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2021年11月09日(火)

健康で元気で幸せに働けるスマート・ウェルネスオフィス(morinos建築秘話70)

国交省、経産省、環境省のあり方検討会のロードマップでは、2030年の新築建築物はエネルギー消費を実質ゼロにするZEB(ゼロエネルギービルディング)を目指すことになりました。
2050年にはストック平均でのZEBを目標に今後、政策が展開されて行きます。

建物のライフサイクルで考えると60年程度使用する一般的な建物の運用時のエネルギーやCO2、光熱費は、建設時の2~3倍を占めます。
ZEBのように、この運用時のエネルギーをゼロにすることが、CO2の排出抑制に加えて、長期にわたってコストも抑えることにつながります。

これらの運用時のエネルギーやコストの削減が大切なのは当然のことですが、実はもっと大切なことがあります。

スマート・ウェルネスオフィス

スマート・ウェルネスオフィスという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
これは働き手が健康で元気で幸せに働けるオフィスモデルの概念で4つの階層で示されます。(下図)

ベースとなるのは最下段のレジリエンスです。これは耐震・耐風性能に加え、非常時の建物利用者の生命確保に加え、事業継続を可能とする建物と組織です。
morinosでも耐震性能や劣化対策性能はしっかり確保しています。運用面でも管理体制やルールづくりをしっかり進めています。

2段目には、環境負荷を低減する建物性能と運用です。morinosでは、省エネ性(省CO2)を高める性能を実現し、常に実測によって状況を確認、フィードバックを行っています。

さらにその上(3段目)に健康、快適性があります。温熱環境や空気質、音、光環境といった建物利用者やワーカーが健康で快適に建物を利用できる内容が含まれます。

最上段には施設本来の目的である知的生産性の向上(作業効率向上、意欲向上、人材確保の優位性など)を支援するハードとソフトがあるべきです。

この最上段に配置された知的創造や知的生産性の大切さが世界中で注目を集めています。

地域や状況にもよりますが、この運用時のエネルギーコスト(光熱費)を1とすると、家賃が10、人件費が100くらいの比率があるとも言われます。

例えば15坪のオフィスに5人が働いていたとして、電気代が1.5万円とすると、家賃が15万円、人件費は150万円(37.5万×5人)。ありえそうな金額です。
つまり、オフィスでは人件費が最もお金がかかるのです。

働きやすい環境で、仕事の効率(知的生産性)や売上が10%アップしたとすると光熱費の10倍(15万円)の価値が生まれます。

同時に、この施設で働きたいという有能なワーカーを得られたり、つなぎ留める手助けにもなります。

さらに、このような施設では、経営としての将来展望も有望で、総合評価として不動産市場におけるESG投資の対象としても効果的です。

morinosのウェルネスオフィス評価

このウェルネスオフィスを評価する客観的な指標に、以前紹介したCASBEEの拡張版としてCASBEE-ウェルネスオフィスがあります。

1基本性能としての「健康性・快適性」、「利便性」、「安全性」に加え、2運営管理、3プログラムの3つの分類で評価します。

morinosのCASBEE-ウェルネスオフィスの総合評価としてはSランク(★★★★★)です。

※この評価結果は筆者の辻充孝による自己評価による結果です。

レーダーチャートで見ると全体的に高い評価を得る中で、安全・安心性、運営管理がやや伸びきれていません。

そのような評価内容なのか、今後改善が可能なのか、評価の詳細をもう少し詳しく見てみます。

QW1 健康・快適性

ワーカーの健康性・快適性に関するハードウェア(空間・内装、音、光、空気・空調、リフレッシュ、運動)の要素を評価します。

morinosでは、フリーアドレスの働き方を意識して、一室空間で、フロア埋め込みの配線計画やゾーン照明等、ワーカーが自由に設定できる空間構成としています。
また、断熱性能を高め、窓際での温度ムラを低減し、不快な場所を極力排除しました。

一方、音環境に関して吸音材を使用していないことや、更衣室の設置やワーカーの運動を促進するようなハードウェアの設置が無いことで、一部の評価が伸びていません。

このあたりの働きやすさに関して、morinosで働いている方へのアンケート調査を別途行っていますので、次回紹介します。

QW2 利便性向上

ワーカーの健康性・快適性に関連する業務の効率性・コミュニケーションに関する要素(移動空間、情報通信など)を評価します。

morinosには、薪ストーブ横の落ち着いたベンチや明るい空間のソファなど、シーンに応じたコミュニケーションを生み出す空間を設置しています。また、アドレスフリーな運用で、各所で打ち合わせを行うことができるように計画しました。

一方、サーバールームなど局所的な高負荷に対応するようなゾーンが設定されていないことで、情報通信要素が標準的評価(レベル3)になっています。

QW3 安全・安心性

ワーカーの健康性・快適性の基礎となるオフィスの安全性に関する要素(災害対応、有害物質対策、水質確保、セキュリティなど)を評価します。

morinosは耐震性を建築基準法の1.5倍以上を確保しています。
また、使用する建材等も配慮し、VOC等の汚染物質を発生を抑える取り組みを徹底しました。
災害時の非常用電源対応等は確保できていなませんが、昼光利用と薪ストーブで、最低限の活動を行え得るように考えています。

QW4 運営管理

健康性・快適性・利便性・安全性に優れたオフィスの維持管理に関する要素(維持管理、満足度など)を評価します。

清掃のしやすさに配慮した室内仕上げや点検しやすい床下空間などを確保しました。
また、継続的に、温湿度、CO2、エネルギーをモニタリングし、運用にフィードバックしています。

定期的な満足度調査は行っておらず、竣工後1年が経過した時点で実施したのみとなっています。

QW5 プログラム

ワーカーの健康性・快適性・利便性・安全性に優れたソフト(プログラム)の要素を評価します。

岐阜県の施設のため、定期的な健康診断、ストレスチェックを実施しており、カウンセラー制度もあります。
また、岐阜県独自のセキュリティの高いネットワークへの接続とセキュリティを分離したオープンネットワークが整備されています。
運用時においても、必要最低限の感染症対策を整備しています。

知的生産性評価

知的生産性とは大きな概念であり、中間指標として「作業効率の向上」「知的創造の誘発」「意欲の向上」「優秀な人材の確保」などがあります。

これまでの評価内容をこの4つの指標と関連付けて、参考に示しています。

4つの項目について、バランスよく向上していることが伺えます。

 

今回紹介した客観的評価を行うCASBEE-ウェルネスオフィスでは、なかなか良い評価を得られていますが、実際にmorinosで働くワーカーの方の主観的な評価はどのようなものでしょうか。

次回は、主観的な評価と合わせて紹介したいと思います。

准教授 辻充孝

morinos建築秘話の全話はHPから見れます。