morinos前史 ~4つのmorinos~(morinos建築秘話番外編2)
今のmorinosを語るうえで忘れてはならないのが2018年2月~3月にかけて行われた1週間の短期集中設計ワークショップです。
すでに、ブログでも紹介していますが、この中でどのような建築提案がなされていたかを記しておきたいと思います。
過去のブログはこちらから
・森林総合教育センター 木造建築ワークショップ スタート
・木造建築デザインワークショップ 計画案プレゼンテーション
・建築家 隈研吾氏と一緒にデザインワークショップ
この時点でmorinosの原案が実は4つありました。
WS初日の2018年2月26日に出された設計条件を見てみます。
■建築要件----------
構造:木造平屋建て
床面積:延床面積:130㎡程度(±1割程度)
・ 事務所:50㎡程度
・ 交流サロンスペース:70㎡程度(展示・図書スペースを含む)
・ 倉庫:10㎡程度
・ 上記にトイレとミニキッチンも含む。詳細は施主要望書とヒアリングによる。
■性能要件----------
「構造」:耐震等級3
「劣化」:劣化対策等級3
「維持管理」:維持管理等級3
「温熱環境」:温熱等級4以上
「省エネルギー」:省エネルギー等級5
その他、以下の点にも十分に配慮すること
「火災時の安全」、「バリアフリー」、「空気環境」、「光・視環境」、「音環境」、「防犯」
■予算要件
(税抜き工事費):3400万円
■ソフト要件
すべての人と森をつなげ、
森と暮らす楽しさと
森林文化の豊かさを
次世代に伝えていく
・・・それを体現する施設
第一の案「リファレンスデザイン」
実は学生に設計課題を提示する前に、上記の設計条件で実現可能か、教員の松井さんがシンプルな計画を設計してました。(下図)
必要最小限の機能を埋め込んだシンプルな建物です。ちなみに屋根は切妻屋根。
均等に並んだ柱割が美しく、梁も2間程度のスパンしか飛ばしていない無理のない構造です。
これがmorinosに至る最初の設計案です。
課題の中に、空間イメージとして挿入されていました。
この課題出しから約1週間。
学生が寝る間も惜しんで設計に没頭し完成した計画案2案を紹介します。
第二の案「モリノハウス」
チームA 玉置 健二(16期生)・大上 優里恵(17期生)・佐藤 美也子(17期生)
現在のmorinosの印象も感じさせるシンプルな大屋根とガラスで構成された外壁です。
方杖で南の屋根を大きく張り出し、開放的な室内と屋外をつないでいます。
構造は、丸太を使用した樹上トラス構造で、隣接する情報センターをシンプルにした形のアール屋根です。
現在のmorinosでの丸太使用はこの提案がもとになっています。
ゾーニングを見ると、今回の「モリノハウス」をイエとして、そこから演習林のヤマに段階的につながっていく構成です。
イエという意識で、すべての人(登山靴からハイヒールまで)に居心地の良い空間を提案したいとの思いがありました。
室内は倉庫以外ほぼ一室空間で、さまざまな条件に合わせて可変性を持たせています。
空間構成は、現morinosと同じ考え方。
建物と駐車場の間に緩衝帯の緑地を設け室内からと駐車場からの視線や動線を緩やかにつなぐ提案となっています。
この緩衝帯や駐車場部分は、現在、morinosの運営の中で徐々に計画が進行しています。
スタッフが木工や道具整理などを行う作業場は、わざと「見せる作業場」として提案しています。スタッフの動きから、いろいろ気付きを得てほしいという現れです。
現morinosの見せる収納庫の原型ですね。
次にもう1案の紹介です。
第三の案「つながる まざる」
チームB 八代 麻衣(16期生)・坂田 真(17期生)
特別な時じゃなくてもふらっと立ち寄りたくなる、そんな空間を目指して計画しています。
重視したのは2つの視点。
1.つい立ち寄りたくなる居心地の良い雰囲気
・路上のテラス席があるような内と外がつながったカフェっぽい「おしゃれ!」な集いの雰囲気
2.マニアな人だけの空間ではないビギナーに開かれたつくり
・展示物が外からも見えて、内側へ誘導するような展示
このあたりの「おしゃれ!」で興味を惹く展示物のイメージは、現morinosで再現されてますよね。
内と外が緩やかにつながるように、庭を囲むように建物をまげて、いろいろなところから内部の様子がうかがえ、気軽に入れるように。
一方でスタッフのいるオフィスは、全体が見渡せる場所に緩やかな区切りで配置。
構造は、門型ラーメンフレームを連続させつつ曲げて一体の室内空間を構成。
現morinosの大空間を構成するV字柱と大断面集成梁の架構フレームで基本的な構造を担い、不足分を面材耐力壁で構成するというベースになっています。
このラーメンフレームを徐々に曲げることで先が見通しにくい、でもつながっている空間の見え方が非日常な世界を演出しています。
これら、学生チーム2案を短期集中設計WS最終日にナバさんはじめ、関係者、建築家の隈さん等にプレゼンを行いました。
第四の案「morinos 原案」
どちらもいいところがあるが、決め手に欠ける。。。
その場で、両案のいいところを折衷した別の計画案をその場でつくるというリアルタイムな臨場感あふれるエスキスの始まりです。
隈さん自ら、マジックを片手に「モリノハウス」のシンプルな空間構成の上に重ねていきます。
学生だけではなく、林政部長や、ナバさん、涌井学長も、それぞれいろいろな意見が飛び出し、またそれを図面化し、徐々に完成形に向かっていきました。
私も隈さんの向かいで、いろいろな意見を図示化していきます。
1時間ほどの時間で完成した「morinos原案」がこれ。
現在のmorinosの原型ができました。
このあと、どのようにして、morinosが出来上がったかは、morinos建築秘話で詳しく解説しています。
准教授 辻 充孝
morinosマニアック----------------------
実は設計条件の際、ナバさんからいろいろな要望も頂いてました。
さすが、すでに運用イメージがかなり出来上がっているのか、かなり具体的で細かいですね。
現在のmorinosでどこまで実現できているかな・・・。
皆さんも、ぜひ比べてみてください。
<基本的な建物のイメージ>
1 「ウェルカム感」のある開かれた、入りやすい(入りたくなる)雰囲気。
2 1階建
3 気軽に立ち寄れる
4 静かで快適な空間
5 お気に入りのカフェと図書館とサロンが合わさったような空間
6 胎内の中にいるような心地よさ
7 でもここにいると外の森に行きたくなるような気持ちになる
8 小さなお子さん連れの親子が快適な空間
9 ここに来れば何かある!誰かに会える!と思えるような場所
10 境界のない空間
人と森、スタッフと来訪者、子供と大人、室内と屋外、全てがボーダーレス
11 平等な関係性
<建物全体のコンセプト>
1 日本の伝統的な技術とドイツのヴァルドルフ建築を融合させたもの
2 開放的な空間(ガラス張りのイメージ)
3 ウェルカムで、魅力駅な空間
4 パーマカルチャーにおける建築のあり方をふんだんに取り入れたもの
(自然エネルギーの活用。住む人のエネルギー最小限に、リサイクル、マルチパーパス、バックアップシステムなど)
5 建物そのものが持続可能な森林文化の良いサンプルであること
6 四角い大きくてシンプルな空間。(三角とか丸とか奇抜な形はNG)
7 「隔たりがない」「つながる」雰囲気
スタッフと県民 大人と子ども プロとアマ 林業家と教育者
8 靴を履いたまた気軽にアクセスできる
9 ユニバーサルアクセス
10 薪を使った暖房&給湯システム(それを展示として見える化する)
<必要な要素>
(屋内)
① オープンスペース(多目的サロンスペース・展示&本棚スペースも)
② インフォメーション カウンター
③ 図書
④ 展示コーナー
⑤ 事務所
⑥ トイレ
⑦ キッチン(給湯スペース)
⑧ 倉庫
(屋外)
⑨ オープンテラス(屋根付き)
⑩ 簡易シャワー(余裕があれば)
<それぞれの機能についての詳細>
- オープンスペース(多目的サロンスペース)
- 入りやすくて、暖かい雰囲気。
- メインの大きな入り口と、裏口とがある。
(いろいろなところから出入りできると良い。)
- 柱のないオープンスペース
(輪になって座った時に中に柱がないようなつくり)
- 20人から30人が入ってワークショップができる空間
(サロンにもなるし、ヨガやクラフト、セミナーもできる)
- 用途に応じてスペースを自由に変更できるつくり
(椅子&テーブルだったり、床だけだったり、上映会したり。。。)
- 片隅に森に関する本がたくさん並んでる。
- 森で見つけた面白いものを展示できる可動式の台がある。
- 森に関する活動の情報交換(利用者同士含む)コーナーがある。
- トイレや炊事コーナー(セルフカフェなど)が利用できる。
- グループでも使えるし、個人でも使える。(読書や仕事など)
- 外が見渡せて何かあればすぐ外に出られるつくり
(外で何か危険なことが起きそうな時にすぐに出ていける)
- 和める。森に行きたくなるつくり
- ガラス沿いにカウンター席にも展示台にもなるような机もあると良い。
- ガラスを開け放すことができる(外と中がつながる)
- オープンテラス側を開け放してテラスとつなげることができる。
- どんなことをこのスペースでやるイメージか
1 人々が集いここでワークショプを行う
2 特に雨の日に、プログラムの開始やまとめの時に使う
3 カフェスペース
4 もちろん展示や情報も楽しめる
5 図書館から森の本を受け取り試して見たい。 - インフォメーション・カウンター
- 可動式でも良い
- 大人二人が並んで作業してもゆとりのある広さ
- ビジターの対応やイベントのパンフレットや季節の小物を展示。
- 壁になるようなものや、ガラスで塞いだりしない。
- このカウンターの前後で、必要時のみ、事務所とオープンスペースが仕切れると良い。
(普段は開放されている。)
(事務所とオープンスペース間の音と光をある程度抑えられる)
(事務所側をロックしてオープンスペース側だけ使える。とか)
- 子供でも(幼児)でも対応できるような高さ(顔が見える高さ)
- 事務所からオープンスペースが見渡せる。
- オープンスペースからも事務所内が見える。
- カウンター裏(事務所側)には資料やストックをおける棚がある。
- 図書コーナー
- 据付ではなく移動できる棚
- 森や木、教育に関する本・図鑑・絵本がたくさん置いてある。
(天井くらいまでの高さの本棚が4つくらい)
- 子供図書コーナーも
- 誰もが本にアクセスできる
- 展示コーナー
- オープンスペースの一角に(壁やガラス沿い等)展示
- 可動式
- 高さは子供でも届くもの
- 教育的目的を持ったハンズオン展示や閲覧展示の台となる。
- 事務所
- 6人程度が、開放的&クリエイティブに仕事ができる空間
- スタッフ間のコミュニケーションがとりやすい空間
- オープンスペースで起きていることがすぐにわかる
- オープンスペースから見た事務所も雰囲気が良い。
- オープンスペースから声がかけやすい
- ここに仕事したり、集まってグループでミーティングしたり、
作業したり(展示や解説用具の製作)できる空間もある。
コピー機やプリンターやパソコンのスペースも
- どんなことをこのスペースでやるイメージか
1 6人がここで働いたりミーティングしたりしている
2 外からのゲストやクライアントとミーティングする
3 教材を創作する
- トイレ
- ビジターもスタッフも使えるトイレ
- ユニバーサルアクセス
- 子育てママやパパも使いやすいもの
- 森に行きたくなるトイレ
- 簡易キッチン&給湯スペース
- ビジターもスタッフも使える場所
- コーヒーやハーブティーを入れたり、軽食作ったり、洗い物したり
- 洗い物ながらもオープンスペースが見える。
(例えば子供が遊んでる姿をチェックしながら洗える)
- 開放的な空間(オープンスペース)
- 料理教室みたいなものにも対応できるイメージ
- 倉庫
- ウォークイン式の倉庫(両側壁面に棚)
- 環境教育プログラムや野外教育プログラムの備品を保管
- 6〜8畳くらいの広さは欲しいところ
- ある程度の高さ(4m)はあると嬉しい(長いものをしまえる)
- オフィスと外からのアクセスが良い
(屋外)
- オープンテラス(屋根付き)
- 天気の良い日に外でテーブルや椅子でゆっくりとできる空間
- 雨の日は、ここでプログラムをスタートしたりクロージングしたりできる
- 20人くらいが外の空気を感じながらここでプログラム体験できる
- オープンスペースのガラスを開ききるとこのテラスとつながる仕組み。
5. 外で遊ぶ子供たちをここで座りながらゆったりと見守れる。
⑩ 簡易シャワー(余裕があれば)
- 作業をした人やドロドロになった人が汗を流せる簡易シャワー
- 小さくても 脱衣スペースと合わせて幅1m×奥行2m程度
- 2台程度あると嬉しい
- 薪ボイラーシステム+ガスのバックアップシステム
長い・・・・。
たくさんある要望やイメージ。
まだ実現できてないものもあります。
これからも進化するmorinosにご期待ください。