木工事例調査②「加子母裏木曽国有林」中津川市連携事業
今年も連携協定を結んでいる中津川市の林業振興課にご協力頂き、中津川市の木材産業を巡る木工事例調査を実施しました。中津川市は木曽ヒノキや東濃ヒノキで知られる木材の一大生産地であると同時に、全国でも有数の木工が盛んな地域です。
学生達の目線から報告するレポート第2弾は、伊勢神宮の式年遷宮の御用材をはじめ、古くから日本を代表する城郭や寺社仏閣に、最高級の木材である木曽ヒノキを供給してきた森である「加子母裏木曽国有林」です。
「加子母裏木曽国有林」には、「木曽ヒノキ備林」や「裏木曽古事の森」があり、一部は天然林であり、全国的にこれだけのヒノキがそろった天然林は大変珍しいとのことです。
室町時代に伊勢神宮の遷宮材を出材した記録が残っており、城郭や寺社仏閣の用材として利用されてきました。今回、裏木曽古事の森ウォーキングツアーガイドの前川信孝さん、今井健太郎さんにご案内していただき見学することができました。
[木曽ヒノキ備林]
文化的な木造建築物への用材供給や学術研究を目的として東濃森林管理署にて維持管理されています。安全・防犯等の理由から専用林道の途中にゲートが設置されており、一般には開放されていません。
今回の見学では、まず「木曽ヒノキ備林」の中心部に向かい、美林橋近くの案内看板前にて木曽ヒノキ備林の概要を教えていただきました。平成10年(1998年)調査では、「木曽ヒノキ備林」は標高 820~1,820mにあり、面積 は約730haあります。樹種別蓄積割合は、ヒノキ76%、サワラ23%、その他1%、蓄積約32万㎥(約10万本相当)。また、樹齢は約300~400年、胸高直径は50~80cm、平均樹高は25mになります。
備林の成り立ちは明治天皇が伊勢神宮の御用材枯渇を懸念されたことから、明治37年(1904年)に「造営材備林制度」が設けられ、大正2年(1913年)に「出ノ小路(いでのこうじ)神宮備林」が設定されました。その後、幾度の変遷をたどり、昭和52年に「木曽ヒノキ備林」に改称され、現在に至っています。
[第62回 式年遷宮 裏木曽御用材伐採式跡]
次に、美林橋から木曽ヒノキ備林の中を歩き、「第62回 式年遷宮 裏木曽御用材伐採式跡」をご案内いただきました。平成17年(2005年)6月5日に「御樋代(みひしろ)(御神体を納めるための器)」の用材(御神木)を伐採する神事が行われた場所で、内宮用と外宮用の2本の「御神木」と予備木の根株が残っています。式典のために舞台を設営したとのことですが、かなりの傾斜地であり、この場所にて伐採式が行われたことに驚愕しました。また、伐採式では斧にて「三ッ緒伐り(みつおきり)」という手法で内宮・外宮の順にて御神木は伐採され、2本が交差するように倒すのが習わしとのことでした。しかし、それぞれの御神木は標高差があるところで正確な方向に伐採する必要があり、交差させることは至難の業の様に感じました。
なお、「三ッ緒伐り」については、木工事例調査 ⑥加子母裏木曽国有林をご覧ください。
[木曽五木]
「裏木曽御用材伐採式跡」から美林橋に戻り、橋上にてガイドの前川さんと今井さんから木曽の五木の話を教えていただきました。
ヒノキ・サワラ・アスナロ・コウヤマキ・ネズコの5つの樹木を「木曽五木」と呼んでいます。由来は、江戸初期に各地の城郭や城下町の建築用材として大量に木が伐採され、山が荒廃したことから、宝永5年(1708年)に尾張藩にて停止木(ネズコは翌年)が指定され、尾張藩の御用材以外の伐採が禁止されました。停止木の5つの樹木を「木曽五木」と呼ぶようになったとのことです。
説明の際、木曽五木の葉が配られ、クイズも行われました。一年生の授業にて樹木同定実習があり、「木曽五木」は授業にて習った樹木であるためとても良い復習になりました。
[二代目大ヒノキ]
昼食後に「木曽ヒノキ備林」から少し離れたところにある「二代目大ヒノキ」に案内いただきました。
美林橋からバスで移動し「二代目大ヒノキ」の歩道入口に。林道から1200mのところに推定樹齢1000年、胸高直径154cm、樹高26mの二代目大ヒノキがあります。歩道は付知森林鉄道跡のため起伏も少なく、ヒノキ・サワラの巨木に加え、トチノキ・ホオノキ・キハダなどの広葉樹、根上り木、切り株更新など、天然林を堪能できました。
「二代目大ヒノキ」は天然林のクライマックスにふさわしく、急斜面に荘厳さを備えて存在しており、樹齢1000年の大木は圧巻でした。なお、「初代大ヒノキ」は樹齢950年、胸高直径213cm、樹高36mで対岸にありましたが、室戸台風(1934年)で倒れてしまったとのことです。
[合体木]
バスで林道を移動し、「木曽ヒノキ備林」に戻り、ヒノキとサワラの「合体木」を案内いただきました。
推定樹齢560年、樹高35m、幹周り250cmの大木で、ヒノキとサワラが上下一本に密着成長したものです。地上約2mまでは正面はサワラで裏側の一部がヒノキです。それより上はヒノキになっています。一般的に合体木は隣同士の木が融合するため、上下が融合したものは珍しいとのことです。ヒノキとサワラの境はとても分かり難く、樹皮のわずかな違いのみです。合体木の周りにて、皆で境が見える・見えないなどと会話が弾みました。
[次期式年遷宮斧入れ式跡]
「木曾ヒノキ備林」を後にし、「裏木曽古事の森」にて「次期式年遷宮斧入れ式跡」に案内いただきました。
「古事の森」は、故・立松和平氏が提唱した森づくりで、林野庁の「木の文化を支える森」の特に歴史的建造物(神社・仏閣・城郭・旧家など)の修復等に必要な木材(樹齢200~400年)のための超長期の森づくりが「古事の森」と呼ばれています。
「次期式年遷宮斧入れ式跡」は、伊勢神宮の次期式年遷宮(2033年)に備えて、2017年10月30日に斧入れ式が行われました。「三ッ緒伐り」にて樹齢約100年、樹高22mのヒノキが伐採された跡になります。わずかに残っている縄は、「鳥総立て(とぶさたて)」の際に使われたしめ縄です。
◆終わりに
古来からの人と森との関わり、伊勢神宮と木曽ヒノキの関係性、天然林に残る自然、
今後の森づくりの考え方など様々なことを学ぶことができ、大変貴重な機会となりました。
案内をしていただいた裏木曽古事の森ウォーキングツアーガイドの前川信孝さん、今井健太郎さん、貴重な体験の機会を与えていただきありがとうございました。
森と木のクリエーター科 木工専攻一同
文責: 高橋敏(1年)、 ヤップミンリー(1年)