舌を巻きました。森林文化アカデミーとしても今後の連携を模索していきたいと思います。
久津輪 雅(木工・教授)