杉の木7本が蓄えている二酸化炭素の排出量(morinos建築秘話69)
3回にわたって1件間実測したmorinosのエネルギー消費量の分析を行ってきました。
・エネルギー消費量の実測(morinos建築秘話66)
・エネルギー73%削減 morinosの実績(morinos建築秘話67)
・morinosエネルギーの用途分解(morinos建築秘話68)
エネルギー消費量がわかれば、そこから二酸化炭素(CO2)排出量や光熱費に置き換えて考えることも可能です。
今回はCO2や光熱費に関してみてみます。
カーボンニュートラル宣言
2015年に採択されたパリ協定を受けて、世界の主要国でCO2などの温室効果ガス排出量を実質ゼロへの目標が掲げられています。
日本も、2020年10月に菅首相がカーボンニュートラル宣言を行い、2050年にはネットゼロを目指すことになりました。
中間目標としては、第5次エネルギー基本計画の2030年に温室効果ガス排出量を2013年比で26%削減だったものを2021年4月に46%削減に引き上げ、各分野でのさらなる強固な対策が必須となります。
温室効果ガスにはCO2のほかにもメタンや一酸化二窒素、代替フロン等があり、世界的に見たCO2の温室効果ガスに占める割合は、2019年時点で65%ですが、日本では90%近くがCO2(森林吸収除く)です。そのため、日本では温室効果ガス削減というと、CO2を基本に考えてよいと考えられます。
エネルギーとCO2
エネルギー削減とCO2削減、似たようなイメージを持っているかもしれません。
エネルギー起源のCO2が日本の温室効果ガスに占める割合の85%程度を占めているので、エネルギー消費を減らすことがCO2削減につながるのは確かです。
つまり、まず考えるべきは、省エネと創エネで化石由来のエネルギーを減らすことです。
ですが、エネルギーとは異なりCO2を削減する手法は他にもあります。
再生可能エネルギーの利用や原子力による電気の使用、森林吸収、カーボンオフセット等の手法です。
なるべくならリスクの少ない手法で、我慢することなく減らしていきたいものです。
morinosのCO2排出量
morinosのCO2排出量を計算してみましょう。電力消費量から換算できます。
CO2排出量は同じ電力使用量でも、電力事業者ごとに異なり、再生可能エネルギーを中心に発電している事業者から購入すればCO2排出量は少ないですし、古い石炭火力発電の電力を中心に使用している事業者から購入すれば同じ電力消費量でもCO2排出量は多くなります。
この電気1kWhあたり、どのくらいのCO2が排出されているかを示すCO2排出係数は、毎年、環境省が公表しています。下記リンクの排出係数の小さな事業者に変えるだけでもCO2排出量が減らすことができます。
温室効果ガス排出量 算定・報告・講評制度(環境省HP)
アカデミーが契約している電気事業者は、R1年度実績の電力事業者はリストになかったため、代替値の0.000470 t-CO2/kWh(0.470kg-CO2/kWh)を用いて計算してみます。
これは、morinosで1kWhの電力を使用すると、0.470kgのCO2を発生していることになります。
「エネルギー消費量の実測(morinos建築秘話66)」では、電力使用量に一次エネルギー換算係数を乗じて、一次エネルギーに換算しましたが、今回はCO2排出係数を電力使用量に乗じることでCO2排出量に換算できます。
今回は電力だけなので、グラフの見た目は、電力消費量やエネルギーと変わりません。
多い時で1日あたり18 kgのCO2を出しています、年間では、2,164 kgのCO2排出量です。
年間 約2 tのCO2排出量ということになります。
2 tと聞いてもなかなかピンときません。別のたとえに置き換えてみましょう。[※]
・杉の木(36~40年生)約7本が蓄えている量
・杉の木(36~40年生)約250本が1年間に吸収する量
・日本人1人あたりの年間CO2排出量
※林野庁HP「森林はどのぐらいの量の二酸化炭素を吸収しているの?」より1haあたり1,000本と想定した値
CO2は、なかなかイメージしにくいですが、いかがでしょう。
アカデミーの学生さんなら木に例えるとイメージしやすいかな。
当然、用途別にも換算し直せます。(下記グラフ)
月々200 kg弱のCO2排出量です。夏の冷房で月に100kgのCO2排出といったところです。
設計段階のライフサイクルCO2との比較
設計段階では、CASBEEで評価した際にライフサイクルCO2(LCCO2)が計算されています。
・環境性能を総合的に評価するCASBEE ~環境負荷低減の取り組み~(morinos建築秘話43)
・CASBEE Sランク~環境品質向上の取り組み~(morinos建築秘話44)
再度確認してみましょう。
※ブログ時点の評価からCO2モニターの設置などで、評価が少し向上しています。
上のグラフを見ると①~④まであります。
①の参照値は、標準的な同規模、同用途の建築のCO2排出量です。
②の建築物の取り組みは、評価したmorinosが排出するCO2排出量です。
③は太陽光発電など敷地内での削減の取り組みを評価に加えた場合です。
④はカーボンオフセットやカーボンクレジットなどの敷地外での取り組みを評価に加えた場合です。
morinosには単独の太陽光発電やカーボンオフセット等を行っていませんので②が設計段階での評価です。
②のグラフを見ると、建設 、修繕・更新・解体、運用の3つの段階で評価されており、床面積1㎡あたり、1年あたりで表示されています。
※ 建設時は、短期間の工事期間に大量のCO2を排出しますが、耐用年数に応じて割り戻して1年あたりで表記しています。
上記の値に床面積、耐用年数(今回は60年想定)を乗じれば総量を求めることもできます。
②のグラフを見ると、運用時が大きく削減されちょうど、建設 、修繕・更新・解体、運用が1:1:1程度になっています。
今回の実測は運用時の1年間の値ということになります。
更なる省エネと創エネを組み合わせてゼロエネルギービルディング(ZEB)になると運用時がゼロになりますので、建設 、修繕・更新・解体をどのように減らすのかが次のステップになってきます。
鉄筋コンクリート造や鉄骨造に比べて、木造建築は建設時のCO2排出量が少ないと考えられます(工法によって差異があります)が、詳細なデータがそろっていないため、CASBEE建築では鉄骨造と同等として計算されてしまっています。
CASBEE戸建てでは、詳細な計算データから鉄骨造の概ね半分程度のCO2排出量としていますので、適切に建設されれば、建設時のCO2排出量を削減することができると考えられます。(個別に計算すれば建設時のCO2も出せますが、膨大な計算が必要です)
世界のトレンドは木造建築になってきました。
※CASBEEにおいて、 建設段階での削減は高炉セメントなどのリサイクル建材の使用や既存躯体の再利用で減らせます。また 修繕・更新段階では、内外装の更新周期の長い建材の利用等で減らせます。
今回の実測は運用時のみですので、運用時のみを取り出して、実績値(最上段)と、設計値(エネ評価とCASBEE)、標準値(エネ評価とCASBEE)を並べてみましょう。
概ねエネルギー評価と同様の結果で、運用の工夫でCO2排出量を減らしているのがわかります。
(CASBEE設計値にはその他エネルギーが入っていないので注意)
morinosの光熱費
次に光熱費にも換算してみます。
森林文化アカデミー全学の電気単価は、実績から基本料金を加味して約16 円/kWh程度です。
電力使用量に単価を乗じると光熱費が想定できます。
年間で、7万円強です。
一般家庭の光熱費が4人家族で25万程度[※]ですので、1/4程度の光熱費になります。
※自立循環型住宅への省エネルギー効果の推計プログラムのデフォルト値の光熱費
夜間にあまり使用しないという特殊な運用ですが、一般家庭と比べて少ないと感じませんか。
断熱や日射取得などの躯体性能の強化とLED照明やエアコンなどの省エネ設備と、運用者のこまめな開口部の開け閉めや機器のオンオフなどの取り組み効果です。
月々の光熱費を見ても、多い月で8,000円を超えるくらいです。冷房で1月3,400円くらいですね。
エネルギーからCO2や光熱費といろいろ換算できます。
わかりやすい指標で、考えてみるとエネルギーが身近に感じられます。
光熱費がエネルギーやCO2よりもイメージしやすいかな。
morinos建築秘話の全話はHPから見れます。