「morinosのロゴ」をデザインする(morinos建築秘話番外編)
ロゴマーク、と聞くとみなさんは何が思い浮かびますか?
リンゴ。パンダ。黄色い「m」。
など、有名なロゴマークが浮かんだのではないでしょうか。
今回はこのロゴマークデザインについてのお話です。
morinosを広く届けるには
morinosは「すべての人を森につなぐ」活動全体と建物の総称です。
活動(ソフト)は、ディレクターのナバさんを中心に、森の楽しさや大切さを伝えるための先進的なプログラムを、日夜つくっています。
建物(ハード)は、この建築秘話で書いてきた通りの傑作(!)になりました。
でもどれだけ面白いことをしても、morinosを知らない人にmorinosを知ってもらわないと、多くの人に伝わっていきませんよね。
最高に美味しいお寿司を握るお店をつくっても、雑居ビルの一室にあって看板もHPもなかったら、誰も気がつきません。
日本で最初の「森の入口」morinosを日本中に知ってもらいたい。
まだ森の楽しさを知らない人たちに、森に来てもらいたい。
どうしたらみんなにmorinosの存在が届くでしょうか?
それも、できるだけ幅広く、誤解のないように。
その方法のひとつが「ロゴマーク」をつくることです。
ロゴの目的は簡単に言うと“他と区別するため“です。
似たような名前の別の組織や商品ができたときの区別のためもありますが、ロゴマークは多くのものを含ませて伝えることができます。
ロゴマークって何?
例えばパンダのロゴで有名なWWFは愛らしいパンダのシルエットを通して、
野生動物の乱獲問題と自然保護に取り組んでいるという「意味」含んでいます。
一目見て「ん?パンダ?何か動物に関係した団体かな?」と思いながら、
正式名称「World Wide Fund for Nature/世界自然保護基金」を読むと「ああなるほど」と腑に落ちますよね。
また、Amazonは品物の動きを示す矢印が、届いた人の喜びを表す“スマイルマーク“になっています。
このように「企業理念」や「機能」を表現することも可能です。
そして、優れたロゴデザインは長い間に人々の記憶に定着し、
紆余曲折を経てシンプルになっていく傾向があります。
完成したmorinosロゴの解説
前説が長かったですね。
さてそれでは、完成したmorinosのロゴがこちら!ジャーン。
・人型 ……【対象】【理念】
ロゴの上部には4人の人型があり「老若男女(すべての人)」を表しています。
象形文字を意識したビジュアルで、原始的なヒトのイメージです。
・山 ……【場所(フィールド)】
山はアカデミー周辺の3つの山。
真ん中を古城山(437m)右を演習林(340m)左を小倉山(160m)とし
標高差をそれなりに表現しつつ「山の字」配置にしています。
・建物 ……【場所(拠点)】【機能】
白抜きはmorinosの建物。
シンボリックなW字丸太のファサードが
「こういう建物(場所)があって、そこを拠点に行われている活動」
ということを表しています。
これがすごく大切。
記号でわかりやすく表すことのできる“他にない形”はこれだけです。
つまり今回のロゴのビジュアル的な主役。
実際にはmorinosの主役は「そこにいる人と森」ですが、
その「人」を集めるために建物の形を使っているわけです。
・長良川 ……【場所(地域)】【理念】
下部の青い直線は、清流長良川です。
川は森とつながって私たちの暮らしを支えているということを表しています。
・文字 ……【名称】【理念】
「morinos」のテキスト。これは硬めのフォントに見えますが、
よーーーく見ると手書きなのです。だからオリジナルフォント。
手書きらしくアウトラインを震わせて有機的にしています。
いいロゴになってる?morinosロゴを評価してみる
ロゴデザインで気を付けることは、一般的に下記の5つと言われます。
印象的(覚えやすい)
普遍的(幅広く行き渡り、長く飽きない)
多面的(使いやすい)
妥当性(それにふさわしい)
シンプルである
この5つの指針に沿って、今回のデザインの評価をしてみましょう。
1、覚えやすいデザインか?(印象的)
デザインはいつも「誰に届けるのか?」を考えるところから出発します。
morinosの場合は「すべての人を森につなぐ」という大きなテーマがあり、
特に「まだ森の楽しさを知らない人たちに森の楽しさや大切さを伝える」ことから、そこには“小さな子ども“が含まれます。
よって、誰にでも意味が分かる「図(絵)」にしました。漢字とかアルファベットの形状を工夫するだけのロゴではなく、言葉を超えて小さな子どもたちにもわかるようにです。覚えやすく楽しさが伝わるように、明るい色にしています。
また、人型が象形文字のように歪んでいることの違和感と、建物のシルエットが記号的なことの対比が強いインパクトにつながっています。
2、幅広く行き渡り、長く飽きないデザインか?(普遍性)
飽きないデザインで大切なことは“複雑にしないこと“です。
人、山、建物、川、文字という単純な要素を単純な形で構成していること。
色を3色(白を含めると4色)に抑えてベタ塗りにしていること。そしてこの配色は変更できること。
最小限の線で構成していること。
無駄を省き、変更できない本質的な部分だけを残すことで、飽きのこない普遍的なデザインにつながっていきます。
3、使いやすいデザインか?(多面性)
実際にmorinosロゴが使われるパターンを列挙してみました。
・WEBサイトの最上部に常に表示される
・チラシやパンフレットなどの紙
・大判ポスター
・木にレーザー加工で掘り込んだプレート
・名刺
・焼印
・備品に貼るシール
大まかに挙げるとこのくらいでしょうか。いくつかわかることがあります。
■「どこに行けばmorinosを体験できるのか」を端的に伝える必要がある。
せっかく建物を覚えやすい形にしたので、チラシなどをつくるときに、
ウラ面の地図を見て初めてその活動拠点がわかるより、建物の形と山がロゴに入っている方がすぐに伝わります。
「ここに来ればいつでも楽しいことをしているよ!」というメッセージが必要です。
■最小サイズは横2、3センチ程度になりそう。
2、3センチまで縮小しても印象が変わらない、シンプルでわかりやすいものが良さそうです。
■モノクロやシルエットのみで使うことも多そう。
シールや看板に使うときは、下地の素材が毎回異なるので、一色で使ったり、シルエットだけで抜き取ったり、季節によって配色を変えたり、いくらでもアレンジが効くように作った方が良さそうです。焼印になっても本質的に変わらないデザインが求められます。だから色にこだわりすぎず、形状だけで成り立つように考えます。
このように、使途を想定しておくことで「使いにくいデザインを回避する」ことができます。
これを頭の片隅に入れて……。
制作では、最初の打ち合わせでmorinosのコンセプトを聞きながら、みんなでロゴを出し合いました。
その場でiPadに、この記事の冒頭にもあるスケッチを描きました。
これがみんなの気に入り、持ち帰って清書してみることに。
で、できたのがこちら。
人が現れて、文字がカチッとしました。山は現実に見える順番と高低差に忠実に描いています。
ところがこれが不評。手書きの文字の方がよかった、という意見が大多数でした。
実はこの段階で既に、よくみると手書きフォントなのですが、あまり伝わらないようでした。
はい。文字以外の要素をシンプルに図形化しました。
山も配置を変えて見やすくしています。
代わりに文字を手書きに。
……なんとなく、弱々しいですね。ビジュアルの「強度」が足りません。
横書きも含めてたくさん並べて検討。
この時点で「横書きでも幅7センチ程度」という寸法で原寸検討しています。
さらにナバさんから2本のラインを追加したものが送られてきました。
「川と大地を表現する二本線」です。
色と要素が増えすぎると、WEBサイトなどに使いにくくなるので、
引き算します。人も無くしてみる?
「人をアーチ状に配置したどうだろう」というナバさんの提案でグッとよくなりました。
ひとつのまとまりが出てきましたよね。
でもまだ文字が決まらない。なにかしっくりきません。
で、この雰囲気を壊さず、覚えやすい文字の形はやっぱりカチッとした形状です。
手書き感は、人型だけの方がロゴの「強度」が上がります。
「i」の字も短く調整。ほぼ出来てきました。
色を整えて、完成!でもまだ安心できません。
いろんなバリエーションを用意して置いた方が使いやすいので、
横書きや反転もつくっていきます。
やっと完成!納品です。
4、それにふさわしいか?(妥当性)
今回、ロゴデザインはアカデミー教職員で構成されナバさんを長とする「生涯教育部門会議」で行いました。
外部のデザイナーに初めから説明するより、
アカデミーとmorinosの意義をよく理解したメンバーで検討した方が良いものができると判断したからです。これが大正解でした。
コンセプトとしっかりと噛み合ったものになりました。
5、シンプルにできているか?
でもちょっと待って。
無駄を省いたっていうけど、人、山、建物、川、文字……まだ要素が多いのでは?
という厳しい意見もあるかもしれません。
確かにもっと減らすことも可能かも?
でもまだオープンしてないmorinosです。自己紹介には、少し多めの意味が込めてある方がいいと思います。
そう、ロゴマークは「自己紹介」になるのです。
morinosがたくさんの人々の記憶に定着したら、
もしかしたら要素が減っていくのもありかもしれませんね。
もう十分に伝わってるな、と思ったらスマートに変化していくのは大切です。
すべての人に伝わるように
こうして、morinosのロゴは出来ました。
「マーク=絵」は言葉を超えてすべての人に伝わります。
いいロゴマークになりましたよね。一人ではなくチームで意見を出し合って良いものが出来ると、とても嬉しいです。
デザインは、論理的に詰めていける「説明可能部分」と、そうでない「説明不能部分」があり、
条件を整理して考えることで、良いものに近づいていくということデザインのプロセスが、
この記事を通して伝わればと思います。
みなさん、morinosがOPENしたら遊びに来てくださいね。
そしてロゴマークがどこにあるか、ぜひ探してください。
木造建築教員:松井匠