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2018年11月27日(火)

追求したことを人に伝える「木材利用総合演習」研究発表会

突然ですが、みなさんは「自分が打ち込めること」を見つけていますか?

森林文化アカデミーのエンジニア科には、高校を卒業して18歳で入学してくる人がほとんどです。現代の日本社会は何でもあるようで、非常に混乱している部分も多々あり、今を生きる若い世代にとって「自分が打ち込めること」を見つけることは、なかなかムズカシイことだと思います。
学生さんは様々な理由でアカデミーに入学し、森の近くに身を置きながら友達と2年間過ごすわけですが、ここで「一生自分が打ち込めること」を見つけることができたら、とても良いですよね。

エンジニア科2年生林産業コースの「木材利用総合演習」という授業では、自分の興味のあることを、半年かけて研究し、最後はそれをみんなに説明して、意見と評価をもらいます。夜を徹して頑張ったり、何度も教員と相談しながらようやくまとめ上げたり、みなさん今日この日のために、いろんな意味で自分に挑戦したのではないでしょうか。

いよいよ開幕です。発表の写真と展示ポスターを解説する形で、レポートします。

エンジニア科1年生全員と、長野林大の方々、美濃市役所の方も来られました。

研究内容をまとめたポスターと、成果物の展示もしました。

全員に採点用紙が配布されます。

この授業を企画・担当している吉野教授。全員の研究にアドバイスや指導を行い、研究に使用する材を製材する、吉野先生ならではのこの授業。いよいよ半年間の成果のお披露目です。

トップバッターは松本雄太くん「木と睡眠は関係があるのか」

松本くんは「寝ても寝ても眠い」という身近な問題を、木材で解決できないかと思い立ちました。
スマートフォンのセンサーを使った実験でわかったことは「木を部屋におくと寝つきが良くなる」かも?というもの。結果の信ぴょう性を出すためには、多くのデータが必要であることを理解できました。

2人目は河野祥規くん「黒芯材の利用を考える」

木材流通の一般的には価値がないとされる「杉の黒芯材」。本当に価値がないのか?白太に比べで性能が劣るのか?どうすれば利用できるのか?すでにどんなところで使用されているのか?
アンケートを実施すると「黒芯材の方が高価に思える」という意見が多く、可能性の垣間見える研究になりました。

小野寺翔くんは「美濃市以安寺山の植栽樹種の選定」

小野寺くんがと取り組んだのは、美濃市の「以安寺山」の利活用提案です。去年まで2年間に渡って美濃市とアカデミーの連携の中で行われた「以安寺山」提案を、小野寺くんら有志が、さらに練り上げて昇華させた研究です。花見山として、四季のどの季節でも花を楽しめる提案になっています。この地域の植生にあった樹種を選定されており、桜の花見スポットである「小倉山」とは違った魅力をつくる狙いです。福島県福島市の「花見山」公園の成功例を参考に、地元の人々が山をガイドしたり、剪定された花を地域の病院や学校に寄付するなど、地域の人々が運営していくというビジョンが示されました。
小野寺くんの発表を見るために美濃市役所から担当の方が聴講にこられました。
植栽計画を含め、非常によくできた提案で、ぜひ実現することを願っています。

 

坂井文香さんは「みのかも健康の森で山が身近になる!」

「みのかも健康の森」は年間2万人が訪れる人気スポット。来年度からは「ツリートップアドベンチャー」が設置されます。坂井さんは、その収支から損益分岐点を割り出し、経営計画を立てました。さらに新しい企画と広報が大切という坂井さん。「森のオフィス」や「焚き火をつくろう」など需要をつくれそうな楽しい企画提案もありました。パワーポイントもわかりやすく、内容も充実の発表です。

休憩では、会場展示が賑わいます。

 

松下昌太郎くんは「特色を活かした町づくり」

建築を志す松下くんは、町歩きが好きとのことで、伝統的な木造建築が並ぶ「郡上八幡」「四間道」「高岡」の3つの町について取材に赴いて調査しました。3つ全ての町が大火事に見舞われており、延焼への対策が地域ごとに違う点がとても面白い研究でした。聞いていて、3つの町に行きたくなるような、松下くんの関心が伝わってくる発表でした。

桂川晃くんは「製材の端材利用」

桂川くんは車が大好きで、長いドライブも苦にならず、なんと一日800キロもドライブすることがあるそう。家業が製材所なので、ヒノキの端材を有効活用するため、車のシートの下に端材を置いて、ヒノキの香りのリラックス効果を狙いました。
かなり強い香りなので、アンケートをとると不評な意見もありましたが、中には「車中で吸うタバコが減った」という意見も。自分の生活から身近なテーマに取り組むのは良いことですね。

宮川絋輔くんは「ACパネルについて」

宮川くんが取り組んだのは「ACパネル」の研究なのですが、これは何かというと、アカデミーパネル、つまりアカデミーオリジナルの幅接ぎパネルなのです。主に自力建設で使用され、改良に改良を重ねて現在の作成方法になっているのですが、宮川くんの研究では「反りを抑えるための材の組み合わせ」が明らかになりました。これで来年はもっとアップグレードされたパネルができるかもしれません。

 

古田嘉樹くんは「木材と香味の関係」

古田くんはコーヒーマニアです。美味しいコーヒーを出す喫茶店で働いて見たり、コーヒー豆や淹れ方にも実に詳しく、いつかは自分でお店を持つのが夢とのこと。素晴らしいですね。
今回の実験では、木材の香りを使った「フレーバーコーヒー」と作成し、どの樹種が一番美味しいかを調べました。はじめ生木で実験したら、とても飲めない代物ができて意気消沈していましたが、木材を焙煎してみたところ一気に美味しくなり、俄然、研究に熱が入りました。
桜、胡桃、杉の三種で実験しアンケートとったところ、インスタントコーヒーが美味しくなると、とても好評。自分のお店のメニューになるかも。

 

藁科洸くんは「ヒノキと合うお酒」

 

藁科くんは、アカデミー卒業生の営む下駄屋さんに就職を希望しています。下駄づくりで発生する「郡上産の良質なヒノキの端材」に着目。ヒノキを蒸留してフローラルウォーターを抽出し、それを利用できないか考えました。
自分がお酒好きなこともあり、いろんなお酒に香りづけして、8人から意見をとった結果「ジン」と「ビール」がヒノキの香りに合うことが判明。
ちょうど郡上八幡では名水を利用した「ジン」「ビール」がつくられており、近いうちに実際に訪れてヒノキフレーバーの提案に行くそうです。
身近な興味から出発し、ヒノキ、名水、お酒、全てメイドイン郡上という地域のためを見据えたコンセプトを一貫した、見事な提案でした。

鷲見大地くんは「清流長良川の流域文化〜森・川・人〜」

今回の発表の中で最大ボリュームの内容だった鷲見くんの研究。テーマは「長良川と郡上の流域文化」についてです。
生まれ故郷の郡上八幡は水の町。いつでも吉田川が身近にあった鷲見くんは、川と森林が人に与える文化と営みについて、研究を始めます。
鮎釣りの「職漁師」、竹で編まれた「郡上魚籠(びく)」の調査を通して、”魚を守るには川を、川を守るには山を”という思いから植林も行います。文化を残すことや守ることの意義、それを「地域育」という新しい教育活動によって広げて行こうという気持ちは、研究終盤には鷲見くんの中で使命感になったとのこと。内容も、発表の姿勢も、素晴らしい講演でした。

田中晴峰くんは「檜風呂の自力製作」

ラストをつとめるのは田中くんの「檜風呂」。自分の住んでいる部屋がシャワー使えないことから、檜風呂に入りたいと考え、さらには分解してどこでも入れるようにしたい、という思いで設計・製作が始まりました。紆余曲折あり、製作に失敗したところから反省点を踏まえてリベンジし、小規模ながら完成に至りました。風車型に板を組む「卍固め」が勝因でしたね。挫折を味わいながらも最後は完成させた点が評価されました。

会場の一年生からも質疑が出ます。

教員からも質問。これにどう答えるかも評価されます。

今日聞いていた一年生のうち林産業コースを選んだ人が、来年ここで登壇します。楽しみですね。

身近なテーマから、製品開発、まちづくりや文化の研究まで幅広い内容の、非常に面白い発表会になりました。中にはこのまま一般向けに講演会ができるのでは?というものもありました。

こうして長い時間かけて、自分の興味と向き合い、それを仲間と共有する機会は、なかなかないのでは?

自分のしていることを、自分の言葉で噛み砕いて、人にわかりやすく伝えることは、どんな仕事にも、どこの暮らしにも、とても大切です。
自分と向き合って好きなことを探求し、それを人に伝えるというこの授業は、様々な人生を歩んで行く学生さんたちにとって、きっと礎になると信じています。

みなさんお疲れ様でした!

 

木造建築教員:松井匠