続々々・建築秘話 近江八幡の家(上棟~竣工)
建築秘話 近江八幡の家(木造建築病理学に基づく調査・プレゼン)
続・建築秘話 近江八幡の家(基本設計から実施設計)
続々・建築秘話 近江八幡の家(着工~上棟)
に続き、建築秘話 近江八幡の家の4話目です。
上棟式を終え、外壁にも断熱材が入っていきます。
今回のプロジェクトの断熱材のメインは木の繊維をマット状にしたウッドファイバーです。
morinosで使用したセルロースと同様に、断熱材としては、蓄熱と調湿に優れた素材で、夏型結露や位相のずれなどを期待できます。
間柱間に隙間なく丁寧に施工していきます。
どうですか。この美しい施工。西川棟梁の几帳面な性格が出ています。
屋根に続いて外壁でも複数回にわたって気密層を確保していきます。
耐力壁として機能する構造用合板の継ぎ目に気密テープを貼り。
その上の付加断熱ネオマフォームを張り付けて再度気密テープ、さらに透湿防水シートの継ぎ目にも気密テープの3層気密です。
ちょっとやりすぎくらいです。
今回は、床断熱を採用しているので、床の構造用合板廻りも気密テープでぴったり納めていきます。
床断熱の場合は、この気密層を給排水配管などが貫通しますので、その廻りも要注意で職人同士の連携が大切です。
※近江八幡の家の温熱性能は、「続・建築秘話 近江八幡の家」を参照してください。
概ね、断熱性能や気密性能の施工の目途がたつと、いよいよ内装工事です。
寝室と玄関廻りの壁は木小舞に土壁です。下の写真は、寝室の間仕切り壁に木小舞が張られた様子です。このままも美しいですね。
この木小舞の上に荒土を塗っていきます。
最近では、ほとんど見なくなった土壁ですが、調湿や防音、防火、蓄熱など優れた面をたくさん持っています。
裏から見ると、こんな感じ。荒土が木小舞にしっかり噛んでいるのがわかります。
しっかり乾燥させます。
乾燥が進むと、表面にひび割れが出て、乾燥度合いが確認できます。
このひび割れをこの時点でしっかり出すことが大切なんです。
乾燥が進むと、さらに下塗り、上塗り(寝室は珪藻土、玄関は漆喰)と重ねていきます。
仕上がると寝室の壁はごらんのとおり、美しい表情になりました。
質感も石膏ボードに薄塗左官壁とは違って見えます。
体感的には、大きく異なる印象を持ちました。
一緒に行った学生も、この部屋は何か心地いい、と感じているようです。
おそらく、蓄熱による安定室温、空気質の清浄さや音性能(吸音や防音機能)の心地よさが違っているのでしょう。
総務省の社会生活基本調査(2016年)のデータから日本人の睡眠時間は、平均7.6時間。つまり人生の1/3は寝室にいることになります。
今回、予算的にも厳しい面がありましたが、寝室に土壁を残して正解だったと感じます。
一方で、気密性能はどうだったでしょうか。
サッシが入って、外部廻りが概ね出来上がった時点、内部仕上げを行う前に、学生と気密測定に行ってきました。
「環境性能設計」の授業で何度か気密測定を行っていますので、手慣れた感じで設置を進めていきます。
測定結果は、C値:0.6 c㎡/㎡。(床面積1㎡あたり0.6c㎡の隙間という意味)
目標としていた1c㎡/㎡を切っています。
初めての工務店さんでしたが、普段からこの程度は出るとのことで、安心して任せられました。
ですが、リビングの大きな木製建具が4枚の設置はまだ。(この気密測定時はプラダンボードで仮に塞いで計測)
既製品のサッシと違い、どこまで性能を維持できるかが懸案事項です。
この時点では、まだ仕上げ工事前です。
修正できるところは、修正してさらなる性能向上を目指します。
学生と、圧力をかけた状態で、建物の隅々まで確認して、隙間があるところをチェックしていきます。
工事は進んで、木製建具の設置です。
一間角近い大きな建具ですが、腕のいい建具屋さんが、考えたディテールの通り、ピンチブロックを入れたり、引き寄せクレセントを取り付けたりと、テキパキと作業を進めていきます。(建具の納まりはまた別の機会に紹介します)
南面の大開口が取り付きました。
既製品のサッシではなかなか難しい隠し框によって、室内と室外がスムーズにつながります。
FIXガラスはトリプルガラス、可動する木製建具はペアガラスとなっています。内側は上部のカーテンボックスに断熱ブラインドが取り付く予定です。
計画最初期に日照検討して計画した通り、たっぷりの日照を取り込んでくれることでしょう。
計画の経緯は、「建築秘話 近江八幡の家」を参照してください。
木製建具が入った時点で、2回目の気密測定に、学生と一緒に伺いました。
養生を外す直前で、建物はすべて仕上がっています。
さて、結果はというと、C値:0.9c㎡/㎡。
中間の気密測定より少し落ちましたが、目標だった1c㎡/㎡を達成。
職人さんの細やかな施工が功を奏しました。
この後、スモークテスターを使って、いろいろな箇所の気密具合を確認しました。木製建具部分で、少し気流を測定しましたので、少し引き寄せクレセントを調整してもらうことに。もう少しだけ向上したかな。
これで、建物本体は竣工しました。
写真で少しだけ紹介します。
まずは道路側から見た建物です。
周囲の街並みに合わせた大きな瓦屋根。隣の建物より低く抑えられた軒高で落ち着き感が出ています。
道路側には、木と左官の塀もできる予定で、この姿では見えなくなります。
手前の庭からこぼれる植栽と屋根だけが印象的に見える予定です。
車庫から入ると、南に広く取った庭に出ます。
外構工事は、季節の落ち着いた秋以降にかかることになりましたので、まだまだ寂しい状況です。
大きな切妻屋根が見えてきます。外部は漆喰と木の組み合わせ。
木部分は、荒木のままオスモカラーで塗装しています。
庭が完成すると、車庫には格子状の建具がはまり、通りを歩いている人から車庫を通して庭の緑が見通せる計画です。
方形鉄平石が敷かれた玄関を入ると、広めのホールに出ます。
落ち着いた光の玄関ホールから障子を開け、中を見ると南の木製建具から降り注ぐ明るいリビングが見通せます。
右の白いボックスは内玄関と玄関収納を兼ねた部分で、土壁+漆喰で仕上げられています。
彫り込まれたニッチや角の丸みなど、左官でしか表現できない表情をしています。
リビングには、まだ家具が置かれていませんが、吹き抜けと天井で低く抑えられた立体的な構成が、気持ちいい空間になりました。
気密測定の休憩中に学生たちも物思いに耽っています。
フローリングの無垢のナラ材もいい感じの色合いです。
南の天井が張られたスペースは、主要動線の機能と各部屋の広さを確保するための緩衝帯。
ここから、キッチンや水回り、階段室、寝室につながっています。
下の写真は、明るいオープンな洗面所。
洗面台の面材をナラ材に取り換えて建物との一体感を出しています。
二階は子供室と書斎スペース。
下の写真は、書斎スペースから見返したところ。
吹き抜けを回り込むように、突き出しています。
構造的にも、重要な水平構面です。
本棚もたくさんある贅沢な書斎です。
最後に、一点。
引き渡しの時に、どこかで見たようなスツールがありました。
伺うと、家族それぞれのお気に入りの家具を探している途中で、飛騨産業さんのアウトレットで、踏み台にも兼用できるこのスツールを見つけて購入したとのこと。
まさかのmorinosのスツールの試作品。
フレームを金属で作ると、座面の木部との対比が綺麗だろうと製作しましたが、morinosの子供たちが動かすには少し重め。
そこでmorinosでは、形状は同じまま、木で作り直して軽くしたスツールが入っています。
個人的なデザインは、スチール脚が好みだったので、残念に思ってましたが、まさか住まい手の方が見つけていたとは。奇妙な偶然を感じました。やはりデザインセンスが同じなのですね。
この住まいは、まだ生まれたばかり。
外構が完成して、お気に入りの家具が置かれて、初めてスタート地点。
ここから数十年、この家と住まい手の歴史が始まります。
幸せな家庭になることを祈るばかりです願っています。
〇 近江八幡の家
基本設計:森林文化アカデミー 木造建築専攻(教員 辻充孝、学生 玉置健二・八代麻衣)
実施設計・監理:トヨダヤスシ建築設計事務所 豊田保之、森林文化アカデミー(教員 辻充孝、18期・19期学生)
施工:内保製材(とりまとめ 川瀬さん、棟梁 西川さん、現場監督 徳田さん、他)