名脇役のCLTや構造用合板(morinos建築秘話7)
これまでは表面に見える華やかな木材利用を紹介してきました。
・丸太の素性(morinos建築秘話2)
・樹皮付き方立(morinos建築秘話3)
・表層圧縮・ACQ・圧密 3種類の床材(morinos建築秘話5)
・大断面集成材の登り梁(morinos建築秘話6)
今回は、裏方でmorinosを支える名脇役たち3種類を紹介します。
まずは最近、木造建築業界で話題のCLT(クロス・ラミネーティッド・ティンバー)。
CLTは、板材を繊維方向に平行に接着し、大きな面を作り、その面を直行(クロス)に積層接着(ラミネート)し3層以上の構造を持たせた材の事です。巨大な木のカタマリを作ることができるため、大きな木造建築に用いられることが多いです。こんな木造建築もできるの?というような新しいスタイルの木造建築が出来上がっています。
そんな可能性を秘めたCLTですが、今回は重要な裏方の仕事。
岐阜県産スギ材を3層(11+14+11)接着した36mm厚のCLTパネルです。下の写真はパネルが積みあがっていますのでカタマリに見えますが36mm厚のパネルです。
このパネルをどこに用いたかというと、屋根の水平構面です。下の写真で梁の上に張られた面に用いています。裏方なので、節や色目などを選別した化粧材ではありません。
水平構面は屋根にかかる地震の力をしっかり登り梁に伝え、丸太や壁を経由して基礎、地盤まで伝える最初の仕事を担う重要な場所です。安定した品質と強度が求められます。単なる板で張っていくと、地震の強大な力がかかった時に板同士がずれて(4角い構面が平行四辺形に変形して)うまく力の伝達ができません。そこで四角形が変形しない大きなパネル状のものがより有効です。
構造用合板でも代用できるのですが、屋根の外周部は半外部の屋根部分。
実は竣工したmorinosの天井パネルの奥に見える黒いスリット内部はこのCLTが黒く塗られて見えています。(スリットから覗く登り梁集成材の大きさも実感できるかな)
湿度変化の激しい半屋外ですので、厚みがあり、劣化対策性能が合板より高いと考えられるCLTで水平構面を構成しました。
morinosの天井面を黒いラインで引き締める、デザインとしても、まさに黒子の役割です。
今回のCLTは裏方での活躍でしたが、華やかな表舞台での活躍もできます。先日の高知研修で学生と一緒にたくさん見てきました。学生レポートにもありますので是非ご覧ください。
次に紹介するのは、ヒノキのぎふ証明材を用いた構造用合板。ぎふ証明材は産地認証を取得した合法的に伐採された木材です。
当然ホルムアルデヒドの放散は最も少ないF☆☆☆☆。
合板とは、木材をカツラ剥きした単板(べニア)を奇数枚直行に積層したもの。よく合板のことをベニアと間違われますが、べニアは薄い板1枚のことで、このべニアを積層したものが合板となります。最も古くから使われている木質材料で、合板の中でも強度特性に関する品質管理・評価・保証が厳しく、基準強度も与えられたものが構造用合板です。単なる合板とは、接着剤が大きく異なります。
下の写真は工事中の現場です。竣工した現在では隠れてしまって見えませんが、壁や床の内部に使用されています。壁の構造用合板は、地震や台風の力を、屋根の水平構面から受け取って、基礎、地盤に受け渡す耐力壁として重要な役割を担っています。こちらも、まさに縁の下の力持ちです。
竣工した現在で、構造用合板を見ることができるのは、収納内部のみ。扉を開けると構造用合板がアラワシで使用されています。
新たに棚板を取り付けたりフックをつけるなど、ビスの効く下地として活用できます。(一般的な壁下地の石こうボードではビスがききません)
最後に紹介するのは、製材された木材です。適材適所に岐阜県産のスギ材とヒノキ材を使用しています。
当然、使用するのは、「ぎふ性能表示材」。ぎふ証明材の産地認証に加え、構造設計に必須の曲げ強度と含水率も計測され表示された材です。
そのうえで工務店さんの方でも、グレーディング(曲げ強度を計測)もかけて品質管理をしています。さらに、私たちも含水率計で、品質の確かさを確認しました。
ここまで検査された製材品をどこに使用するかというと、床下に隠れてしまう土台や大引、壁の中に隠れてしまう柱など、竣工後は見えなくなる箇所です。
こういった隠れてしまう材こそ、丁寧な品質管理が必要です。
乾燥が不十分であれば、材の収縮によって表面の仕上げ材が動き、ひび割れや建具の建て付けなどの不具合が出やすくなってしまいます。また表面から見えないため、不具合が出ても気付きにくいため、当初からきちんとした品質確保が重要になってきます。
今回は、建物をしっかり支える名脇役のCLT、構造用合板、製材品を紹介しました。こういった見えない箇所にこそ、建物全体の品質を高める工夫があるのです。
准教授 辻 充孝